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第13章 主人公と擬似育児

さまよう心

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 「ひっく、っぐ……………!」



 アミィールは自室のベッドで泣いていた。理由はヨウの事だ。


 ヨウ様は____初めて、初めて穢れたわたくしに抱かせてくれた赤ん坊だった。この先、そのような子供は現れないかもしれない。お母様はわたくしを産み落とせたけれど、わたくしはお母様のように強くないから産めないかもしれない。


 子供ができる前に死んでしまうかもしれない身体だ。それに、産めたとしても、わたくしのように身体が脆いかもしれない。呪いに苦しむかもしれない。


 ならば。


 わたくしを慕ってくれているヨウを養子に取ればいいじゃないか。穢れた血も断てる。立派に育てれば国だってあの子なら背負える。



 その反面___この考え方が間違っているのかもとも思う。


 アミィールは泣きながら、すっかり血が滲んでしまった唇をなぞる。………この血は、わたくしの全てだ。この国の罪の証だ。この血を受け継いでいない者が立てるほど此処は甘い国じゃない。業が深い国なのだ。


 お父様、お母様のように強く在らねばならない。今は存命しているけれど、死んだらわたくしが背負う。それは物心ついていた時から覚悟していた。沢山のものを見て、聞いて、自分で調べて…………この国の歴史も呪いも全て何もかも知った。



 これを背負えると思ったのはこの血のおかげだ。わたくしが此処で自分らしく居られるのも紛れもなくこの血のおかげなのだ。



 …………それを、血の繋がりのないヨウに任せるのは正直不安でしかない。"好き"と"託す"は違うのだから。


 _____こんなに、苦しい。自分の感情をどう処理すればいいのか、未熟なわたくしにはわからない。



 「わたくしは、どうすればいいの____!」




 そう呟いた時、コンコン、とノックが鳴った。誰であれこんなに酷い顔は見せられない。わたくしは、この国を将来背負って立つ人間なのだ。合わせる顔などない。



 アミィールは黙る。しかし、鳴り続けるノック音。絶対出るものですか。




 「______アミィ」



 「…………!」




 外から、愛おしい人の声が聞こえた。
 心が揺れた。会いたいと思ってしまった。でも。合わせる顔はないのだ。答える言葉も、今は紡げないのだ。



 だから黙ったのに____愛おしい、優しい声が外から聞こえた。


 「アミィ____開けてくれなくていいから、このまま聞いて。


 ヨウくんは……………孤児院の子だ。けれど、貴方が初めて触れた子でもある。

 俺は……………貴方が言いたいことも、ラフェエル皇帝様達が言いたいこともわかる」


 諭すような声に、わたくしは再び涙を流す。だって、あんなにはしたない姿を晒してしまったのに、こんなにも優しい声で話してくれるから。


 愛おしい御方の声は、止まらない。



 「___養子に来なくても、俺が貴方を孤児院に連れていくよ。


 俺は………………これから、アミィとの間に子を持ちたい」



 「____!」



 控えめで内向的な愛おしい御方のストレートな言葉に、顔が熱くなる。最近は欲望を出してくれるようになったけれど、それは毎度の事ではなく。本当に昂った時にしか吐き出してくれないのに。…………子供が欲しくないのかも、なんて思っていたのに…………あ。


 ふと、気づく。涙、止まってる…………


 1人暗闇の中そう思うアミィールに、優しい言葉が降りかかる。


 「ヨウの事は好きだよ。養子にしたら大事にするだろう。…………けれど、血の繋がらない子供と、血の繋がった子供、……どうしても、周りに比べられ、俺自身も差別をしてしまうかもしれない。傷ついてしまうかもしれない。

 それは、ヨウにとっても、俺にとっても…………嫌だ。


 だから、俺は____!」





 愛おしい御方の声の途中に、とうとうわたくしは起き上がって扉を開けた。目の前には愛おしい御方…………セオドア様。セオドア様は群青色の前髪が崩れていて、緑色の瞳を見開いていた。僅かに涙も滲んでいる。なのに……………わたくしを見て、優しく笑った。




 「____アミィ、やっと出てきてくれたね」



 「セオ様、申し訳___ッ」




 セオドアはアミィールの謝罪を聞くより早く抱き締めてキスをした。









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