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一、蕾
一、蕾 ⑪
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日本ではその花を『艶酔』と呼んでいる。オメガやベータには何も感じないが、アルファはその花の匂いを嗅ぐとある人は全身の力が抜かれるように、またある者は全身が痺れるように、またある者は発情するように全身が熱くなる。オメガの匂いに似ているのか、アルファの五感を強く刺激するようで、アルファには麻薬に近い。
祖母が言うには、オメガの発情の状態をアルファに味合わせてやれる花で、僕たちオメガを守る花だと言っていた。
僕はその花を、物心がついたころには既に食べていた。
紫。赤。青。朱。蒼。
深くて、夜の暗闇を吸い込んだような花びらばかり。
お皿に盛られ、上品にナイフとフォークで食べるように促された。
祖母と二人暮らしだったので、鼻を食べる行為の違和感に気づけなかった。
食事の最後に運ばれてくる、ただの青臭い花。漢方の代わりなのかと思っていた。それを食べることが生活の一部になっていたから違和感がなかった。
ただ中学の時に初めてのヒートで、アルファに襲われそうになった時、相手は僕の強い香りに意識を手放した。意識を手放すアルファは、その後も何回も見ている。
その花を毎日食していた僕は、発情したときに強い香りを放つ。
その香りをかいだアルファが、目の前で倒れていくのは少し胸がすっきりしていた。
お前たちに屈することしかできない、弱い立場のオメガではない。
お前たちには負けない。食べたら死ぬだろう、毒を放つオメガ。
絶対に負けないつもりだった。
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