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三、思念

三、思念 四

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 私が了承したその夜、王宮は早速歓迎のお祝いが行われた。
 女中の方々が50人、私に召し仕えることになり、私の後ろをぞろぞろと付いて回る。
 そして弟子として、蛇神のお姿を見たことがあると言う清い存在のユアン。

 私をエスコートするのは師匠。

(けれどこの扱いは……同時に私を女性として周りに示している気がするような)

 今日の服も、紫色のマントに、長く床にまで伝う髪。
 装飾品も宝石ばかり。
 まるで王子の傍に寄りそう正室のような服装だった。
 王宮の真ん中に庭園があり大きな泉がある。
 泉を囲むように造られた王宮だからこそ、月が映える泉の周りで宴会が行われた。

 王には四人の正室がいるので、東西南北に大きな宮殿が建てられている。
 その最上階から正室たちは宴会を眺める。
 本人同士が遭遇しないようにと配慮されているからだ。
 王子が即位すれば、それぞれ屋敷を与えれらて王がひと月ずつ滞在するはずだ。

 政略結婚ゆえに、丁寧な扱いを受け、平等。
 だけれど、今のままでは、王子は平等にできるのか心配だった。

 楽器が夜空に響き渡る中、踊り子たちの煌びやかな舞の前で、私は微笑みつつも頭の中はぐちゃぐちゃだった。

「おい、手を出せ」

 威圧的に現れた王子が片手を出しだしてきた。
 その手には、小さな子犬がぶら下がっている。
 私は言われたとおりに両手を差し出すと、子犬は私の両手の中にすっぽりと入った。


「どうされたんですか?」

 雑種だろう子犬は、灰色の毛に垂れた耳を持っていた。

「迷い込んできた。周りを探したら兄弟と母親は宮殿の壁の外で倒れていた」
「そうですか。……この子だけ」

「シアン、お前が飼え」

「私が……?」

座った足の上に犬を下ろし撫でると、小さく鳴く。

「犬が居れば蛇も近づかないしな」

 そのまま自然に王子が隣に座ると、お酒を注いだり、団扇で仰いだりと周りが慌ただしくなったが王子がすぐに下がらせた。

 この人には、自分の立場をそろそろはっきりと自覚してもらわないといけない。


「それでは私が。ですが私は親に捨てられ愛情を知らないので上手く育てられるか自信がありません」
「俺はシアンに愛情を貰った。お前が愛情を知らないはずない」


 王子の言葉に、私は目を細めた。

「本当にご立派になられましたね」

 褐色の肌からは、照れているのかは判別できなかったけれど、私の方を見ないように泉に浮かぶ月ばかり見ているので分かった。

「立派じゃない。今からお前を酔わして……俺の寝室へ連れて行こうと考えてる」

 きっぱりと王子は言うと、二つのグラスを持ってきた。

「シアンを一人で寝かせたくない」
「私は結構お酒に強いですよ。王子が先に負けてしまうかもしれません」
「俺も強い。だからこの作戦を選んだ」

 王子が差し出して来たグラスは二つ。
 赤く燃える艶やかなワインと、甘い匂いを放つココナッツの入ったカクテル。
 ワインの方が度数が高そうだったけれど、カクテルの方は透き通っていない分、王子が何か入れているかもしれないと疑った。

「……王子は私がこの容姿を嫌いなのを知っている。だから私がワインを選ばないと思うでしょう」

 私がワインを受け取ると、王子はカクテルを間髪置かずに飲み干す。
そしてにやりと口角を上げた。
「ああ。だからお前が負けずにワインを取ると分かっていた」

「っ」

「俺は飲んだ。お前も飲め」

 グラスを揺らされ、安い挑発に笑みを零す。

「……何か入れたのですか?」
「ああ。俺に惚れる薬を入れた。一滴だけ」
「……馬鹿らしい」

 覚悟を決めて飲み干すと、喉から一気に熱くなり身体が火照るのを感じた。


「一滴ずつ、少しずつ惚れさせて、――薬のせいなのか本当に好きになったのか分からないぐらいシアンを虜にしてみたい」
「下らないですね」

 鼻で笑ったつもりでも、今すぐベッドに倒れ込みたいぐらい身体が熱くなるのを感じた。

「俺は、シアンが例え賢者だろうが大魔術師だろうが愛してるからな」

 ぐらぐらと揺れる視界の中、王子は泉に映る月のように体温を感じさせない静かな笑みを浮かべていた。

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