シカノスケ

ZERO

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『覇』の失墜

毛利の混乱

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毛利の覇の象徴国司元相の死は予想以上に毛利軍に動揺を与えた。

ここから毛利軍が更に混乱に陥る。





沢山の敵味方の骸が転がっている中をケン坊は小次郎に肩を貸し走っていた。


周りにも味方は居て、あの乱戦で生きていた奴らだ。


だが、その時である。遥か後ろの方から敵が走ってくる音がする。


「ヤバいっス!敵が攻めてくるっス!」


「俺の部隊はどこだ・・・!本隊に合流しないとあの屈強な兵に殺されちまう・・・!」

せっかく掴んだ敵将の首。これを宗信に見せるまでは死ねない。

いや・・・違う!見せた後も生きたい・・・!

こんな所で死ぬんは本望じゃない。



しばらく走ると後退していた筈の尼子軍本隊・・・いや違う・・・小次郎の部隊が見えた。







小次郎の部隊では隊長のいない部隊を優が指揮を取っていたのであった。


優は遠目で走ってくる小次郎を心配そうな目で見る。

「お兄ちゃん、やっぱり敵陣に突っ込んでいたんだね・・・。」



そう言うと手で部隊に前進の合図をした。



少しでも早く負傷者を回収して、異常な殺気で攻めてくる国司残党軍を迎え撃つつもりである。





やがて小次郎達が隊に帰還すると優が出迎えて来た。


「お兄ちゃん!なんで敵陣に突っ込んだの!怪我も酷いし・・・!」


悲しい顔をする優。だが、小次郎は討ち取った国司元相の首を見せつける。


「へへっ・・・!そう言うなよ。手柄はきっちり立てたからよ。」


優は国司の生首を見て「ギョッ」とする。

「ちょっ・・・!気持ち悪いの見せるなぁー!」



「へっ?生首なんて戦場に沢山あるだろうがよ・・・。」



「そんな間近で見せるなって言っているの!まったく・・・。とりあえず今来ている敵を倒したら傷の手当てするからね。」


そう言うと優は部隊の最前線に出る。



「みんな・・・!敵は寡兵だよ!あたし達より兵は少ない・・・!」


そう言うと手を挙げる。

「魚鱗の陣行くよ!」


そう言うと兵はすぐに陣形を魚鱗の陣にした。



魚鱗の陣は山岳地帯で良く使われる陣形である。

闇雲に突っ込んで来る強行兵に相性が良い。



それに対し、国司残党軍は陣形も特に無く、ただ真っ直ぐ突っ込んで来るだけである。





残党軍を指揮する国司元武は実はこの攻撃について、ただ策無しで突っ込んでいるわけでは無かった。



例え敵が固な陣形を敷いても、陽動などの策を用いようが最後に物を言うのは突破力だ。



これは自軍の被害が多いが、使いどころを間違わなければ戦いの決め手ともなる攻めである。



国司元武はこの攻めの使いどころを、バタバタしている今この時と見た。



「恐らく本城小次郎の隊は結成されて日が浅い。」


元武は小次郎の姿を見た人物に小次郎の印象聞いていたみたいで、どうも小次郎はまだ軍を率いたばかりのガキと思われているみたいである。



日が浅い部隊なら連携は上手くいかないし、何より今は敵将国司元相を討ち取って浮かれている。


この油断を突き、本城小次郎の部隊を恐怖に訪れる様に国司元武は強行を決行する。






そして国司元武が強攻を決意したもう一つの理由は、小次郎の部隊の方が人数多いのに何故か魚鱗の陣を取っているのである。


『軍法侍用集』によれば、魚鱗の陣は「小勢にて大敵と戦うとき吉」とある。

小次郎の部隊の方が兵力があるのに、優は何故か魚鱗の陣を敷いた。

合戦の常識としては有り得ない。







「部隊として日が浅く、軍法戦術の未熟者が率いる部隊など取るに足らん・・・。」


国司元武は自ら先頭に立って兵を率いてくる。


だが、ここで国司元武の予想外の事が起きる。



国司の部隊が小次郎の部隊に近付くにつれて、小次郎の陣形が徐々に変わってくる。



始めは国司残党軍の勢いに気圧されて陣形が乱れ、逃亡者でも出るのだと思っていた。


しかし、良く見ると魚鱗の陣がいつの間にか「V」の形を取る陣形に変化した。


いわゆる『鶴翼の陣』である。



『鶴翼の陣』とは両翼を前方に張り出し、「V」の形を取り、魚鱗の陣と並んで非常によく使われた陣形である。


中央に大将を配置し、敵が両翼の間に入ってくると同時にそれを閉じることで包囲・殲滅するのが目的である。


ただし、敵にとっては中心に守備が少なく大将を攻めやすいため、両翼の部隊が包囲するまで中軍が持ち堪えなくてはならないというリスクがある。


完勝するか完敗するかの極端な結果になりやすいため、相手より兵数で劣っているときには通常用いられない。


こちらの隙も多く、相手が小兵力でも複数の方向から攻めてくる恐れのある場合には不利になる。


また、部隊間の情報伝達が比較的取りにくいため、予定外の状況への柔軟な対応には適さない。

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