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後編

突破せよ

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『おい~!どないすんねん!見てみぃ、お前らがこんな所まで無理矢理連れてきよるからこんな目におうてるやないか!あたしは悪いけどパクられたら全部ゲロしたるからな!いや、いやいや、あたしかてあのことがあるねんぞ。あぁ~どないすんねん!』

 槐はすでに捕まった後のことを考えている。

『どうにか逃げられないの?』

 さすがに愛羽もこの瞬間に全員で切り抜ける方法が思いつかなかった。

『無理に決まっとるやろ!ケツのパトカー見てみーや。反対車線まで埋めて向かってくんねんぞ。こんな5、6台ぽっちでどーにかなるもんちゃうで!あの族止めちゅう壁も突っ込んだところで逃げられへん。ほんで最後はぞろぞろお巡り出てくんで、くそっ』

 一斉検挙は県警の暴走族対策本部が取り締まりたい暴走族を選定し、まず必ず通るであろうルートを想定し更にその中で絶対に逃げられないであろう場所で行われる。
 後ろから複数台のパトカーで追いながら前方を通称族止めというバリケードで塞ぎ、前後に潜んだ警察数十人で挟み撃ちにしてひるんだ所を一気に捕まえてしまうという暴走族が集会中最も恐れる作戦だ。
 これにかかるとまず冷静さを欠き、焦ってUターンしようとしてエンストしたり単車を倒したり周りとぶつかったり、挟まれた人間はほぼ逃げられず捕まる。
 その検挙率は98%と言えるだろう。

『…そう、終わりや。特攻服着とったら言い逃れはできん。有無を言わさず引っ張られんで。なぁ?浬さん』

『そうや。特攻服着とる奴らはな。萼ちゃん』

 萼と浬は互いにうなずいた。

『おい!えぇかチビ!Uターンして全員でケツのパトカー、あれできるだけ止めてこいや!』

 愛羽の胸ぐらをつかみながら萼は後方を指差した。

『壁まで追い込まれたら、お巡りぎょーさん出てくんねん!できるだけ時間稼ぐんやで!そん位できるやろ!?』

 浬も早口で全員に向けて言う。

『ちょっと待って、どーゆーこと?』

 いや、掠は言葉にしたがこの流れでどーゆーことかは分かった。

『えぇからみんなして早よ行かんかい!パクられたら守れるものも守れへんようなるで!』

 一刻を争うという萼の言葉を聞いて愛羽は一気にアクセルターンし猛スピードでパトカーに向かった。
 玲璃も掠たちもそれに続き5台で必死にパトカーを食い止める。
 かなり低速でのローリング走行で言われた通り時間を稼ぐがはっきり言って時間の問題だった。
 萼と浬は走り出すと前方の族止めに向かっていった。槐はその後ろ姿を眺めていた。

『あいつら、まさか…』

 道路のど真ん中を全速力で萼が走っていくと脇から警察が何人も飛び出してきた。

『コラァ!止まれぇ!』

 萼は止まる訳もなく群がる警察の中に飛びかかっていった。

『放さんかいボケぇ!どこ触っとんねん!エロオヤジ!』

 萼は力の限り暴れ警察の手を振りほどき抗った。

『あたしただの一般人やぞ!お前ら全員訴えるからな!覚悟せぇよ!』

 萼がまだ暴れてる内に浬は身を低くして歩道の影を素早く走り族止めの目の前にまでたどり着いた。
 浬は族止めの車輪のストッパーを解除すると一気に力ずくで押し始めた。道路に広がった族止めを押し戻そうというのである。
 警察が気づいた時には族止めの車輪は勢いをつけて道路の端に向かって走り出していた。ついでに浬は族止めをまた広げられないように体全体で押し倒した。

『ま、こんなもんやろ』

 浬がパンパンと手を払うと警察たちが浬を押さえつけた。

『今やぁ~!ガキ共~!早う行かんか~い!』

 萼と浬は押さえつけられながらも力いっぱい叫んだ。

『おい愛羽!壁がどいたぞ!』

 族止めがなくなったことに気づくと愛羽たちは一気に加速し道路に群がる警察たちを次々によけ突破していった。
 掠、旋は後ろに乗せていた萼と浬をなんとか助けようと突破した所で停まり振り返ったが萼と浬はガッシリとつかまれてしまっている。

『あぁ…どうしよう…』

『どうにか助けないと!』

 だがその姿を見て萼と浬は叫んだ。

『止まるなぁ!走れぇ!』

『さっさと行かんかい!』

 2人を助けるのは無理だろう。そうこうしてる間に全員捕まってしまう。
 そもそも2人もそうと分かってその役を買って出た。

『行きましょう。2人に失礼よ』

 珠凛は発進し、旋も掠もやりきれない思いを食いしばって走り出した。

 遅れて槐が1人ウイリーしながら群がる警察の中を突っ切ってきた。

『お前らアホやろ!何しとんねん!早よ戻ってこんかい!』

『お前こそ何しとんねん!このアホ面ぁ!行かんかいボケ槐ぅ!』

『行けぇ!槐ぅ!気張らんかい!大阪魂見したれや!』

 槐は心苦しかったがもう仕方なく前を向いた。

『ドアホが…』

 そう言い捨てると槐も走り出した。

 萼と浬は乱暴に引っ張られ護送車に乗せられてしまった。

『アホ咲薇…これで、1個返したからな…』

 萼は走っていく愛羽たちを見届けるとそう呟いた。
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