191 / 469
第13章 主人公と擬似育児
さまよう心
しおりを挟む「ひっく、っぐ……………!」
アミィールは自室のベッドで泣いていた。理由はヨウの事だ。
ヨウ様は____初めて、初めて穢れたわたくしに抱かせてくれた赤ん坊だった。この先、そのような子供は現れないかもしれない。お母様はわたくしを産み落とせたけれど、わたくしはお母様のように強くないから産めないかもしれない。
子供ができる前に死んでしまうかもしれない身体だ。それに、産めたとしても、わたくしのように身体が脆いかもしれない。呪いに苦しむかもしれない。
ならば。
わたくしを慕ってくれているヨウを養子に取ればいいじゃないか。穢れた血も断てる。立派に育てれば国だってあの子なら背負える。
その反面___この考え方が間違っているのかもとも思う。
アミィールは泣きながら、すっかり血が滲んでしまった唇をなぞる。………この血は、わたくしの全てだ。この国の罪の証だ。この血を受け継いでいない者が立てるほど此処は甘い国じゃない。業が深い国なのだ。
お父様、お母様のように強く在らねばならない。今は存命しているけれど、死んだらわたくしが背負う。それは物心ついていた時から覚悟していた。沢山のものを見て、聞いて、自分で調べて…………この国の歴史も呪いも全て何もかも知った。
これを背負えると思ったのはこの血のおかげだ。わたくしが此処で自分らしく居られるのも紛れもなくこの血のおかげなのだ。
…………それを、血の繋がりのないヨウに任せるのは正直不安でしかない。"好き"と"託す"は違うのだから。
_____こんなに、苦しい。自分の感情をどう処理すればいいのか、未熟なわたくしにはわからない。
「わたくしは、どうすればいいの____!」
そう呟いた時、コンコン、とノックが鳴った。誰であれこんなに酷い顔は見せられない。わたくしは、この国を将来背負って立つ人間なのだ。合わせる顔などない。
アミィールは黙る。しかし、鳴り続けるノック音。絶対出るものですか。
「______アミィ」
「…………!」
外から、愛おしい人の声が聞こえた。
心が揺れた。会いたいと思ってしまった。でも。合わせる顔はないのだ。答える言葉も、今は紡げないのだ。
だから黙ったのに____愛おしい、優しい声が外から聞こえた。
「アミィ____開けてくれなくていいから、このまま聞いて。
ヨウくんは……………孤児院の子だ。けれど、貴方が初めて触れた子でもある。
俺は……………貴方が言いたいことも、ラフェエル皇帝様達が言いたいこともわかる」
諭すような声に、わたくしは再び涙を流す。だって、あんなにはしたない姿を晒してしまったのに、こんなにも優しい声で話してくれるから。
愛おしい御方の声は、止まらない。
「___養子に来なくても、俺が貴方を孤児院に連れていくよ。
俺は………………これから、アミィとの間に子を持ちたい」
「____!」
控えめで内向的な愛おしい御方のストレートな言葉に、顔が熱くなる。最近は欲望を出してくれるようになったけれど、それは毎度の事ではなく。本当に昂った時にしか吐き出してくれないのに。…………子供が欲しくないのかも、なんて思っていたのに…………あ。
ふと、気づく。涙、止まってる…………
1人暗闇の中そう思うアミィールに、優しい言葉が降りかかる。
「ヨウの事は好きだよ。養子にしたら大事にするだろう。…………けれど、血の繋がらない子供と、血の繋がった子供、……どうしても、周りに比べられ、俺自身も差別をしてしまうかもしれない。傷ついてしまうかもしれない。
それは、ヨウにとっても、俺にとっても…………嫌だ。
だから、俺は____!」
愛おしい御方の声の途中に、とうとうわたくしは起き上がって扉を開けた。目の前には愛おしい御方…………セオドア様。セオドア様は群青色の前髪が崩れていて、緑色の瞳を見開いていた。僅かに涙も滲んでいる。なのに……………わたくしを見て、優しく笑った。
「____アミィ、やっと出てきてくれたね」
「セオ様、申し訳___ッ」
セオドアはアミィールの謝罪を聞くより早く抱き締めてキスをした。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
当て馬の悪役令嬢に転生したけど、王子達の婚約破棄ルートから脱出できました。推しのモブに溺愛されて、自由気ままに暮らします。
可児 うさこ
恋愛
生前にやりこんだ乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。しかも全ルートで王子達に婚約破棄されて処刑される、当て馬令嬢だった。王子達と遭遇しないためにイベントを回避して引きこもっていたが、ある日、王子達が結婚したと聞いた。「よっしゃ!さよなら、クソゲー!」私は家を出て、向かいに住む推しのモブに会いに行った。モブは私を溺愛してくれて、何でも願いを叶えてくれた。幸せな日々を過ごす中、姉が書いた攻略本を見つけてしまった。モブは最強の魔術師だったらしい。え、裏ルートなんてあったの?あと、なぜか王子達が押し寄せてくるんですけど!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる