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第15章 主人公と兄

主人公家の伝承

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 「アミィ、出来たよ」


 「わあ、セオ様お手製のクッキー!」



 セオドアは綺麗に並べられた色とりどりのクッキーが乗った皿をアミィールの前に持ってきた。アミィールはそれを見るなり笑顔を浮かべる。


 ___結婚して1年が経った。婚約して2年………なんて、律儀に覚えている俺はやっぱり乙女なのかもしれない。



 そんなことを思いながら笑みを浮かべるのは、群青色の短髪、緑色の瞳のセオドア・リヴ・ライド・サクリファイスだ。


 ギャルゲー『理想郷の宝石』の主人公であるが、攻略対象とは結婚せず、目の前でクッキーを食べる紅銀色のストレートヘア、黄金色の瞳を持つサクリファイス大帝国皇女、アミィール・リヴ・レドルド・サクリファイスに求婚され、結婚したのだ。



 共に居て2年、相変わらず2人はおしどり夫婦である。現在も沢山の執務を終わらせてきた愛おしい奥方をもてなし、奥方も笑顔で愛おしい殿方を癒している。



 「………やはり、セオ様のお菓子は美味しいですわ。

 食べすぎて、太ってしまいそう………」


 そう少し不安そうにお腹を撫でるアミィール様が愛おしくて、自然と頬が緩む。むしろ太って欲しい。アミィール様は筋肉はついているが、それでも細すぎると思う。いつも抱きしめる時力加減をしなければ簡単に壊れてしまいそうで怖いレベルだ…………!


 なんて言えるわけがなく。けれど、やんわりと伝える。


 「アミィは少し細すぎだから………」


 「………細すぎだと、魅力はないでしょうか………」


 「そ、そうではなく!アミィは細いと言っても胸は大き………ッ!」



 セオドアは慌てて口を手で覆う。何言ってるんだ俺ー!?不純だ、女性の胸を大きいなんて言うなんて………!


 それだけでも顔を赤くする乙女もといヘタレ主人公の言葉を聞き逃す皇女ではなく。アミィールは少し目を細めて聞く。


 「セオ様は、わたくしの胸が大きいとお思いなのでしょうか?それは、嬉しいことでしょうか………?」



 「う、うう……………」



 セオドアはかあ、と茹でダコよりも顔を赤くする。


 勿論嬉しいさ!アミィール様の胸が大きくて柔らかくていつも顔を埋めてしまうんだぞ!最近では胸で顔を抱き締めて貰えないと寝れないくらいに!けど!そんなこと言えるわけがない!


 ああ…………結婚しても、俺はなんて女々しいんだ…………これを廊下で聞いているであろうレイは笑っている……絶対だ……………


 顔を赤らめながらぷるぷると震えるセオドア様。…………やっぱり、可愛いです。意地悪なことを言うと、いつもこうして子犬のように震えて。これを1度知ってしまうと中毒になってしまいます。


 そろそろいつも通り顔を持ち上げ、キスを………………?



 アミィールはそこまで考えて、伝達魔法が来る気配を感じる。それと同時に窓からコンコン、という音がした。


 見ると、外には鳩が。………これは、オーファン家特有の伝達魔法ですね。


 そう思ったのは私だけでなく、オーファン家出身のセオドア様もわたくしの視線を追って「あ!」と声を上げて立ち上がった。

 *  *  *




 アミィール様の甘い意地悪を受けている時、アミィール様の動きがふと止まって、視線の先を見たら____鳩が居た。胸には、オーファン家の家紋がついている。



 あれはオーファン家全員が使える特殊な伝達魔法だ。
 ヴァリアース大国で代々宰相をしているオーファン家には、不思議な言い伝えがある。

『オーファン家は元々空に住んでいて、地上の美女を好きになり天下りした』と。

 これはギャルゲー『理想郷の宝石』にも出てこなかった話だから中々信じられないが、この鳩の形の伝達魔法はオーファン家しか使えないし、俺の使うフライは背中に翼が生える。だから、一概に言い伝えとも言えなくて不思議であるのだが。


 それはともかく、この鳩は家族から来た手紙なのだ。

















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