上 下
49 / 119

調査団が来た!

しおりを挟む

「…陛下から直々に依頼された?お前がか?」
「そー。ほんとビックリだよね、兄さん大丈夫だった?兄さんは皇族の俺やディラン叔父上と違ってひ弱だからさぁ。」
コール子爵邸の応接間には、現皇帝陛下の第二子、現在はルートニアス公爵家の養子となったアイザックがいた。
部屋の外には、数人の部下と騎士が待機している。
「…お前ね…。」
コール子爵邸に、陛下が直接選抜した調査団が到着しているのだ。
事件の引き継ぎを行えば、ヒースヴェルト達は神殿に帰れるが、こうしてアイザックが来たことで、1日延ばすことにした。
「ぁい~…。フォレンは戦えないから…ぼくのせいなの。ザック、お兄様を怪我させてしまってごめんなさい…。」
応接間に、ヒースヴェルトが入ってくる。久しぶりのアイザックとの再会も、その兄を怪我させ、申し訳なさそうに肩を落としていた。
「ヒー様、か?…あれ?なんか色違くねぇ?」
いつもの白金の髪や、紫色の瞳が色を変え、黒い髪に琥珀色の瞳になっている。しかし、姿はヒースヴェルトそのもので。
「孤児院とコルディウスの村ではね、色を替えて過ごしていたの。…ぼくの瞳は、外国ではちょっと珍しいらしくって…ね?フォレン。」
小声で事情を話せば、アイザックも城で北の国の情勢を知っていたのか、納得した。
「あー、そういえば…あの色は…そうだよな。…兄さん、今回の件の資料はこれ?」
とん、と机の上を指で刺す。
並べられた、綺麗な文字で綴られた報告書。
ウォルトとフォレンが互いに調べ、聴取した内容を纏めたものだった。
「あぁ。これで全て、と言いたいが…例の証拠品は別の場所で保管している。」
「あぁ…あの卵ね。」
アイザックは、あの石の事情も知っている数少ない人間の関係者。
だからこそ、アイザックは父親から…もう一人の、事情を知る皇帝陛下から、勅命を受けたのだ。
そして、これを足掛かりにロレイジアを叩き潰すとまで口走った時には、さすがに焦ったが。
「しかし、お前はまだ成人前だろう…。元皇族とはいえ、誰か補佐を頼めなかったのか?」
「ま、俺も父上…陛下の臣下の端くれだしさ。やれるだけやってみるよ。それに、ヒー様が一緒にいるって聞いて、尚更俺が来たかったんだ。」
ちら、とヒースヴェルトを見て笑う。
「ぅ?ぼく?うん、会えて嬉しいよ、ザック。」
ヒースヴェルトも、にこり。
「……さて、資料には目を通すとして…商人の持っていた証拠品、見せてほしいんだけど。」

「ウォルト殿、案内を頼みます。私も後で参ります。」
「はい、アイザック様、此方です。」
ウォルトに続き、応接間を出たアイザックを見送り、フォレンはヒースヴェルトに向き直る。
「ヒー様の聴取は既に終わっていますから、部屋でお過ごしいただいて構いません。ただ、町に出ることは控えてほしいのですが…。」
「分かった。リアンは?」
「ぁ~、俺も調査の対応しないと。ごめんな。」
すまなそうにヒースヴェルトの頭をぽん、と撫でる。
「む~…。分かった…。」
「終わったらさ、中庭の木登り、またしようぜ。」
「ぁい!」
ヒースヴェルトは一人、部屋に戻ることにした。

リーナもジャンニも、村での事件について色々と聞かれているし、ルシオは商人から押収した穢黒石の件でアイザックらと共に行動している。
(……つまんない…。)
皆が忙しく動いていても、いつもは必ず誰かがそばにいてくれた。
神殿でも、旅から帰ってきた時から、常に誰かが傍に。
(…そっか…。ぼく、いつの間にかさみしがり屋になっちゃったのか…。)
一人で居た時は、ディーテ神の帰りを、親の帰りを何日でも待っていられた。
心の拠り所が創造神(ママ)だけだったから。
「心の拠り所、ぼくはたくさん…。ふふっ。嬉しい…。」
大事な人が増えた。友達も、翼になる人も皆、自分の愛すべき民たち。そんな彼らに、心を寄せることができていたことに、ヒースヴェルトは気恥ずかしくも嬉しくて。
こうして一人で居ると、色々と考えてしまう。
たとえば、孤児院の子供たち。親を亡くして、教会のお世話になっていた人たち。
(……ぼくは…この国ではきっと、孤児…なんだよね?でも…ぼくを産んだお母さんってどんな人だったのかなぁ…。
母親だと思っていたあの女は、母親じゃなかった。お父さんを殺す手引きをした敵。
なら、お父さんと結婚して、ぼくを産んで、捨てた人は誰?
今もダスティロスにいるのかな。…その人は、どんな気持ちでぼくたち親子を見捨てたの。生きて…いるのかな。)
こうして、周りに支えてくれる人ができて、守ってもらえることが理解できたからこそ、そんなことを考えることが、できるようになった。
「興味本意で会いたい…って思うのは、いけないことなのかな…。」
自分が、会いたいと願えばきっと、フォレンやディランを始め、アルクスの首領だって動いてくれそうだ。
それこそ、少々の危険など考慮せずに。
(…駄目だ。今のダスティロスの情勢は危険ばかり。もっと…安定してからでも…。)
ヒースヴェルトは、頭に浮かんだ些細な願いに、蓋をしたのだった。
大切な人が、目的のために傷付くのは、辛いから…。

ぼくの我が儘は、言わないでおこう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界樹の森でちび神獣たちのお世話係はじめました

カナデ
ファンタジー
 仕事へ向かう通勤列車の事故であっさりと死んだ俺、斎藤樹。享年三十二歳。  まあ、死んでしまったものは仕方がない。  そう思いつつ、真っ暗い空間を魂のままフラフラ漂っていると、世界の管理官を名乗る神族が現れた。  そこで説明されたことによると、なんだか俺は、元々異世界の魂だったらしい。  どうやら地球の人口が多くなりすぎて、不足する魂を他の異世界から吸い取っていたらしい。  そう言われても魂のことなぞ、一市民の俺が知る訳ないが、どうやら俺は転生の待機列からも転がり落ちたそうで、元々の魂の世界の輪廻へ戻され、そこで転生することになるらしい。  そんな説明を受け、さあ、じゃあ元の世界の輪廻へ移行する、となった時、また俺は管理官の手から転がり落ちてしまった。  そうして落ちたのは、異世界の中心、神獣やら幻獣やらドラゴンやら、最強種が集まる深い森の中で。  何故か神獣フェニックスに子供を投げ渡された。  え?育てろって?どうやって?っていうか、親の貴方がいるのに、何故俺が?  魂の状態で落ちたはずなのに、姿は前世の時のまま。そして教えられたステータスはとんでもないもので。    気づくと神獣・幻獣たちが子育てのチャンス!とばかりに寄って来て……。  これから俺は、どうなるんだろうか? * 最初は毎日更新しますが、その後の更新は不定期になる予定です * * R15は保険ですが、戦闘というか流血表現がありますのでご注意下さい               (主人公による戦闘はありません。ほのぼの日常です) * 見切り発車で連載開始しましたので、生暖かい目に見守ってくれるとうれしいです。 どうぞよろしくお願いします<(_ _)> 7/18 HOT10位→5位 !! ありがとうございます! 7/19 HOT4位→2位 !! お気に入り 2000 ありがとうございます!  7/20 HOT2位 !! 7/21 お気に入り 3000 ありがとうございます!

その転生幼女、取り扱い注意〜稀代の魔術師は魔王の娘になりました〜

みおな
ファンタジー
かつて、稀代の魔術師と呼ばれた魔女がいた。 魔王をも単独で滅ぼせるほどの力を持った彼女は、周囲に畏怖され、罠にかけて殺されてしまう。 目覚めたら、三歳の幼子に生まれ変わっていた? 国のため、民のために魔法を使っていた彼女は、今度の生は自分のために生きることを決意する。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~

ノエ丸
ファンタジー
「ステータスオープン!」シーン「——出ねぇ!」地面に両手を叩きつけ、四つん這いの体制で叫ぶ。「クソゲーやんけ!?」 ――イキナリ異世界へと飛ばされた一般的な高校ソラ。 眩い光の中で、彼が最初に目にしたモノ。それは異世界を作り出した創造神――。 ではなくただの広い草原だった――。 生活魔法と云うチートスキル(異世界人は全員持っている)すら持っていない地球人の彼はクソゲーと嘆きながらも、現地人より即座に魔法を授かる事となった。そして始まる冒険者としての日々。 怖いもの知らずのタンクガールに、最高ランクの女冒険者。果てはバーサーカー聖職者と癖のある仲間達と共に異世界を駆け抜け、時にはヒーラーに群がられながらも日々を生きていく。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...