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第9章 慌ただしい日常
愛しい貴方と共有したい
しおりを挟む「でも、本当に甘いですわ」
アミィール様はにこにこしていらっしゃる。それはもう幸せそうに。見ているだけで、恥ずかしさよりも幸せな気持ちになった。
アミィール様はいつだって、俺のお菓子をこの顔で食べてくれる。それが嬉しくて沢山作ってしまうのだ。負のループ、ではなく吉のループである。
そう考えると、俺の口だって緩む。
「気に入ったかい?沢山あるから、よかったら仕事中にでも食べておくれ」
「そんなことしたらセオ様の分まで食べてしまいます」
「食べてくれ。…………あなたに食べてもらえるだけで、私はお腹いっぱいだから」
「…………でしたら、こんなのはどうでしょう?」
「え____っん」
俺が聞き返す前に、アミィール様は唇を重ねてきた。苺の味がする唇が、ほんの少し開いて俺の口の中に飴玉を移した。苺だけではなく、アミィール様の甘い唾液と共に入ってきて…………口の中に蕩けた。
それはもう甘くて心地よくて…………もっと味わいたくて。
俺は飴を含んだまま、飴を押し込んできたアミィール様の舌を絡めとった。
「ふ、ぅ…………」
「んん、………」
甘すぎるキス。気づいたら飴玉ではなくアミィール様の唇を味わっていた。みっともなく、もっともっと貪った。そして、アミィール様の抱き締める力が弱まった所で、身体を支えながら、名残を惜しむように唇を離す。
アミィール様のお顔は____涙目で。息遣いも荒くて色っぽい………じゃなく!
「ご、ごめん!つい…………!」
慌てて言葉を紡ぐセオドアに、アミィールは目を潤ませながらも嬉しそうに口角を上げた。
「いいえ、謝らないでくださいまし。寧ろ、わたくしは嬉しいのです。
___わたくしだけ甘い思いをするのではなく、セオ様とわたくし2人で共有したいのです」
「……………!」
アミィール様はそう言って力なく俺の服を掴んでぽつり、そう言った。
なんでこの人は、こんなに女の顔をするのにそれでも格好いいことを言えるんだろう。
俺の乙女心は擽られ、俺の男心はもう____我慢なんて出来ない状態になっている。
それを汲んでくれたように、アミィール様は顔を上げて、挑発的な顔で言う。
「もっともっと___2人で、甘くて嬉しくて気持ちいい事を、共有しませんか?」
「…………アミィ、ほんと、そういう事を言うのをやめておくれ……………俺、貴方の甘い所を全部食べてしまいそうだ………」
「食べてくださいまし。____わたくしの心も身体も、貴方だけのものなのですから」
そう微笑むアミィール様に手を引かれ、俺達はそのまま寝室に行って、口内に残る飴玉よりも甘いひと時を2人で共有した。
* * *
「…………………ひっく、ひっく……………」
セオドアはしゃくり上げて泣いていた。
その姿は___編み込みをされ、紅銀色のリボンで括られた群青色の髪、エメラルドのような緑の瞳の周りにはアイシャドウ、頬にはチーク、薄めの唇には紅い口紅、そして大きく盛り上がった胸部を見せつけるようなピンク色のフリフリドレス………………どこからどう見ても美少女なご令嬢姿だ。
こんな格好をさせる者など勿論3人しかいない。涙を流しながら前を見ると____仁王立ちするアルティア皇妃様と櫛を持ちながら楽しそうに笑うフラン様、たくさんの化粧品を指に挟めてにっこりと笑うエリアス女王陛下のお姿があった。
「なんで…………私が…………っく」
「いつまで泣いてるのよ~化粧が落ちちゃうわよ」
「大丈夫ですよアルティア様、これはいくら泣いても落ちないようフラン様と試行錯誤を重ねた化粧品なので」
「でも目元は赤いですね、いや、見ようによっては恥じらってるように見えるからありよりのありですね!」
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セオドアはそこまで考えて、逃げ出そうとドレスを持ち上げ走り出そうとするが、無情な事に瞬間移動したアルティアが立っていた。
「逃がさないわよ~!今日は、上流貴族のクソ女共の相手を一緒にしてもらうんだから~!」
「うぐ……………」
にっこりとそういうアルティアに、セオドアは涙目で身体を震わせた。
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