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第8章 幸せな新婚生活

サクリファイス大帝国の"死神姫"

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 「アミィール様」



 死体に囲まれた、返り血だらけのアミィールに、全身刃物を仕込んだ、同じく血だらけのガロが声をかける。


 アミィールは返事をしない。
 いつもの黄金色の瞳に輝きはない。


 ガロの目には見えている。
 沢山の黒い光の玉が………………

 小さい頃は分からなかったこの黒い光の玉は、魂だ。

 人狼は、人の魂を視ることが出来る。


 そして。


 アミィールの周りには____どす黒い魂達が舞っている。


 それは穢れた魂のはずなのに、美しいアミィールが纏うと、幻想的にも見えた。


 サクリファイス大帝国の_____"死神姫"。


 親である皇帝の次に強い女と恐れられる彼女は、反乱因子・世界を乱す者たちにそう呼ばれている。


 彼女の歩く道に生きている者などいない、とまことしやかに囁かれている。


 ……………まことしやか、という言葉は間違っている。事実なのだ。彼女は____温情が一切無い。


 返事をせずに、死神姫は1人空を見上げる。ぽつりぽつりと雨が降ってきている。



 ____空が悲しんでいるようだ。


 ガロは、そう思って泣きそうになる。
 "死神姫"___アミィール様が、こんなことをしなくてもいいのに、と。

 でも。


 この道を歩むと決めたのは_____"死神姫"本人だった。この世界に自ら贖罪をする、と。…………彼女自身には、何も罪がないのに。


 「ガロ」


 そこまで考えて、声を掛けられた。青紫の髪を自分たちと同じように血だらけにしたダーインスレイヴだった。


 「…………レイヴ様」


 「悲しむな。…………アミィールの覚悟を踏み躙るな」




 「………………はい」



 悲しい顔をする2人を他所に、"死神姫"___アミィールは、雨に当たりながら小さく囁いた。



 「_____セオ様に、会いたいな」



 雨はどんどん強くなる。
 けれども、アミィールが浴び、すっかりこびり付いた返り血を流す事は出来なかった。



 *  *  *




 サクリファイス大帝国、セオドアの自室にて。




 「…………………雨だ」



 セオドアは紅茶を飲みながら、ぼんやり外を見てそう呟く。


 ……………………孤児院のことを考えていたらもう1日が終わっていた。もうやりたい事は決まっている。やろうと思ってたけど偏頭痛がして今日は休養することにした。


 どうやら、偏頭痛の理由は雨だったようだ。偏頭痛持ちには辛いな……………


 「セオドア」


 「ん?」


 「……………大丈夫か?」


 レイが突然そんなことを聞いてきた。わからなくて、首を傾げながら聞き返す。


 「何が?」


 「……………寂しそうな顔してるから。そんなにアミィール様が来なかったのが寂しかったのかなと思ったんだ」


 「……………………」



 この執事の友は…………本当に意地が悪い。考えないようにしてたのに。心配してるフリしてるみたいだけどニヤけてるぞおい。


 でも、事実である。アミィール様はいつも仕事を抜け出して、1度は俺に会いに来てくれる。でも、今日は来なかった。もう夕方だ。……………どうやら俺は、アミィール様に少しでも会えないと気分が落ち込むらしい。とことん女子である。


 でも、男の端くれとして、それを認めるのは少し抵抗がある。


 「……………そんなことない」


 「顔に"アミィール様に会いたい"って書いてあるぞ」


 「ぐ、……………」


 セオドアはその言葉に自分の頬を思い切り押す。
 この顔ー!本当に!アミィール様は執務で忙しいんだから!我儘言うな!素直に顔に出すな!


 …………ポーカーフェイスを身につけねば…………!



 そこまで考えた所で、コンコン、というノック音が聞こえた。もしかしてアミィール様かも、と思うとこのノック音が幸せを与える。


 「どうぞ!」



 「失礼致します……………セオ様」



 「アミィ!」



 セオドアはアミィールの姿を見るなり、飛び上がるように立ち上がった。





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