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第11章 人外皇女の秘密
20年越しの片想い
しおりを挟む国民の武術教育というのは、サクリファイス大帝国の古い風習で『国民全員に武術を身につけさせる』目的で皇族自らその手管を教えるというものだ。もう平和な国ではあるのだけれど、習慣化してしまったこの教育をやめて欲しくない!と国民が声を上げているのだ。
珍しいだろう?国民は女性も子供もみんな怪我をしない程度に自ら武器を持ち、一人一人この国を守ろうとしているんだ。…………そりゃあ、武器を持つことがいい事だとは言わないけれど、その国民の意識の高さは大好きだ。改めてサクリファイス大帝国は素晴らしい国だと思う。
「セオ様、とてもにこにこしてますね」
「うん、やっぱりこの国は素敵だなと実感していたんだ」
そう言って幸せを噛み締めて嬉しそうに笑っているセオドアを見て、アミィールの頬も自然と緩む。優しく少し細めの腰を引き寄せて、ソファに移動した。
愛する旦那を座らせてから、身体を擦り寄らせ甘く耳元で囁く妻。
「そう思われて嬉しいです。…………けれど、1番素敵なのはセオ様ですよ」
「…………ッ」
甘い声に甘い言葉。それだけで顔の熱が急上昇する。………もう結婚して1年になるというのに俺はこの声も甘い言葉もなれないって……………俺、一生この人に慣れる気がしない。なのに一緒にいて安心して……幸せで甘くて安心する気持ちがごっちゃになって、やっぱり言葉に詰まってしまう。
モジモジとして下を向いてしまう愛おしい人を目を細めて笑ってから、アミィールは口を開く。
「それより、フラン様とダーインスレイヴがどうなさいました?またちょっかいをかけられたのですか?」
「あ、いや、そうじゃなくて。………フラン様がダーインスレイヴ様のことを好きなのだと知って、驚いていたのだ」
「あら、知らなかったのですか?」
「え、アミィは知ってたのかい?」
「ええ。フラン様はわたくしが産まれる前からずっとダーインスレイヴ様に求愛していますわ」
「そうなのか!?」
セオドアは思わず大きな声を出す。アミィール様は俺と同じ18歳だ。つまり、18年も片思いをしていることになる。………いや、旅の時から好きだったとすると………20年!?20年も誰かを愛せる者なのか!?……いやっ!クリスティド国王陛下も未だにアルティア皇妃様が好きだし………おかしいことではない、素敵なことだ、でも。
「そんなに片想いができるなんて、凄いな…………」
「しつこいだけですわ…………と、言いたいところですけれど」
「?___ッ」
アミィールはそこで言葉を切って、セオドアの唇を奪う。深いキスではない、優しい、触れるようなキス。突然のご褒美に驚きながらも、嬉しそうに受けるセオドア。暫く互いの唇を堪能してから離れて、熱い視線で愛する男を見つめた。
「_____仮に、初めてセオドア様に求婚した時断られていたら、わたくしもセオ様に振り向いて貰うまで想い続けていたと思います」
「……………!」
セオドアはそれを聞くと目を見開いて一気に顔を赤く染めた。本当に、この人はどこでこんなかっこいい言葉を知ってくるのだろう。心臓がもう痛いくらいだ。嬉しすぎて涙だって出る。今日も俺、泣きすぎじゃないか?涙腺仕事してる?
「………ふふ。こんな可愛らしい殿方、ユートピアのどこを探してもおりませんわ。
わたくし、セオ様に出会えた事が最大の幸福ですもの」
「ッ、………それは私も同じです。きっと、アミィール様がお声を掛けなくとも、私は…………」
声を、掛けていたか?
言い終わる前にふと、考える。
あの時声をかけられていなかったら一生関わらなかったと思う。関われなかったと思う。…………こんなに甘くて幸せな思いはできなかったと思う。
そう思うと不思議とこの運命が嬉しくて、アミィール様がいなければ部屋で暴れ回っていたくらい喜んでいただろう。アミィール様がいて、それが出来ないから代わりに俺の目の前にいる愛おしい人を強く抱き締めた。
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