上 下
10 / 38

【8時間目】魔王様、作戦会議のお時間です‼︎

しおりを挟む

すっかり夜のとばりが下りた頃、僕らはやっと現世界の根城ねじろである四畳半よじょうはんのボロアパートに着いた。
聖良いわくもっと豪勢ごうせいな家も借りられたと言うのだが僕は丁重ていちょうにお断りした。

───1人暮らしの若者にそんな贅沢ぜいたくいらないのだ。

と、思っていた昨日の僕(言ってはなかったけどこの世界に来たのは今日なんだよね、うん僕も驚いてる。だって今日だけでこんない1日を過ごすと思ってなかったんだもん)を殴ってやりたい。

何故ならこの物件には"聖良"という特典が付いていたのである。


「仕方ありませんよ逢魔様、私たちは兄妹なのですから一緒に住むのは至極しごく当たり前の話なのです」


「それ両親いた場合の話だよね?普通一人暮らしするって言ってる兄の家に転がり込んでくる妹はいないでしょ」


聖良はやれやれと両手を広げ首を横に振ると「私たちは兄妹でもあり夫婦でもあるのですから」と言ってきた。
もうツッコまんぞ。僕はそのはがねの決意を胸に秘めると制服の上着を脱ぎ、ハンガーにかけた。
……多分、今日だけで多分50回ぐらいツッコんだ気がする。


「それで、具体的には水原 さくら子とどうお近づきになるおつもりですか?」


台所でコーヒーをれてくれていた聖良がリビングでくつろぐ僕へ問いかけてきた。
砂糖の有無うむの確認のため軽い会話をすると、聖良がリビングへカップを二つ持ち戻ってきた。


「う~~ん、そうだなぁ……今日の別れはかなり(聖良のせいで)サイアクだったよなぁ……。ここから巻き返していくにはやっぱり心象しんしょうを良くしないとダメだよね」


「はぁ……私としてはかなりの好印象こういんしょうであった気がするのですが……。あと私のせいにしないでください」


「いや普通に聖良のせいだよ。まあ種田さんもノっちゃったのもあるけど……てか普通に心の声を読むのやめてくれません?」


僕はう~~んとうなると聖良が淹れてくれたコーヒーをかき回す。
コーヒー豆の独特な良い香りが僕の脳をくすぐってくる。ぐるぐるとうずを巻くその黒面こくめんに先程僕が答えた"一個"の答えが浮かんできた。
否、"一人"が浮いてきた──────


「……ところで、聖良さん?この砂糖にきざまれてる細目ほそめのおっさんは誰?」


「亜○です」


「いや"さとう"違い、それ。てかいちいち分かりにくい小ネタ入れてくんじゃないよ」


「ところで」と今度は聖良が一息おくと僕に問いかけてくる。
僕は一口、コーヒーをすすった。


「先程から逢魔様のスマホがピンポロパンポン鳴ってるのですが誰からですか?」


「その音なら早くエリア内に戻らなくちゃならないね。……じゃなくてこれね」


僕は先程、というよりも帰路きろについてから常になっているスマホの画面をのぞく。
そこにはつい数時間前に友達になった種田さんからのLI○Eが、鬼のように大量に届いている通知だった。
どうやら初めてできた友達に狂喜乱舞きょうきらんぶしているらしく、僕に(嫌がらせか?)スタばくをしているのだ。
怖いよ。僕あの子怖いよ。


「ブロさくしときましょう」


「身もふたもない。…まあとりあえずは一旦放置しといて今は水原さんの事だよ」


せまい部屋に静寂せいじゃくが訪れる。
完全に余談よだんだが僕はこの聖良との間に流れる静かさは案外あんがい好きだったりする。
いや、だまってた方が可愛いとか言ってないから。やめてそういうの怒られるから。


「分かりました。今日からもう二度としゃべりません」


そう言うと聖良はぷくぅとほほふくらますとそっぽを向いた。
彼女の黒いつややかな髪の毛に自然と目がかれる。


「……ごめんなさい。元気な聖良が1番好きだよ」


「…………はぁ、そういうすぐ謝れてフォローできるとこ本当好きです、付き合ってください、いや結婚してください、いやもうこの際セッ」
「はいコンプラにひっかかるのでやめてくださ~~~い」


再び僕らの間に静けさが訪れる。
聖良と目が合う。合い続ける。心なしか聖良がとても魅力みりょく的に思えてくる。

あれ?なんか今回普通に幼馴染おさななじみのメイドさんとイチャイチャして終わる回なの?まさかまさかのいやし回!?


「逢魔様………」


気づくと聖良が僕に急接近していた。
聖良の手が僕の組んだ足に置かれ、さらに体重を僕の方にあずけてくる。聖良の可憐かれん見目麗みめうるわしい顔が僕の顔を自然と吸い寄せてしまう。それはまさに唇と唇が合うぐらいに───────


「おおっ!我が盟友めいゆうよ!女性経験は無いと言いながらヤる事ヤってるではないか!!」


「………いやちょっと待って。なんでうちに居るの?種田さん」


突然の(真新しい)友人の来訪らいほうに頭が混乱している僕をよそに種田さんは髪をかきあげ、それはもう見事なドヤ顔をかますと高らかに宣言せんげんした。


「それは無論むろんっ!我が盟友からのしらせが一向に来ない為、何か強いモンスターと対峙たいじしてるのではないかとうたぐって急遽きゅうきょ応援にけつけたのだっ!」


ん、ああ、怒涛どとうのLI◯Eを無視ったからか。
いやだからってなんで家知ってるの!?怖いよ!!僕、怖いよっ!!ストーカーだよこれもうっ!
てかあまりの青天せいてん霹靂へきれきさに聖良さんフリーズしてらっしゃるよ!?あの聖良さんが!フリーズ!してらっしゃるよ!?!?


「聖良?…聖良さん?大丈夫?」
「聖良大丈夫か?私のヒールいるか?……いやむしろヒールよりエールの方がほしいか?」


いややかましいわ。
そんな顔をかがかしても誤魔化ごまかされんぞ。てかエールじゃなくて家に"帰ーる"選択をしてほしいわ。
すると突然、聖良がぐわっと立ち上がり目をかっぴらいて僕らを見つめてきてこう言った。


「逢魔様、種田 冬火さん。ついに思い浮かびました……水原 さくら子と"友達になろう作戦"が………!!」


「あれ?いい雰囲気ふんいきになってたとこぶち壊されてフリーズしてたんじゃなかったんだ……それでその作戦とは……!?」


僕と種田さんが期待を込めて聖良を見つめ返す。
聖良がそれに応えるように右手の人差し指を天にかざすと静かに語った。


「水原 さくら子をストーカーすれば良いのです……!!」


「いや考えうる限り最悪の帰着きちゃくだよ」


☆次回、さくら子尾けられる───────


───────────────────────


【登場人物紹介】

●躑躅森 逢魔

魔王の息子で主人公。
本人は一人暮らしのつもりで現世界に来たのでまさか一つ屋根の下で幼馴染メイドと過ごす事になるとは思ってもなかった。実はよくよく考えたらお付きのメイドなので一緒に暮らすのは当たり前だっり…。
なんだかんだ元の世界でも一緒に暮らしていたので割と抵抗は無い。


●躑躅森 聖良

逢魔の幼馴染でお付きのメイドさん。
今回の生活であわよくば逢魔と一線(意味深)を越えようと色々と画策している。
だが逢魔本人が色々と希薄なため、苦労が絶えない。頑張れ聖良ちゃん。目指せ勝ちヒロイン。


●種田 冬火

1人目の能力持ち厨二病ぼっち少女。
初めてできた友達に嬉しくなりすぎてちょっとヤンデレ気味に。実際友達になって数時間で安否のスタ爆はヤバいと思う。
でも本人は元々人付き合いがない為いまいちそこんところが分かってない。今後の成長に期待が高まる。


●亜○ 佐藤

一言で言えば死なないヤバいやつ。
どうもマ○オプレイヤーだと思うと個人的には親近感が湧いて仕方がない。あと純粋な悪はめっちゃクール。
「誰かがコインを入れたみたいだね」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

処理中です...