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第5章 主人公の隠された能力

決意の口付け

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 「……………落ち着いたか、アミィ」


 「ぐすっ………申し訳ござ………ッ」



 1時間ほど2人で泣いて、やっと落ち着いた。けれどアミィール様は未だに涙を流しておられる。………俺のことをここまで心配してくれているのがわかって、泣いているアミィール様には悪いけど、凄く幸せだった。



 アミィール様は嗚咽をしながら顔を上げた。黄金色の瞳が未だに涙を称えている。


 「もう、あのようなことはなさらないで…………ッ、わたくし、心臓がいくらあっても足りません…………」




 「それは…………約束できないよ。だって、私はアミィと出会えたことを否定したくない。アミィが私の全てだもの」



 セオドアはそう言ってアミィールの涙を舐める。とてもしょっぱいけれど、どこか甘い、不思議な味。
  

 アミィールはそれを受けてから、セオドアの首筋にある傷を舐めた。 



 「んっ、………」
  


 セオドアはぴくり、と体を捩った。
 アミィールはそれでも辞めず、傷に舌を這わせる。



 セオドア様の血、甘い。優しい言葉に嬉しい気持ちはある。けれど、わたくしだって譲れない。



 アミィールは首筋から顔を離し、セオドアの頬を両手で包んだ。

 セオドアの緑の瞳が涙に濡れて、目尻が赤い。鼻水も出ている。………愛おしい御方のお顔はいつだって輝いて見える。


 「わたくしは、…………セオ様に傷ついて欲しくないのです。セオ様をお守りしたい。セオ様は……………生きることだけを考えてください」


 「それは私だって一緒さ。………アミィが傷ついている姿は見たくない。泣いている姿を見たくない。…………貴方をお守りしたい。

 全部貴方を愛しているから。


 ___貴方への愛を否定したくないんだ」


 そう言って、セオドアもアミィールの頬を持つ。


 2人はどちらとも言わず唇を重ねた。涙や鼻水でぐちゃぐちゃなのに、それでも唇を何度も交わし、ベッドに倒れ込む。押し倒された反動でアミィールの瞳から涙が流れる。



 ………………この人は、なんでも1人で背負い込もうとするんだ。こんなに小さな身体で、それでも俺を守ろうとする。


 ___でも、俺だってこの人を守りたいんだ。


 「ん、ふぅ、っ…………」


 何度も求め合う。何度交したって飽きない。いつだって甘くて、………今は少ししょっぱいけれど、それも美味しくて。



 _____俺は、この人を守る為に、この人を泣かせない為に、強くならなければならない。


 それだけじゃない。



 俺とは違う愛で、この人を想っている皇帝___お父様にも認められなければならない。


 この人を守る為に、俺はなんだってしたい。




 乙女男子だって、男なんだ。


 そう改めて気を引き締めつつ、決意を伝えるように何度もアミィールの唇を自分の唇で伝えた。

 アミィールは悲しそうにしながらも、それに応えるように唇を、唾液さえも受け止めた。




 *  *  *

 その頃、玉座の間。



 「……………………クソ」



 サクリファイス大帝国皇帝・ラフェエルは毒づいていた。


 生意気な小僧だ。
 私の剣を手で掴むだけでなく、私にこのような思いを抱かせるなど、虫けらには許されない行為である。


 アミィールもアミィールだ。
 小さい頃こそ可愛かった。いつだって私の傍に置けたし、周りも何も言わなかった。


 大きくなって、それを周りが許さなくなって、アミィール自身も反抗し始めて。



 そして、男を見つけてきた。



 _____不愉快だ。





 ぎり、と歯ぎしりをしていたのを皇妃・アルティアは呆れながら見ていた。


 本当に親ばかなんだから……………父親というのは何故こう娘が大好きな人種なのか……………


 そんなことを思いながら、今は亡き父親に想いを馳せた。
















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