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三、落花
番外編②
しおりを挟む百六十八センチしかなかったから、百七十センチ台に乗れたのは小躍りしたいぐらいだ。まあ竜仁さんは百九十センチなので足元にも及ばないけど。
イタリア人の血を引く彼は身長が日本人とは違う。
「君はもっと伸びると思いますよ。私の愛を栄養に、極上の美青年に成長してます」
「自分でいいますか」
照れつつも、彼が僕の分のワインを注ごうとして慌ててグラスを奪った。
「飲まないの?」
「うーん。飲めないです」
いつの間にか移ってしまった彼の口癖に、頬が熱くなる。
「その……妊娠中はアルコール駄目らしくて」
「ああ、確かに母体には……」
ワイングラスを揺らしていた竜仁さんが固まる。
わー。イケメンって驚いて目を丸くしてもイケメンだなあ。
「誰が誰の?」
「僕が、貴方の、ですかね」
「……妊娠?」
「妊娠するような行為は、ほぼ毎日してるでしょ」
自分で言って恥ずかしくなった。そうだ。驚かせようと僕も小さなケーキを焼いていたんだ。竜仁さんに見せようと立ち上がろうとして、腕を掴まれた。
「……私の」
「そうです」
母子手帳もあるんだけど、この手は離れてくれない気がする。
別に隠していたわけではないんだけど、僕の本の出版で忙しそうにしていてタイミングを逃したというか。
どんな顔で言えばいいか分からず、彼を酔わせて穏やかな雰囲気の中、伝えようかなって思ったんだ。
「ありがとう。辰紀」
もっと大げさな、オーバーリアクションで喜ぶと思っていたのに。
全身を震わせ、泣き出しそうな顔で僕の腰を抱きしめてきた。
「泣かないで。僕の運命」
「ふふ。言い方が素敵ですね」
腰に顔をぐりぐり押し付けてくる竜仁さんを僕も抱きしめる。
この人に出会えてよかった。好きになってもらえてよかった。
運命でよかった。ありふれた言葉しか出てこないけど、気持ちは表せないほどに溢れている。
「ワインは私が飲みます。君は座っていて。妊娠中は家事は禁止、重いものだめですよ。で、栄養の取れた食事とあとは名前を考えなくては」
慌てて右往左往したあと、僕を抱きかかえ座り直した。
「花の後遺症も出ず、頑張って生きてくれた君に感謝しかないです」
「僕も貴方には感謝しかないです」
「可愛い運命には、こうですね」
頬にキスしてくれた彼に「きゃー」とはしゃぐと更に喜んで沢山キスをくれた。
ハンバーグを完食後、さっそく買ってくれたパソコンで、沢山子どものグッズを買おうとしていたので可愛かった。
そして本当にワインを丸々一本飲み、頬を真っ赤にしてベットに倒れ込む竜仁さんに、僕からも項にキスしたのだった。
Fin
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