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第7章 主人公と皇女の結婚式前

その紅銀色の美しい龍は

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 「……………………?」


 セオドアは首を傾げる。庭園の奥の奥、草木に隠れるように2つの取っ手があった。なんだろう、これ……………



 そう思い、取っ手に触れてみる。鉄だ。これ、なんだろう。危ないから抜かなきゃ。


 そう思い引っ張ると_____地面が動いた。力一杯それを動かし続けると、地面が折れて、階段が現れた。


 「???」



 なんだこれ、隠し通路?なんだか、ゲームで隠しダンジョンを見つけたような気分だ。いくら思考が乙女だと言っても、ちゃんと男だからこういうのを見るとテンションが上がる。 



 うわー!すごい!城には隠し通路があるってよく聞くけど、本物の隠し通路なんて初めて見た!


 セオドアはそう考えながら目をキラキラさせて、辺りをキョロキョロ見た。誰もいない。……………なら、少しくらい、降りてみてもいいよな?




 そう思ったセオドアは、その階段を降りた。






 *  *  *






 階段はとても長くて、暗い。
 セオドアは先日ガロに教えて貰った火魔法で灯りを灯しながら、降りる。


 あの庭園にこんな場所があるなんて、と胸がドキドキしている。

 この年季の入った通路を見つけた庭園の奥は何度も来ているけれど、こんな場所があるのは知らなかった。


 勝手に入ってしまったら怒られるかもしれない。頭では分かっているけれど好奇心を抑えられるかというと抑えられないのだ。



 見つかって叱責されたらちゃんと謝ろう。…………それにしても。



 「この階段、どこまで続くんだ…………?」



 降りても降りても、終わりが見えない。
 俺の少ない体力は確実に削られていく。………………もう、戻ろうかな…………




 そう考えた時。



『ッ…………ぐぅ………!』




 「……………?」




 少し先から、呻き声のような音がした。……………なにか、居るのかな?



 セオドアは疲れた身体に鞭打って駆け下りる。終わりが見えない、と思っていた階段は案外最終地点は近かったよう………………………………だ?




 セオドアは、顔を上げて目を見開いた。


 階段を降りたそこ、光ひとつない暗闇の中、紅銀の"それ"が光っている。

 "それ"は大きくて、鱗が美しくて、美しい黄金色の瞳が輝いている。


 これは_____




 「龍…………………?」



『!』




 セオドアがそう呟くと、"それ"___龍が、黄金色の瞳を大きく見開いていた。




 国境にある魔法壁の黒い龍をかっこいいと思った。けれど、それよりも数倍この紅銀の龍は____美しかった。


 見たことの無いほど美しい龍。


 でも、見たことがないはずなのに____自然とその龍が、誰だか分かってしまった。



 セオドアはふらふらと近づこうとする。
 しかし、龍は大声で言った。




『ここは!貴方の来る場所じゃない!帰りなさい!わたくしに近づかないで!』



 鼓膜を揺らす、大きな響く声。でも、その声も____知っている。



 セオドアは龍の前まで来て、問うた。




 「_______アミィ?」


『………………ッ!』



 紅銀の龍の美しい顔が、歪んだ。
 でも、龍はぶんぶんと大きな首を動かした。



『わ、わたくしはアミィールなどではありません!見ないでくださいまし!帰ってくださいまし!』



 「………………ううん、帰らない。見ないこともできない。だって、アミィだもの」


『で、ですから、わたくしはアミィールではないと何度いわせるのですか!

 わ、わたくしはこの国に住むただの穢らわしい龍です!ここにいるのは!貴方の婚約者では、ありません!』




 そう言って、龍は顔を逸らした。




 …………いくら、いくら見た目が違っても、わかるんだ。


 この声も、この喋り方も、この美しい姿も………………この甘い、匂いも。




 大好きなものだ。





『…………帰っ____!』




 紅銀の龍が何か言う前に、セオドアは龍を両手で抱き締めるように触れた。


















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