上 下
18 / 469
第2章 主人公の心、揺れ動く

主人公は抱き締める

しおりを挟む







 「紅茶を………………」




 座ってすぐに、アミィール様はティーポットとティーカップを持った。けれどその手つきはたどたどしい。ティーカップを持っている手は震え、ティーポットを持ち上げすぎている。それは高い位置からワインを入れるパフォーマンスを見せる時のソレである。



 あまりに心配だったセオドアは慌てて言葉を紡ぐ。


 「私がやります、アミィール様」


 「でも……………」


 「美味しく淹れますので、ご安心を」



 セオドアに言われて、アミィールは暗い顔持ちでセオドアに手渡す。セオドアは手際よくダージリンの香り漂う紅茶を淹れた。セオドアは聞く。



 「ダージリンはミルクとよく合います。どうなさいますか?」


 「では、入れます」


 「わかりました」



 セオドアは流れるようにミルクを適量入れる。普段からお菓子を食べる時に紅茶も一緒に飲む。全部自分でやっているから慣れているのだ。



 「どうぞ、アミィール様」


 「ありがとうございます…………」



 アミィールはそう言って紅茶を1口飲む。暗かった顔は柔らかくなった。



 「………………美味しい」



 「それはよかったです。流石、アミィール様の準備させた物ですね」



 お世辞ではなく本心である。紅茶を嗜んでいるからこそ、この紅茶がとても高級なものだとすぐにわかった。サクリファイス大帝国のものかな?見たことは無いけど、紅茶の放つ甘い香りが教えてくれた。自分も飲もうと思ったところでふと、思い出した。



 「そうだ」



 「?」




 セオドアはゴソゴソと手持ちの籠を漁って、綺麗に包装されたマカロンを取り出した。



 「アミィール様、よろしければこれも食べてください。男の手作りですが…………」



 「マカロン……………マカロンも作れるのですね、セオドア様は」



 しまった!と思った。以前はアミィール様が望んだから作ったが、普通に考えて菓子を作る男など貴族にはいない。こんな女々しい部分を見せてしまうのは………というか、出過ぎた真似ではないか?



 グルグルと負の思考に陥るセオドアの手にあるマカロンを、アミィールは手に取って口に含む。すると、目を見開いて口を押さえた。



 「これも美味しい…………!」


 「で、ですが、…………男児がやることではありません、アミィール様にはお恥ずかしい所ばかりみせてしまってますね」



 「そんなことありませんわ!」



 マカロンを食べ終わったアミィールは少し大きな声でそう言ってセオドアの手を自分の両手で包む。



 「紅茶がこんなに美味しい物だと思ったのはセオドア様が上手に淹れてくださったからですし、このマカロンも、この間のチョコブラウニーも…………どれも美味しいです。


 それに……………お恥ずかしいのは、わたくしですわ」



 「え……………?」




 アミィールは目を伏せる。とても悲しそうな顔に、セオドアはどうすればいいのか分からなくなった。こういう時、何を言うのが正解なのだ………?




 そんなセオドアをよそに、アミィールは言葉を紡ぐ。




 「わたくしは……………女の身でありながら、お菓子ひとつ作れず、紅茶の淹れ方ひとつ覚束無い……………他にも、花のこともわからなければ裁縫も刺繍もできませんわ。


 わたくしの出来ることは男性が行えることばかり。剣技や魔法などの可愛くないものばかりで……………お慕いする殿方をもてなすことすらままならないのです」



 そう言ったアミィール様は、悔しそうだった。いや、やっぱり悲しんでいるようにさえ見える。




 _____そんな顔、見たくない。




 そう思ったら、身体が勝手に動いて。


 セオドアは____アミィールを抱き締めていた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

私、異世界で監禁されました!?

星宮歌
恋愛
ただただ、苦しかった。 暴力をふるわれ、いじめられる毎日。それでも過ぎていく日常。けれど、ある日、いじめっ子グループに突き飛ばされ、トラックに轢かれたことで全てが変わる。 『ここ、どこ?』 声にならない声、見たこともない豪奢な部屋。混乱する私にもたらされるのは、幸せか、不幸せか。 今、全ての歯車が動き出す。 片翼シリーズ第一弾の作品です。 続編は『わたくし、異世界で婚約破棄されました!?』ですので、そちらもどうぞ! 溺愛は結構後半です。 なろうでも公開してます。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

処理中です...