シカノスケ

ZERO

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凡戦

射程範囲

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弓を持ち、最前線に立った宗信は敵に向かって矢を向ける。


「いかに俺たちが高所を取っているとは言え流石にここからじゃあ矢は届かんだろ。」


そう言った時である。宗信は矢を放った。

その矢は弓の射程範囲を軽く越えていた。

そして矢は敵の盾を貫き、敵兵の目に矢が刺さる。



その光景を見た福原隊と秋上隊はしばらく沈黙した。


「何が起きた・・・?」と敵兵も味方も呆然としている。


しかし、その反応は仕方がない事である。


本来の弓の射程範囲を軽く越える程の剛弓である。

力強い大男なら考えられない事も無いが小柄な女性が驚異の矢を魅せたのだ。



しばらくして、宗信はもう一発矢を射る。


そうして放たれた矢は今度は更に後方の福原貞俊の兜の前立てに直撃した。


その瞬間、福原隊の兵達は福原貞俊が死んだと思った。


この一撃で福原隊の思考は完全に途切れた。


まさに時が止まったかの様な感じであった。


両軍の兵が何も言わず30秒経過した後に秋上宗信の配下の兵が「福原貞俊討ち取ったり」と大声で言い、中山口は歓声が鳴り響いた。



この事により福原貞俊の隊は混乱し、一時後退を余儀無くされる。








「一時後退だ。なるべく早く混乱を鎮めねば・・・。」


前立てに矢が命中した福原はフラフラになりながら立ち上がった。


福原貞俊は馬上で矢を射られて落馬したのだ。


兜の前立ては壊されたが怪我は落馬した時の軽い怪我のみである。


しかし、福原が死んだと勘違いした兵が大混乱している為、早急に隊を下げる準備をする。








後退した福原隊はこの日は動くことは無かった。


部隊が混乱しているのもあるが、何より福原貞俊討ち死の誤報が広まっている為、下手に部隊を動かす事が出来ない。



元々、今日は凡戦の予定だったのだ。敵の数を削るはずだったのが、福原隊の兵と毛利軍全体の士気が削られた。




誤報の影響で本陣の毛利輝元・元就の陣地も少なからず動揺しており、水谷口の吉川軍も誤報の影響で凡戦すらせずに仕方なくこの日の戦いは終えた。


そして尼子軍も深追いせず、前線の敵兵を蹴散らすのみで、それ以降は攻撃をやめた。




そして、その日の夜に再び軍議が行われる。


中山口の福原隊の今回の失態と今後の戦いについてである。


軍議には昨日と同じ面子が揃う。


福原貞俊と今日より中山口の総大将となった国司元相は軍議が始まると頭を下げる。



二人同時に「申し訳ありません」と言い、軍議に出た将のみんなに頭を下げる。


「クッ・・・!ここでの士気低下はキツい・・・」


吉川元春は歯を食いしばり、悔しそうな顔をする。


だが、その目には輝きがあった。


まだ作戦自体が失敗したわけじゃないのだ。


まだ俺たちはやれる・・・!と思ったその時、毛利元就が椅子から立ち上がった。



「これより3日目の戦いの時まで戦うのをやめるのじゃ・・・!睨み合いを続けておけ!尼子も簡単には攻めてこれまい。」



吉川も続けていう。

「父上の言う通りだ!これ以上戦力を減らしてはならん!だが兵を奮い立たせることだけは怠るな!」

そういうと将達はみんな「ははっ!」と言い頭を下げ、自分の持ち場に戻る。



しかし、吉川元春と熊谷信直だけは陣に残っていた。


熊谷は今日一日中、布部山近隣に開戦してから怪しげな部隊が動いていないかと地元民に聞いて回っていた。


しかし、大金を出しても開戦以来で尼子軍が第三の登り口に兵を伏せた情報が無く、今回の奇襲作戦を決行するのが決まった。





一方その頃、秋上宗信の陣地では宗信の今回の武功で盛り上がっていた。


女性の細腕からあの異常な飛距離とその正確さに改めて尼子軍は敬服する。


「やっぱ宗信はスゲェな。武術がそこらの武将と比べて全然違う。」


明るい口調だが少し暗くなる小次郎。


小次郎は『自分』の手でいまだに武功が立てられていない。


戦術・戦略は全て優に任せて、陣頭指揮は源五郎に任せている。

ケン坊は小次郎の親衛隊見たいな者だが、腕が立つ為自ら一兵卒の様に敵に乱戦を仕掛ける。



結局小次郎は何もしていないのだ。

今回の戦で先駆けをしたが、武力の低い小次郎では武功が立てられない。

戦術・戦略を練る優や陣頭で自ら敵を討ち取る源五郎やケン坊の方が遥かに役たっているのだ。




武功をあげたい・・・それは戦場で戦う人なら誰もが思うことである。


しかし現実は厳しい。武功をあげたくてもあげられないのだ。


しかし小次郎は心の中で武功を上げる決意をしている。


あと何日か後に来る決戦の時に必ず敵将は最前線にくる。

それも普通の武将では無く周辺諸国が震え上がるほどの武将。


そんな名だたる名将を討ち取って初めて小次郎は戦国武将の仲間入りになる・・・そう考えている。
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