シカノスケ

ZERO

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不死鳥の如く

勝つには「理」で動け

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次の日から尼子軍は月山富田城を包囲、毛利軍の補給線を絶ち、兵糧攻めをする事にした。


尼子軍の挙兵はいきなりだった為、毛利軍は兵糧を城に補充する余裕がなかった。

その為、毛利軍は兵糧攻めをされたら一ヶ月もせずに降伏するだろう…。

これが尼子軍の狙いである。


難攻不落の月山富田城は普通に攻めたのでは落ちない。


普通に攻めるなら恐らく敵兵500に対して5000は必要だと思われる。


それだけ鉄壁の堅城なのだ。



そして、今ここに尼子の敗戦という歴史を覆す『戦国史上最も残酷な城攻め』が始まる。






城を包囲してから1日目。


毛利側からの攻撃は多少あったが、どれも本格的な攻撃ではなかった。



「じゃあこれを頼みますね。」


宗信は兵士から戦況報告を聞き、そのついでに兵士に書状を渡した。


「宗信、さっきのは…?」

小次郎はさっきの書状がやけに気になり聞いてみた。

「城主の天野隆重に降伏の使者を出しました。多分、すぐには返事は返って来ないと思いますけど。でも降伏してくれるんなら無駄な血を流さずに済みますから良いですよね。」


その時の宗信の目は希望に溢れている様な目であった。

宗信の考えは良く言えば平和的、悪く言えばただの理想である。


小次郎は宗信の平和的な考えの結末を知っているから何も答えられないでいた。








月山富田城城代の天野隆重は毛利に古くから仕えており、毛利に忠誠を誓い、戦って数々の戦功を挙げている。

その分、莫大な報酬も得ており、天野隆重は毛利元就に調教されている様なものなのである。


小次郎は大学に行っていた時、心理学の授業を専攻しており、人の心理について多少知識があり、その事を思い出した。



心理学で『スキナーの実験』という有名な実験がある。

スキナーはレバーを押すと餌が出るという仕組みの箱を用意し、その中にネズミを入れた。

最初ネズミは自由に箱の中を動き回るが、偶然レバーを触り餌を得る。


そんな偶然が数度繰り返されるうちにネズミはレバーと餌の連動性を学習し、自発的にレバーを押すようなるという実験である。



天野隆重はまるでスキナーの実験と同じように毛利家の指令をきっちり遂行するたびに報酬という名の餌を与えられていた。


そうする事で「毛利に従えば必ず報酬があり、毛利は自分を見捨てたりしない。」と刷り込まれ行動は強化される。


行動が強化されるということは結果的には「疑いにくくなる」という事だ。


つまり天野隆重は完全に毛利家の「ペット」。

飼い主が自分を見捨てるなんて思いもしない。故に天野隆重は尼子に徹底抗戦。

降伏など有り得ないないのだ。


更に天野の配下の武将達も天野と考えを同じとしており、毛利の援軍を信じて籠城戦をするつもりなので、天野家臣団の切り崩しはかなり難しい。


よって宗信の平和的な結末は有り得ないのだ。

戦国の世も現実の世も理想とリアルは違うのだ。


理想を追うとリアルの壁にぶち当たる。



小次郎は宗信みたいに心が綺麗では無いため、理想的な考えが出来ない…というより理想通りに物事が動いた試しがない。


現実の世でも戦国の世でも理想や感情で動いて物事が上手く動く事は殆ど無い。


生きて行く為にはもっと「理」で…「合理性」で生きて行かねばならない。



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