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後編
かつてない怒り
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『瞬ちゃん!』
捕らわれの狼はその声を聞いてドキッとした。
できることならこの場で1番聞きたくなかった声。
(暁…さん…)
瞬は声の方に振り返れなかった。
仲間を人質に取られ、自分を雇ってくれ人に見せない素顔まで見せてくれた神楽を傷つけた自分はもはや裏切り者だ。
合わせる顔などないし、この場で負けることを許されず戦うことしかできない自分の近く、せめて目の届く範囲には現れてほしくなかった。
『瞬ちゃん、あたしだよ。こっち向いてよ…』
騒々しい乱闘の声が飛び交う中、その声は誰の声よりも真っ直ぐ心の底に響いてきた。
瞬は目を閉じ耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
『瞬ちゃん、泪ちゃんたち人質に取られてるんでしょ?そうなんだよね?神楽さんが言ってた。みんな分かってるから…だから、大丈夫だよ。みんなでなんとかするから…だから、こっち向いてよ…』
瞬は手で口を押さえた。声が漏れないように。
でも涙は止められなかった。思わず振り向いてしまいたくなった。
だがその横で様子を見ていた四阿が嘲笑う。
『はっはっは!おい雪ノ瀬!手が動いてねぇなぁ。さぼってんのか?まさか助けてもらおうなんて思ってんじゃねぇだろうなぁ?いいぜ。妙な真似してみな?電話1本だ。やれと言えばそれで終わりだ。どうする?』
瞬は顔を青くして涙を呑んだ。
そうだ。みんなが分かってくれていても、自分の行動1つで泪は突き落とされる。ただの事故を装って。
泪を守る為に自分は従わない訳にはいかない。
『…あいつだね?瞬ちゃん…』
愛羽は鋭い視線だけを四阿に向けた。
『あいつに見張られてるんだね?そうなんでしょ?』
愛羽は今まで見せたことのない怒りに満ちた凶暴な顔を見せた。
『…っあの…くそ野郎に…』
体が震えている。愛羽がこんなに怒りを覚えたのは、過去に1度だけである。
『はっはぁ!せっかくだけどな、それは少し違うぜ。確かに近くで見張ってるのはあたしだがな、この中かもしくはどこからかもう1人が見てるはずだ』
『…もう1人?』
『そうさ。そいつがCRSの本当の頭なんだよ。お前も見ただろ?覇女を叩き潰したレディの姿を。CRSの表向きの頭は優子だがな、どうだ、絶望したか?さぁ雪ノ瀬命令だ。そいつを神楽の時みてーにぶち殺せ』
瞬は愕然とした。この目の前だけでなく遠くからも見張られている?
どうにもならない。どうにかして四阿を破ったところでこちらの動きが把握されている以上自分はやはり逃げられない。
だが愛羽とも戦いたくない。
自分を暗い道から救い出してくれたこの少女を、この手でまた傷つけるなんて考えられなかった。
正直、もう全てを諦めてしまいそうだった。
『瞬ちゃん…いいよ。タイマンはろ』
『…え?』
言われた瞬が今なんと言われたのか分からなくなって愛羽の方を見た。
『大丈夫。絶対大丈夫だから、瞬ちゃんは何も心配しないであたしとタイマンはればいいんだよ』
この子は一体何を言ってるんだろう。瞬は愛羽の考えが全く分からなかった。
『…どうして?』
『言えない。そいつに見張られてるから。でもあたしを信じて。瞬ちゃんはそいつの言う通りに動けばいいの』
『暁さん…あたしには…』
無理。そう言おうとした時、愛羽が笑いかけた。
『あたしが絶対、瞬ちゃんにもう誰も傷つけさせたりしない』
分からない。瞬には分からないが愛羽たちも何かを考えているということだけは分かる。
『暁さん…でも、あたし…ステロイドを打たれているの…』
そうだ。ついさっきドーピングのステロイドを打たれている。
少なくとも2時間近く効果は消えない。
愛羽にはあまりにも荷が重いのは分かりきっている。
『大丈夫。もう瞬ちゃんだけにつらい思いなんてさせないから』
愛羽は笑顔で言いきってみせた。
『ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!早くやれ!!命令が聞けねぇのか!!』
四阿が怒鳴り声をあげると愛羽は構えて言った。
『瞬ちゃん打って!泪ちゃんたちを守るには、この方法しかないの!あたしは絶対平気だから!』
平気?こんなに痛いことはない。こんなにむごいことはない。
『信じて!瞬ちゃん!』
もう自分は死んでしまいたい。だがこんな自分をそれでも笑って許してくれてしまいそうなこの自分より少し小さな少女を、瞬はその言葉を信じ彼女を殴り飛ばした。
捕らわれの狼はその声を聞いてドキッとした。
できることならこの場で1番聞きたくなかった声。
(暁…さん…)
瞬は声の方に振り返れなかった。
仲間を人質に取られ、自分を雇ってくれ人に見せない素顔まで見せてくれた神楽を傷つけた自分はもはや裏切り者だ。
合わせる顔などないし、この場で負けることを許されず戦うことしかできない自分の近く、せめて目の届く範囲には現れてほしくなかった。
『瞬ちゃん、あたしだよ。こっち向いてよ…』
騒々しい乱闘の声が飛び交う中、その声は誰の声よりも真っ直ぐ心の底に響いてきた。
瞬は目を閉じ耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいだった。
『瞬ちゃん、泪ちゃんたち人質に取られてるんでしょ?そうなんだよね?神楽さんが言ってた。みんな分かってるから…だから、大丈夫だよ。みんなでなんとかするから…だから、こっち向いてよ…』
瞬は手で口を押さえた。声が漏れないように。
でも涙は止められなかった。思わず振り向いてしまいたくなった。
だがその横で様子を見ていた四阿が嘲笑う。
『はっはっは!おい雪ノ瀬!手が動いてねぇなぁ。さぼってんのか?まさか助けてもらおうなんて思ってんじゃねぇだろうなぁ?いいぜ。妙な真似してみな?電話1本だ。やれと言えばそれで終わりだ。どうする?』
瞬は顔を青くして涙を呑んだ。
そうだ。みんなが分かってくれていても、自分の行動1つで泪は突き落とされる。ただの事故を装って。
泪を守る為に自分は従わない訳にはいかない。
『…あいつだね?瞬ちゃん…』
愛羽は鋭い視線だけを四阿に向けた。
『あいつに見張られてるんだね?そうなんでしょ?』
愛羽は今まで見せたことのない怒りに満ちた凶暴な顔を見せた。
『…っあの…くそ野郎に…』
体が震えている。愛羽がこんなに怒りを覚えたのは、過去に1度だけである。
『はっはぁ!せっかくだけどな、それは少し違うぜ。確かに近くで見張ってるのはあたしだがな、この中かもしくはどこからかもう1人が見てるはずだ』
『…もう1人?』
『そうさ。そいつがCRSの本当の頭なんだよ。お前も見ただろ?覇女を叩き潰したレディの姿を。CRSの表向きの頭は優子だがな、どうだ、絶望したか?さぁ雪ノ瀬命令だ。そいつを神楽の時みてーにぶち殺せ』
瞬は愕然とした。この目の前だけでなく遠くからも見張られている?
どうにもならない。どうにかして四阿を破ったところでこちらの動きが把握されている以上自分はやはり逃げられない。
だが愛羽とも戦いたくない。
自分を暗い道から救い出してくれたこの少女を、この手でまた傷つけるなんて考えられなかった。
正直、もう全てを諦めてしまいそうだった。
『瞬ちゃん…いいよ。タイマンはろ』
『…え?』
言われた瞬が今なんと言われたのか分からなくなって愛羽の方を見た。
『大丈夫。絶対大丈夫だから、瞬ちゃんは何も心配しないであたしとタイマンはればいいんだよ』
この子は一体何を言ってるんだろう。瞬は愛羽の考えが全く分からなかった。
『…どうして?』
『言えない。そいつに見張られてるから。でもあたしを信じて。瞬ちゃんはそいつの言う通りに動けばいいの』
『暁さん…あたしには…』
無理。そう言おうとした時、愛羽が笑いかけた。
『あたしが絶対、瞬ちゃんにもう誰も傷つけさせたりしない』
分からない。瞬には分からないが愛羽たちも何かを考えているということだけは分かる。
『暁さん…でも、あたし…ステロイドを打たれているの…』
そうだ。ついさっきドーピングのステロイドを打たれている。
少なくとも2時間近く効果は消えない。
愛羽にはあまりにも荷が重いのは分かりきっている。
『大丈夫。もう瞬ちゃんだけにつらい思いなんてさせないから』
愛羽は笑顔で言いきってみせた。
『ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!!早くやれ!!命令が聞けねぇのか!!』
四阿が怒鳴り声をあげると愛羽は構えて言った。
『瞬ちゃん打って!泪ちゃんたちを守るには、この方法しかないの!あたしは絶対平気だから!』
平気?こんなに痛いことはない。こんなにむごいことはない。
『信じて!瞬ちゃん!』
もう自分は死んでしまいたい。だがこんな自分をそれでも笑って許してくれてしまいそうなこの自分より少し小さな少女を、瞬はその言葉を信じ彼女を殴り飛ばした。
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