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第10章 新婚旅行は海がいい
濁っている海の理由は
しおりを挟む「おお…………」
しばらくキスをし、甘い雰囲気を堪能してから俺は海に足をつけた。もう秋だと言うのに温かい気候だから、水の冷たさが気持ちよく感じた。しかも透けていて水中が丸見えで、綺麗な貝殻が沢山ある。それらが凄く可愛くて、手に取ってみたり集めたりするのが楽しい。
「アミィ、見てくれ。この貝殻とても綺麗……………だ?」
貝殻を持って振り返ると___アミィール様のお顔が優れないことに気づく。俺一人で楽しんで、アミィール様のことを失念するなど………!
そう考えたセオドアは慌てて砂浜にいるアミィールに駆け寄った。
「アミィ、大丈夫かい?具合が悪いのかい?」
「いいえ、そうではないのですが____なんだかこの海、少し加護が薄れているのです」
「加護?」
俺は聞き返す。加護とはなんなのかわからない。アミィール様は首を傾げながら俺の問いに答えてくれる。
「このシースクウェア大国の海は、海の妖精神が管理しているのです。だからこそ綺麗なのですが…………今日は少し濁っています」
「え…………?」
こんなに綺麗なのに、濁っている………?
今一度、海を見る。どこからどう見ても綺麗である。エメラルドグリーンが陽の光に当たってキラキラしているのに…………
しかし、アミィール様のお顔は暗い。このユートピアを管理しているサクリファイス大帝国の皇族であるアミィール様は少しの変化に気づき、原因を考え対処することの出来る素晴らしい御方故に、絶賛考え中なのだろう。…………何か力になりたい。けれど、俺にできることなんて何も無くて。必死に考えている間にもアミィール様のお顔は暗くなった。
「マリン様になにかあったのでしょうか………………?」
『そうなんだよ!』
「!」
不意に、後ろから溌剌な男の声がした。びっくりして振り返ると___藍色の髪、金色の瞳にセーラー服を着た男の子がふわふわと空中に浮いていた。だ、誰…………?
首を傾げるセオドアを他所に、アミィールは大きな声を出した。
「アクア様!」
『アミィール~!』
「きゃっ」
「!」
アクア、と呼ばれた男の子はアミィール様に抱き着いた。………相手は子供だ、わかっている。けれど、男でもある。大人気なく嫉妬する俺に、アミィール様は首だけをこちらに向けて、困った顔で言った。
「セオ様、この方は水の精霊のアクア様です。………アクア様、お戯れをおやめ下さい、夫の前で他の殿方に抱き締められたくありません」
『そんなこと言ってる場合じゃないんだよ~!聞いてよアミィール~!
マリンの力が弱っているんだ!』
「ええ!?」
男の子は泣きじゃくりながらそう言った。それを聞いてアミィール様は目を見開く。俺はわからなくて、アミィール様に問うた。
「あの、マリンというのは………?」
「………マリン様は海の妖精神でございます。この海は勿論、このユートピアの海はマリン様が管理しているのです。
しかし____そのお力が弱っているとなると………海の均衡が………」
「………!」
アミィール様が深刻な顔をしている。流石の俺も理解ができた。海を管理している妖精神が弱ったら、この海がどうなるかわかったものじゃない。もしかしたら、海が荒れたりサンゴなどの特産物が枯れ果てたり…………
想像するだけで震え上がる。シースクウェア大国の危機じゃないか!
『ひっぐ、だから、助けて欲しいんだ…………僕、マリンの苦しんでいるところを見たくないよぉ…………!』
男の子は声を上げて号泣している。誰かが泣いているのを見ると泣きそうになってしまう俺は勿論じわ、と目元が濡れていて。
未だに泣いているアクアとその横で泣きそうになっているセオドアを見て、アミィールは口を開いた。
「…………アクア様、わたくし達をマリン様のお膝元へお連れくださいませ。
セオ様、………新婚旅行の最中ですが、少し海の妖精神の所に共に来てくださいませんでしょうか………?」
「もちろんだ!」
セオドアは力強く頷いた。アミィールは少し残念そうにしながらも、小さく微笑んだ。
新婚旅行を楽しみたかったですけれど………他国の、自分と関わりのない精霊に大して涙を流してしまう心優しいセオドア様のお気持ちを無視などできませんわ。
妖精神のことはサクリファイス大帝国皇族と浅からぬ縁ですし…………事情を聞くくらいしなくては。
アミィールは向かいながらそう思った。
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