上 下
7 / 20
1章.はちゃめちゃ人生ゲームの始まり

職業=魔法使い?

しおりを挟む
 花梨は道の先を見つめた。

 相変わらず人外の存在が行き交っていて、“3マス”進んだところがどうなっているのか分からない。彼らは急に色を変えた道に対して、何も感じないようだった。あるいは、そのこと自体に気が付いていないかのような。

 そのことの不自然さに首を傾げつつ、花梨は足を踏み出した。五歩ほど進んだところで、スタート地点と思しき黄色地帯から次のピンク地帯へと突入する。


「1、2……」


 呟きつつさらに歩く。次に水色の石たちが花梨を迎え、最後に黄緑のマスに到達した。


「3、っと」


 最後のマスに到着して、花梨は後ろを振り返ってみた。マスは一辺が三メートルほどの正方形だったので、最初の位置が意外と遠くにある。
 変な感慨に耽りながら、花梨は足下に視線を落とした。そこには、先ほどのようにキラキラと文字が浮かび上がっている。



薬師くすしになれる。給料は一回2,000ルル。なるなら“職業カード”をとって、次の給料日まで進む。』



「薬師、ね」


 花梨は呟いた。ルル、とは人生ゲームの中の通貨だったはずだ。2,000ルル、というのが日本円でどれくらいになるのかは知らないが、この世界の職業としてはまだまだ安かった気がする。


「これってさ、なるもならないも自由に決めれるってことだよね?」


 花梨はんんっと唸った。だって非常に悩ましい。

 ここで妥協して薬師になれば、フリーターになることは避けられる。しかしその代わり、後ろに控えるもっと儲かる仕事は諦めることになるが。
 だがここで薬師にならなければ、花梨は職無しになる可能性も大いにある。10マスしかない職業ゾーンの、すでに3マス分を進んだのだ。次に出た数が8以上であれば、花梨はめでたくフリーターだ。

 花梨は顎に手をやり、瞳を閉じて……よしっ、と心を決めた。ぱち、と目を開ける。


「ならない!」


 声高に宣言すると、また左手首が熱くなった。
 今度は慌てず、袖を捲ってルーレットを回す。くるくると回り出したルーレットはやがて、一つの数字を指して止まった。出た数字は ─── 7。


「やったぁ!」


 思わず花梨は叫んで飛び上がった。横を過ぎる一ツ目の少年が不気味そうにこちらを見たが、気にならない。

 花梨は歩き始めた。その足取りは軽い。

 1、2……とマスを進み、あっという間に目的のマスに着く。そしてそこに浮かぶ文字を意気揚々と覗き込んで、


「へ!?」


 思わず花梨は目を擦った。慌ててもう一度読み直す。



『魔法使いになれる。給料は毎回ルーレットを回し、出た数の五千倍。なるなら“職業カード”をとって、次の給料日まで進む。』



「ま、魔法使い!?」


 見間違いではなかった。どうやら花梨は魔法使いになれるらしい。


「えっと、何かな。これ、私でも魔法が使えるようになるの? それとも、名前だけ??」


 頭の中は疑問でいっぱいだが、取り敢えず花梨の答えは決まっている。


「なる!」


 花梨は宣言した。途端、花梨の立っているマス全体が輝きだし、その光が花梨を包む。

 眩しくて思わず目を瞑ると、なんだか体がじんわりと温かくなった。まるでコタツの中にいるように。
 花梨はその心地良さに身を委ねていたが、しばらくするとその温かさは引いてしまう。
 名残り惜しく思いながら目を開いて、花梨はギョッとした。


「え、服、いや、え!?」


 ただひたすらに混乱する。花梨の服は、さっきまで着ていたものと全く違っていた。

 普通のシャツとタイトスカートに包まれていたはずの体は、大きな布ですっぽりと覆われていた。マント? いや、ローブか。いかにも魔法使い、と言った感じである。
 ローブの中の服は至ってシンプルだった。少し大きめのTシャツとスキニーパンツ。剥き出しだった足は、皮の靴を履いている。


「なにー? これが、魔法使いの制服なの?」


 花梨はくるくるとその場で回った。どうせなら、もうちょっと可愛い服が着たかった。これでも一応女だし。

 そんなことを考えていた花梨は、ふと目の前に何かが浮かんでいるのに気が付いた。ヒョイッと掴んでみると、それは抗うことなく花梨の手に収まる。


「あ、これ、職業カードだ」


 そう、それは人生ゲームに付いていた職業カードだった。すごい、本当にあのゲームにリンクしている。

 次は一体何があるのだろう? 職業カードをズボンのポケットにしまいつつ、花梨はワクワクしながらまた歩き出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

こんなに遠くまできてしまいました

ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。 親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。 可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。 (以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です) ※完結まで毎日更新します

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...