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一、蕾

一、蕾 ⑯

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 何かの儀式のように優しく指輪を薬指にはめられ、婚約指輪のようだ。
 やっと戻ってきた一つ目の指輪が、だんだんと溢れてきた涙でぼやけてくる。

「祖母は、貴方の祖父に無理やりに番にされ、この部屋に閉じ込められた」
 アルファに高尚も下劣もいない。
 運命だと分かれば、何をしても良いと思っているんだ。
 僕の感情はいらない。叫んでも、心はいらないんだろう。
 あれほど祖母は僕に口酸っぱく教えてくれていたのに、なんてザマだろうか。

「その話は、身体を休めてから――」
「そこで祖母の匂いをこの部屋から漂わせる中、隣に部屋で貴方の祖父は、愛する人と初夜を過ごしたそうですね。祖母の香りで身体を発情させて、隣で別の女性を抱いたと」


 祖母は初めてヒートを迎えた僕に、何度も何度もその話を伝えた。
 祖母は、この屋敷から逃げ出す前まで憎んでいたと。運命の番を憎んで憎んで、そして離れる方法を考え、花の存在を知った。
 花を食べた祖母の匂いを嗅ぐと、相手は吐き気や体が痺れて思うように動けなくなったと。
 その隙を見て祖母がこの屋敷から逃げ出した。屈辱でいっぱいだったこの屋敷から逃れられた。
 そして僕に花を食べることを薦めくれていたのに。
 
 毒々しい色の花しかない。
 美味でもない。
 それでもそんな花びらを飲み込まないといけないほど、祖母は絶望していたんだ。

「君には、そう伝わっているんですね。私とは違う」
「加害者が都合のいい話にすり替えるのは仕方ないでしょ」
「じゃあどうして、貴方の祖母は私に貴方の首輪の鍵を贈ってくれたんでしょうね」
「……は?」

 彼は脱ぎ散らかった服を集め、ペットボトルを枕元に置くと部屋から出ていこうとする。ドアを開けて少し振り返る。
「服は全て洗ってくるので、大人しくしていなさい」
「……体が動けたら逃げてやるよ」

 肢体を投げ出してベットに俯せに倒れているのは、お前が気絶しても何度も何度も猿のように腰を振ったからだ。
 本当に花とアルファの精液が体の中で反応しているのか、逃げ出す元気なんてない。

 身体に浸透していくうちに、花の効果と敵対して暴れているのか腹の中が気持ち悪くなってきた。

 縛られているわけではない。取引を持ち掛けたのは僕。

 彼に花の香りが効かないなんて思わなかったんだ。
 こんな鶏ガラみたいな身体のオメガに、欲情するとも思わなかったし首輪が外れるとも思わなかった。
 
 番になった?

 実感なんて湧かない。
 彼には憎しみと恨みしか湧かなかった。

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