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第9章 慌ただしい日常
芳醇な香りの本音
しおりを挟むわたくしは小さい頃からお酒を嗜んでいた。
お母様は『お酒は20になってから!』なんて意味のわからないことを仰ってましたが、『皇族である以上お酒に弱いなどという弱点があってはいけない』というお父様の言葉に納得して飲んでいたから耐性がある。
けれど、セオドア様はそうではないようで。
アミィールはちら、と隣を見る。
「ひっく、………」
顔を赤らめ、緑の瞳を蕩けさせたセオドア様。どうやら、お酒は得意ではないらしい。まだ1本も開けてない。1杯しか飲んでいないのにこのようなお顔になるのは余程お酒に弱いのでしょう。
レイ様の意図はわかりませんでしたが、ここまでにした方がいい気がする。
そう思い至ったアミィールはぼうっとしているセオドアに触れる。
「セオ様、お酒はこれくらいにして寝室に____!」
言い終わる前に、唇を重ねられた。お酒の味がする口内に甘さは無い。ワインの芳醇な香りのするキスはいつもの優しいものではなく、荒々しいもので。
「ん、ふ、ぅ…………」
息ができないほど深いキスをされる。そのまま押し倒され、いつもより乱暴なセオドア様を抱き締める。荒々しいのに、愛している御方のキスはどれも嬉しいのだ。
暫くその深く芳醇なキスをして、銀の糸を引いて離れた。
「は、セオ、様…………?」
「……………セオ様じゃ、ない」
「え?」
セオドア様のお顔は___見たことも無いくらい男らしい顔で。懇願するような、それでいて怒っているような…………緑色の瞳が揺れている。セオドア様は低い、それでいて甘い声で言う。
「アミィには、セオと呼んで欲しい…………もっと、アミィと親しくなりたい、もっと____愛したいんだ。
ひとつに、なりたい」
「…………ッ!」
あの内向的なセオドア様が、切ない声で饒舌になっている………………
顔に熱が篭っていくアミィールを他所に、すっかり酔ってしまったセオドアの言葉は止まらなかった。
「アミィを俺のものにしたい…………もっともっと、求めたい…………1度だけじゃ、足りないんだ………俺の欲望を全部受け止めて欲しい……我慢したくない……アミィ、好きだ」
「セオ様____っきゃ!」
セオドアはアミィールが何か言う前に、抱き上げた。アミィールにいつもされているようにお姫様抱っこをして無言で寝室に向かう。
そして、アミィールを優しく降ろしてから、自分のタイを外した。
「アミィ____もっと、もっと愛させて。
アミィの乱れた顔が好き。アミィの甘い声が好き。アミィの身体が好き……………アミィは、全部俺のものだ。
だから、どうか俺の醜い欲望を____受け止めてくれ」
「ん、っ」
セオドアはそう言って、再びキスをする。さっきと同じ、荒々しく乱暴なキス。
……………こんなセオドア様、初めて見た。
豹変した性格。でも…………どの言葉にも、わたくしへの愛に溢れていて。
_____セオ様の、本音?
お酒を飲むと、本音が出るの?
いつもお優しいセオドア様は好きだ。恥ずかしがり屋なセオドア様も好きだ。たまに出る男らしさも___好きだ。
この豹変したセオドア様は____偶にしか出ない男らしい、セオドア様で。
そのセオドア様が、こんなにもわたくしを求めて下さっている。
それに、先程の言葉。
………………わたくしの身体に魅力がなかったわけではない。
セオドア様は____わたくしを想って我慢をしていただけなんだ。
そう思うと、凄く嬉しくて。
凄く幸せで。…………やっぱりわたくしは、この人でないとダメなんだ、とキスをしながら思った。
この後わたくしは____沢山、沢山セオドア様に愛されました。
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