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1章.はちゃめちゃ人生ゲームの始まり
職業=魔法使い?
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花梨は道の先を見つめた。
相変わらず人外の存在が行き交っていて、“3マス”進んだところがどうなっているのか分からない。彼らは急に色を変えた道に対して、何も感じないようだった。あるいは、そのこと自体に気が付いていないかのような。
そのことの不自然さに首を傾げつつ、花梨は足を踏み出した。五歩ほど進んだところで、スタート地点と思しき黄色地帯から次のピンク地帯へと突入する。
「1、2……」
呟きつつさらに歩く。次に水色の石たちが花梨を迎え、最後に黄緑のマスに到達した。
「3、っと」
最後のマスに到着して、花梨は後ろを振り返ってみた。マスは一辺が三メートルほどの正方形だったので、最初の位置が意外と遠くにある。
変な感慨に耽りながら、花梨は足下に視線を落とした。そこには、先ほどのようにキラキラと文字が浮かび上がっている。
『薬師になれる。給料は一回2,000ルル。なるなら“職業カード”をとって、次の給料日まで進む。』
「薬師、ね」
花梨は呟いた。ルル、とは人生ゲームの中の通貨だったはずだ。2,000ルル、というのが日本円でどれくらいになるのかは知らないが、この世界の職業としてはまだまだ安かった気がする。
「これってさ、なるもならないも自由に決めれるってことだよね?」
花梨はんんっと唸った。だって非常に悩ましい。
ここで妥協して薬師になれば、フリーターになることは避けられる。しかしその代わり、後ろに控えるもっと儲かる仕事は諦めることになるが。
だがここで薬師にならなければ、花梨は職無しになる可能性も大いにある。10マスしかない職業ゾーンの、すでに3マス分を進んだのだ。次に出た数が8以上であれば、花梨はめでたくフリーターだ。
花梨は顎に手をやり、瞳を閉じて……よしっ、と心を決めた。ぱち、と目を開ける。
「ならない!」
声高に宣言すると、また左手首が熱くなった。
今度は慌てず、袖を捲ってルーレットを回す。くるくると回り出したルーレットはやがて、一つの数字を指して止まった。出た数字は ─── 7。
「やったぁ!」
思わず花梨は叫んで飛び上がった。横を過ぎる一ツ目の少年が不気味そうにこちらを見たが、気にならない。
花梨は歩き始めた。その足取りは軽い。
1、2……とマスを進み、あっという間に目的のマスに着く。そしてそこに浮かぶ文字を意気揚々と覗き込んで、
「へ!?」
思わず花梨は目を擦った。慌ててもう一度読み直す。
『魔法使いになれる。給料は毎回ルーレットを回し、出た数の五千倍。なるなら“職業カード”をとって、次の給料日まで進む。』
「ま、魔法使い!?」
見間違いではなかった。どうやら花梨は魔法使いになれるらしい。
「えっと、何かな。これ、私でも魔法が使えるようになるの? それとも、名前だけ??」
頭の中は疑問でいっぱいだが、取り敢えず花梨の答えは決まっている。
「なる!」
花梨は宣言した。途端、花梨の立っているマス全体が輝きだし、その光が花梨を包む。
眩しくて思わず目を瞑ると、なんだか体がじんわりと温かくなった。まるでコタツの中にいるように。
花梨はその心地良さに身を委ねていたが、しばらくするとその温かさは引いてしまう。
名残り惜しく思いながら目を開いて、花梨はギョッとした。
「え、服、いや、え!?」
ただひたすらに混乱する。花梨の服は、さっきまで着ていたものと全く違っていた。
普通のシャツとタイトスカートに包まれていたはずの体は、大きな布ですっぽりと覆われていた。マント? いや、ローブか。いかにも魔法使い、と言った感じである。
ローブの中の服は至ってシンプルだった。少し大きめのTシャツとスキニーパンツ。剥き出しだった足は、皮の靴を履いている。
「なにー? これが、魔法使いの制服なの?」
花梨はくるくるとその場で回った。どうせなら、もうちょっと可愛い服が着たかった。これでも一応女だし。
そんなことを考えていた花梨は、ふと目の前に何かが浮かんでいるのに気が付いた。ヒョイッと掴んでみると、それは抗うことなく花梨の手に収まる。
「あ、これ、職業カードだ」
そう、それは人生ゲームに付いていた職業カードだった。すごい、本当にあのゲームにリンクしている。
次は一体何があるのだろう? 職業カードをズボンのポケットにしまいつつ、花梨はワクワクしながらまた歩き出した。
相変わらず人外の存在が行き交っていて、“3マス”進んだところがどうなっているのか分からない。彼らは急に色を変えた道に対して、何も感じないようだった。あるいは、そのこと自体に気が付いていないかのような。
そのことの不自然さに首を傾げつつ、花梨は足を踏み出した。五歩ほど進んだところで、スタート地点と思しき黄色地帯から次のピンク地帯へと突入する。
「1、2……」
呟きつつさらに歩く。次に水色の石たちが花梨を迎え、最後に黄緑のマスに到達した。
「3、っと」
最後のマスに到着して、花梨は後ろを振り返ってみた。マスは一辺が三メートルほどの正方形だったので、最初の位置が意外と遠くにある。
変な感慨に耽りながら、花梨は足下に視線を落とした。そこには、先ほどのようにキラキラと文字が浮かび上がっている。
『薬師になれる。給料は一回2,000ルル。なるなら“職業カード”をとって、次の給料日まで進む。』
「薬師、ね」
花梨は呟いた。ルル、とは人生ゲームの中の通貨だったはずだ。2,000ルル、というのが日本円でどれくらいになるのかは知らないが、この世界の職業としてはまだまだ安かった気がする。
「これってさ、なるもならないも自由に決めれるってことだよね?」
花梨はんんっと唸った。だって非常に悩ましい。
ここで妥協して薬師になれば、フリーターになることは避けられる。しかしその代わり、後ろに控えるもっと儲かる仕事は諦めることになるが。
だがここで薬師にならなければ、花梨は職無しになる可能性も大いにある。10マスしかない職業ゾーンの、すでに3マス分を進んだのだ。次に出た数が8以上であれば、花梨はめでたくフリーターだ。
花梨は顎に手をやり、瞳を閉じて……よしっ、と心を決めた。ぱち、と目を開ける。
「ならない!」
声高に宣言すると、また左手首が熱くなった。
今度は慌てず、袖を捲ってルーレットを回す。くるくると回り出したルーレットはやがて、一つの数字を指して止まった。出た数字は ─── 7。
「やったぁ!」
思わず花梨は叫んで飛び上がった。横を過ぎる一ツ目の少年が不気味そうにこちらを見たが、気にならない。
花梨は歩き始めた。その足取りは軽い。
1、2……とマスを進み、あっという間に目的のマスに着く。そしてそこに浮かぶ文字を意気揚々と覗き込んで、
「へ!?」
思わず花梨は目を擦った。慌ててもう一度読み直す。
『魔法使いになれる。給料は毎回ルーレットを回し、出た数の五千倍。なるなら“職業カード”をとって、次の給料日まで進む。』
「ま、魔法使い!?」
見間違いではなかった。どうやら花梨は魔法使いになれるらしい。
「えっと、何かな。これ、私でも魔法が使えるようになるの? それとも、名前だけ??」
頭の中は疑問でいっぱいだが、取り敢えず花梨の答えは決まっている。
「なる!」
花梨は宣言した。途端、花梨の立っているマス全体が輝きだし、その光が花梨を包む。
眩しくて思わず目を瞑ると、なんだか体がじんわりと温かくなった。まるでコタツの中にいるように。
花梨はその心地良さに身を委ねていたが、しばらくするとその温かさは引いてしまう。
名残り惜しく思いながら目を開いて、花梨はギョッとした。
「え、服、いや、え!?」
ただひたすらに混乱する。花梨の服は、さっきまで着ていたものと全く違っていた。
普通のシャツとタイトスカートに包まれていたはずの体は、大きな布ですっぽりと覆われていた。マント? いや、ローブか。いかにも魔法使い、と言った感じである。
ローブの中の服は至ってシンプルだった。少し大きめのTシャツとスキニーパンツ。剥き出しだった足は、皮の靴を履いている。
「なにー? これが、魔法使いの制服なの?」
花梨はくるくるとその場で回った。どうせなら、もうちょっと可愛い服が着たかった。これでも一応女だし。
そんなことを考えていた花梨は、ふと目の前に何かが浮かんでいるのに気が付いた。ヒョイッと掴んでみると、それは抗うことなく花梨の手に収まる。
「あ、これ、職業カードだ」
そう、それは人生ゲームに付いていた職業カードだった。すごい、本当にあのゲームにリンクしている。
次は一体何があるのだろう? 職業カードをズボンのポケットにしまいつつ、花梨はワクワクしながらまた歩き出した。
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