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一、蕾

一、蕾 ⑩

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 さっさと僕に騙されて、花に酔って意識を手放せば良い。
 アルファには劇薬のはずだ。
 発情した身体には、車酔いのような気持ち悪さがあるはず。実際に嘔吐したアルファを見下ろしたことがある。
 まるで口の中を花びらで埋め尽くされ、窒息しそうな息苦しさと吐き気に襲われる。

 お前たちアルファにとって、簡単に組み敷けて子を産ませるだけの、色香を振りまくだけの下卑た存在のオメガに、騙されて見下ろされるのはどれだけ屈辱なのだろうか。

 はやく眩暈を起こせ。
 その隙に僕は形見だけ貰って逃げていけるのだから。
 彼が僕を抱きしめ足を持ち上げ抱きかかえた。
 男の僕をお姫様抱っこするなんて、高尚なアルファ様の考えは分からない。

 そしてベットへ下ろすと、自分も僕の上に跨がって服を脱ぎ出す。
 僕に誘われた大義名分があるんだから、積極的になるのは仕方ないだろう。
 一度ここまで誘ってしませば僕のものだ。
「一回抱くことに、形見を一つ返してあげましょうか」
「それでいいです」
 馬鹿だなあ。貴方は次に起きたときには、僕も形見も全部消えてしまっているんですよ。
 なんて言えずに笑ってしまう。

「ちなみに、貴方に聞きたいことが山ほどあるのですがちょっとだけ首輪の鍵口をこちらに見せて貰っていいでしょうか」
「焦らすね」
 クスクス笑ってひっくり返ると、後ろ髪をめくる。
 伸ばしっぱなしの髪だなって苦笑しつつ、鼻歌を歌う。
 首筋を匂えば、一発で酔うはず。
 だが一向にそんな雰囲気に持ち込まず、事務的に首輪を観察している様子だった。

 彼は無言で首輪を触ると、小さくカチャンと音を立てて首輪を外して床に放り投げた。
「――え?」
 首輪が、外れた?
 なぜ?
 鍵は僕の両親が持っているはずだ。
 僕だって外すことは諦めていた。
驚いて振り返ろうとした僕の頭を、彼は枕へ押しつけた。

「違法スレスレ。これを取り締まるとヒート中のオメガのレイプ事件が増えちゃうから、未だにブレーキが踏まれている」
「何の……話ですか」
「でも強い副作用があるのが難点。今は加工された錠剤で、一日に体内に入れていい分量があったはず。でも薬用では認められていないよね?」

 冷たい声に、息を飲む。
 枕に顔を押し付けられていてよかった。
 表情を見ていたら、隠せなかったかもしれない。

「君は加工されていない、それ本体を所要して食べているなら、警察に私が通報したらどうなるでしょう」
「だから、何を……」
 頭の中がぐるぐるする。外れた首輪、バレた切り札、そして身動きがとれない体制。
 彼は僕のうなじに口づけしながら、諭すように優しい声色で言う。


「花を食べているんですね、辰紀さん」


 逃げられない。形勢逆転できると思っていた僕よりも、彼の方が上手だった。


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