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六、再びの熱。
六、再びの熱。 九
しおりを挟むSide:シアン:ハルネス
わざわざと胸騒ぎがして、ベビと一緒に窓の外を覗いた。
王宮の門の前に家来たちが並びだし、厳かに門が開かれた。
開かれた門の最前列に、師匠がいた。
馬から降りると、王子の元へ駆け寄り跪いたのが見える。
そして何重もの護衛に守られながら、馬車が王宮に入ってくると、王子がマントを翻しながらその馬車のドアを開けた。
「……ベビ、見てください。まるで童話の中から飛び出て来たような美しいお姫様です」
金髪のふわふわした髪が、踊るように風になびく。
上品につけられた宝石が、こんな遠くからでもキラキラと彼女を輝かせている。
真っ赤な唇。大きな瞳。着飾れ、整ったスタイル。
誰もが見とれるほど美しかった。
そして、そんな彼女をエスコートする王子も、誰よりも素敵だった。
御似合いの二人。王子は姫の手の甲に口づけをし、挨拶をする。
すると音楽が鳴り響き、二人を祝福し祝う。
「ベビ。貴方はどうしましょうか」
黒のローブで頭まで覆いながら、ベビを抱き上げた。
まだ小さな子犬。できれば此処にいたほうが食べ物にも困らないし、宮殿の者たちが優しくしてくださるだろう。
「でも……貴方は王子が下さった私の大切なベビです。良かったらお供してくださりますか?」
ベビは私の頬を舐めてくれたので言葉が通じたのだろう。
でしたら最後の我儘。この子も連れて行こう。
一向にぺろぺろと舐めるのを止めないベビに困り果てて苦笑すると、目尻に溜まっていた大粒に涙がぽろりと零れた。
そうか。
私はきっと自分のエゴを王子にぶつけながらも、自分自身を傷つけていたのだろうね。
誰も悪くない。
悪くなかったと思いたい。
そう思わなければ、誰一人幸せになれないんだ。
Side:アレイスター=フラメル
「どうぞ、フリジアとお呼び下さい、王子様」
垢向けた、――うちの国では見慣れないような豪華な女性だった。
美しいと毎日愛でられ、大切に育てられた花の様に高貴で、華美。
探し回ってやっと岩陰に隠れたいた囁かな花とはまるで正反対の様な姫。
「フリジア姫。こんな辺境の国に来て頂き大変光栄でございます。――こんなに美しい女性は見たことが無くて、言葉が出なかったのは初めてです」
「ふふ。お上手ね」
唇をあげて上品に笑うだけだ。自分の感情をこちらに見せようともせず、心配りもできる女性。
シアンが居なかったら、俺はこの女性を生涯幸せにしようと頑張れただろう。
そう思うと、後ろ髪を引かれたが、俺は跪いた。
「どうか許して欲しい。この国はもう、長くは持たない」
「……どういうことですの?」
俺は窓から見える、この国の神木を指差した。
「あの大木は何千年とこの国を守っていたが、崩れようとしている。あの大木が崩れえば、この国は簡単に埋まってしまう」
「そんな……」
「俺は貴方をその危険に晒したくない」
「失礼する。サイフォー、お前の部屋は既に蛻の殻だったぞ」
挨拶もそこそこにイユがマントを翻しながらやってくる。
「そうか。分かった」
「分かった、って、お前」
「俺の部屋には、シアンを守るために数人の護衛が部屋の前に待機していたはずだ。いたか?」
「……いや」
「俺の命令以外で聞くとしたら、一人しかいない」
自嘲的に笑うと、フリジア姫の方を振り向いた。
「少し、席を離れます」
この国には、蛇が住んでいる。
柵を巻きつけて、見動きが取れないように、思考さえも奪う蛇が。
それは、いつか力の加減を誤って、全てを締め付けて破壊してしまう。
「丁度いい。これで全てを終わらせられる」
俺が剣を握ると、イユは苦しげに眉を顰めた。
「……肉親だろ」
イユの言葉に何も感情が浮かばなかった。シアンを人柱として探し出し、恩を売り続けている人間だ。
「シアンには、誰も居ない。……俺が憎いかもしれないが、俺にもシアンしかいない」
「俺すらも、シアンを選ばなかったしな」
イユは一瞬だけ後悔した様な表情を見せたが、すぐにいつも通りの自信満々の笑顔を貼りつけた。
「シアンが宮殿を抜けだした今ならば、……嫌なものを見せなくて済むだろう。すぐに決着を付ける」
「だが、4人の正室制度はどうするんだ? その制度で国を守ってきたんだろ。今さら四人の婚約を破棄するのも国交が悪くなるぞ」
「悪くなったら、この国の王は信頼できないってことで擦りかえればいいだろう。ユグドの神木が無くなり、国との縁も切れるほど愚かな王ではないと思っている」
シアンの小さな世界を切り崩すには、俺がこの国を切り崩すしかない。
そうしなければいつまでもこの国は、――蛇に巻きつかれたままの国。
「俺の部下を招集させて、王の部屋へ攻め込む」
「……俺は王に世話になったので、どちらにも付けないが、シアンの幸せだけは協力する」
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