122 / 469
第8章 幸せな新婚生活
サクリファイス大帝国の"死神姫"
しおりを挟む「アミィール様」
死体に囲まれた、返り血だらけのアミィールに、全身刃物を仕込んだ、同じく血だらけのガロが声をかける。
アミィールは返事をしない。
いつもの黄金色の瞳に輝きはない。
ガロの目には見えている。
沢山の黒い光の玉が………………
小さい頃は分からなかったこの黒い光の玉は、魂だ。
人狼は、人の魂を視ることが出来る。
そして。
アミィールの周りには____どす黒い魂達が舞っている。
それは穢れた魂のはずなのに、美しいアミィールが纏うと、幻想的にも見えた。
サクリファイス大帝国の_____"死神姫"。
親である皇帝の次に強い女と恐れられる彼女は、反乱因子・世界を乱す者たちにそう呼ばれている。
彼女の歩く道に生きている者などいない、とまことしやかに囁かれている。
……………まことしやか、という言葉は間違っている。事実なのだ。彼女は____温情が一切無い。
返事をせずに、死神姫は1人空を見上げる。ぽつりぽつりと雨が降ってきている。
____空が悲しんでいるようだ。
ガロは、そう思って泣きそうになる。
"死神姫"___アミィール様が、こんなことをしなくてもいいのに、と。
でも。
この道を歩むと決めたのは_____"死神姫"本人だった。この世界に自ら贖罪をする、と。…………彼女自身には、何も罪がないのに。
「ガロ」
そこまで考えて、声を掛けられた。青紫の髪を自分たちと同じように血だらけにしたダーインスレイヴだった。
「…………レイヴ様」
「悲しむな。…………アミィールの覚悟を踏み躙るな」
「………………はい」
悲しい顔をする2人を他所に、"死神姫"___アミィールは、雨に当たりながら小さく囁いた。
「_____セオ様に、会いたいな」
雨はどんどん強くなる。
けれども、アミィールが浴び、すっかりこびり付いた返り血を流す事は出来なかった。
* * *
サクリファイス大帝国、セオドアの自室にて。
「…………………雨だ」
セオドアは紅茶を飲みながら、ぼんやり外を見てそう呟く。
……………………孤児院のことを考えていたらもう1日が終わっていた。もうやりたい事は決まっている。やろうと思ってたけど偏頭痛がして今日は休養することにした。
どうやら、偏頭痛の理由は雨だったようだ。偏頭痛持ちには辛いな……………
「セオドア」
「ん?」
「……………大丈夫か?」
レイが突然そんなことを聞いてきた。わからなくて、首を傾げながら聞き返す。
「何が?」
「……………寂しそうな顔してるから。そんなにアミィール様が来なかったのが寂しかったのかなと思ったんだ」
「……………………」
この執事の友は…………本当に意地が悪い。考えないようにしてたのに。心配してるフリしてるみたいだけどニヤけてるぞおい。
でも、事実である。アミィール様はいつも仕事を抜け出して、1度は俺に会いに来てくれる。でも、今日は来なかった。もう夕方だ。……………どうやら俺は、アミィール様に少しでも会えないと気分が落ち込むらしい。とことん女子である。
でも、男の端くれとして、それを認めるのは少し抵抗がある。
「……………そんなことない」
「顔に"アミィール様に会いたい"って書いてあるぞ」
「ぐ、……………」
セオドアはその言葉に自分の頬を思い切り押す。
この顔ー!本当に!アミィール様は執務で忙しいんだから!我儘言うな!素直に顔に出すな!
…………ポーカーフェイスを身につけねば…………!
そこまで考えた所で、コンコン、というノック音が聞こえた。もしかしてアミィール様かも、と思うとこのノック音が幸せを与える。
「どうぞ!」
「失礼致します……………セオ様」
「アミィ!」
セオドアはアミィールの姿を見るなり、飛び上がるように立ち上がった。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。
なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。
二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。
失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。
――そう、引き篭もるようにして……。
表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。
じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。
ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。
ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。
突然現れた自称聖女によって、私の人生が狂わされ、婚約破棄され、追放処分されたと思っていましたが、今世だけではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
デュドネという国に生まれたフェリシア・アルマニャックは、公爵家の長女であり、かつて世界を救ったとされる異世界から召喚された聖女の直系の子孫だが、彼女の生まれ育った国では、聖女のことをよく思っていない人たちばかりとなっていて、フェリシア自身も誰にそう教わったわけでもないのに聖女を毛嫌いしていた。
だが、彼女の幼なじみは頑なに聖女を信じていて悪く思うことすら、自分の側にいる時はしないでくれと言う子息で、病弱な彼の側にいる時だけは、その約束をフェリシアは守り続けた。
そんな彼が、隣国に行ってしまうことになり、フェリシアの心の拠り所は、婚約者だけとなったのだが、そこに自称聖女が現れたことでおかしなことになっていくとは思いもしなかった。
寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!
ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。
故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。
聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。
日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。
長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。
下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。
用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが…
「私は貴女以外に妻を持つ気はない」
愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。
その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。
転生おばさんは有能な侍女
吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした
え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀?
転生おばさんは忙しい
そして、新しい恋の予感……
てへ
豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!
乙女ゲームの悪役令嬢だったので、悪役になる覚悟ですが、王子様の溺愛が世界を破滅させてしまいそうです
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢シャロンは王宮で婚約者の王子と過ごしていて、突如前世の記憶を思い出してしまう。
前世プレイしていた乙女ゲームの令嬢に転生している。しかも悪役だ。
初恋相手の婚約者には今後、無惨に婚約破棄される。
ショックで突っ伏したシャロンだが、ハッピーエンドを目指して国外追放され、平穏に暮らそうと決心。
他ルートなら暗殺される。世界滅亡の危機もある。国外追放は生きている……!
武闘派悪役令嬢シャロンは日々励む!
しかしゲームに登場しない人物が現れたり、いろいろ様子がおかしい……!?
シャロンは世界を救い、ゲームのハッピーエンドを無事迎えることができるのか……!?
将来に備えがんばる悪役令嬢と、そんな令嬢を溺愛する腹黒王子の甘々ラブコメディ。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、追加予定です。
ヤンキー乙女ゲームの主人公になる!虐め?上等!夜露死苦!
美浪
恋愛
1980年代暴走族の特攻隊長だった主人公ルナリー・ウェールズ。
生まれ変わる際に選択肢が動物か乙女ゲームの主人公しか無かった為、意味も解らず人間である乙女ゲームの主人公を選んでしまう。
舞台は近世のヨーロッパ風。実際にはゲームの中だけでしか存在しなかったボードウェン国。
音楽の才能溢れる乙女ゲームの主人公
はアリア音楽学院に入学が決定していました。
攻略対象者や悪役令嬢を振り回し今世を育ててくれた親の為にオペラ歌手を目指す!!と心に決めましたが・・・。
全く乙女に慣れないルナリーが破天荒に生きて沢山の仲間と共にこの世界で楽しく生きて生きます。
小説家になろう。カクヨムにても公開中ですm(_ _)m
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる