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不死鳥の如く
降伏
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小次郎達が天野隆重と戦闘をしてから5日が経った。
小次郎はあの戦闘で捕らえた毛利軍を月山富田城に入る事を条件として全て解放した。
だが、毛利軍が帰った月山富田城にはもうまともに食える飯がなかった。
水はあるが食べ物が殆ど無く、餓死寸前の者ばかりである。
月山富田城では僅かな兵糧の為だけに仲間を殺している人が多発しており、その状況を見ている城主毛利元秋と城代の天野隆重は何も対策が出来ないでいた。
…と言うより、もう兵の暴走を止める手立てがないのだ。
前の奇襲作戦で小次郎達に返り討ちを食らい士気も地に堕ちた。
今から策を考えても兵が素直に言うこと聞かないだろう。
そう考えながら天野は城内を歩く。
しかし、城内はまさに地獄絵図である。
餓死で死にかけの者、仲間に殺され食料を奪われた者、空腹を苦に自ら命を絶った者。
そして毛利の援軍を信じて待ちながら死に行く者…。
改めて兵糧攻めとは残酷なものと感じる。
兵達はまさに生き地獄である。兵士は皆さっきの作戦で死んでおくべきだったと嘆いている。
天野は生々しいものを見ていて吐き気がしてきた為、毛利元秋の元へ戻った。
元秋の元へ戻ると天野は腰を下ろす。
「父上はいつになったら援軍を送ってくれるのだろうか…」
元秋はうつ向いてボソボソと喋った。
「援軍要請の使者を送ったはずですがひょっとしたら、元就様はここを捨ててまず先に九州の地を手に入れてから動くのでは無いかと…。」
だが、それは有り得ない。
それをしたら毛利家臣団は崩壊してしまい、国人衆は一気に尼子に寝返るからだ。
だが、今の天野には冷静に考える余裕がない。
天野もしばらくまともに飯を食べていないからだ。
もう降伏して、さっさと楽になりたい。
そう考えていたが、天野が行った作戦のせいで「降伏は嘘」というイメージを尼子は持ってしまった。
今、本当に降伏しても城兵は皆殺しだろう。
全てが天野の失敗だ。
天野の一つの失敗で城兵が皆殺しの危機になったのだ。
だが、その時だった。
何やら外が騒々しい。
何事かと思い、天野は部屋を出てみた。
部屋を出てみるとそこには城兵が鎧兜を脱ぎ捨てて投降しようとしていた。
「みんなどうしたんだ?」
天野が薄汚い雑兵に聞くと雑兵は涙を流す。
「さっき尼子から『投降せよ』との矢文が来たんだべさ…。オラ達助かるんべ…。家族の元へ戻れるんべ…。」
天野はその矢文を読んだが、本当に投降せよと書いてあった。
他の城兵もこの文を読んで涙を流す。
やっと飢餓の苦しみから救われると。
これは城兵達の為にも投降するべきかも知れない。
どのみち城に籠っていては餓死するんだ。この文を信じるしかない。
天野は涙する城兵達を見て決めた。
「これより我々は尼子に投降する。」
天野が城兵全てに聞こえるように言った。
それを聞いた城兵は再び涙した。
城から投降する毛利軍を秋上宗信は快く受け入れた。
投降してきた兵には宗信自らおにぎりを作り、毛利の雑兵に渡していった。
そして、投降した城主毛利元秋と城代天野隆重をどうするか横道秀綱は小次郎と二人で相談して決めた。
決めたら小次郎はすぐに動いた。
小次郎は捕虜の場所に生き、縛られている毛利元秋と天野隆重の縄を切った。
「ほら、縄を切ってやったらさっさと自分の居場所に帰れ。」
そう言い放つ小次郎に天野は冴えない顔で言う。
「わしらに居場所が有れば良いけどな…」
戦国時代では敵の捕虜になることは屈辱であった。
守る城が落ちるとき、大将は切腹をして命を自ら絶つ者が多い。
だが、天野と毛利元秋はそれをしなかった。
城を奪われ、敵の捕虜となって帰って来た者は大抵の場合は家中で居場所を失う。
自ら命を絶つことが出来ない臆病者という理由でだ。
小次郎は天野達を近くまで連れていき、見送った。
小次郎はあの戦闘で捕らえた毛利軍を月山富田城に入る事を条件として全て解放した。
だが、毛利軍が帰った月山富田城にはもうまともに食える飯がなかった。
水はあるが食べ物が殆ど無く、餓死寸前の者ばかりである。
月山富田城では僅かな兵糧の為だけに仲間を殺している人が多発しており、その状況を見ている城主毛利元秋と城代の天野隆重は何も対策が出来ないでいた。
…と言うより、もう兵の暴走を止める手立てがないのだ。
前の奇襲作戦で小次郎達に返り討ちを食らい士気も地に堕ちた。
今から策を考えても兵が素直に言うこと聞かないだろう。
そう考えながら天野は城内を歩く。
しかし、城内はまさに地獄絵図である。
餓死で死にかけの者、仲間に殺され食料を奪われた者、空腹を苦に自ら命を絶った者。
そして毛利の援軍を信じて待ちながら死に行く者…。
改めて兵糧攻めとは残酷なものと感じる。
兵達はまさに生き地獄である。兵士は皆さっきの作戦で死んでおくべきだったと嘆いている。
天野は生々しいものを見ていて吐き気がしてきた為、毛利元秋の元へ戻った。
元秋の元へ戻ると天野は腰を下ろす。
「父上はいつになったら援軍を送ってくれるのだろうか…」
元秋はうつ向いてボソボソと喋った。
「援軍要請の使者を送ったはずですがひょっとしたら、元就様はここを捨ててまず先に九州の地を手に入れてから動くのでは無いかと…。」
だが、それは有り得ない。
それをしたら毛利家臣団は崩壊してしまい、国人衆は一気に尼子に寝返るからだ。
だが、今の天野には冷静に考える余裕がない。
天野もしばらくまともに飯を食べていないからだ。
もう降伏して、さっさと楽になりたい。
そう考えていたが、天野が行った作戦のせいで「降伏は嘘」というイメージを尼子は持ってしまった。
今、本当に降伏しても城兵は皆殺しだろう。
全てが天野の失敗だ。
天野の一つの失敗で城兵が皆殺しの危機になったのだ。
だが、その時だった。
何やら外が騒々しい。
何事かと思い、天野は部屋を出てみた。
部屋を出てみるとそこには城兵が鎧兜を脱ぎ捨てて投降しようとしていた。
「みんなどうしたんだ?」
天野が薄汚い雑兵に聞くと雑兵は涙を流す。
「さっき尼子から『投降せよ』との矢文が来たんだべさ…。オラ達助かるんべ…。家族の元へ戻れるんべ…。」
天野はその矢文を読んだが、本当に投降せよと書いてあった。
他の城兵もこの文を読んで涙を流す。
やっと飢餓の苦しみから救われると。
これは城兵達の為にも投降するべきかも知れない。
どのみち城に籠っていては餓死するんだ。この文を信じるしかない。
天野は涙する城兵達を見て決めた。
「これより我々は尼子に投降する。」
天野が城兵全てに聞こえるように言った。
それを聞いた城兵は再び涙した。
城から投降する毛利軍を秋上宗信は快く受け入れた。
投降してきた兵には宗信自らおにぎりを作り、毛利の雑兵に渡していった。
そして、投降した城主毛利元秋と城代天野隆重をどうするか横道秀綱は小次郎と二人で相談して決めた。
決めたら小次郎はすぐに動いた。
小次郎は捕虜の場所に生き、縛られている毛利元秋と天野隆重の縄を切った。
「ほら、縄を切ってやったらさっさと自分の居場所に帰れ。」
そう言い放つ小次郎に天野は冴えない顔で言う。
「わしらに居場所が有れば良いけどな…」
戦国時代では敵の捕虜になることは屈辱であった。
守る城が落ちるとき、大将は切腹をして命を自ら絶つ者が多い。
だが、天野と毛利元秋はそれをしなかった。
城を奪われ、敵の捕虜となって帰って来た者は大抵の場合は家中で居場所を失う。
自ら命を絶つことが出来ない臆病者という理由でだ。
小次郎は天野達を近くまで連れていき、見送った。
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