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中編
レディ
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先に壊れてしまったのはお父さんの方でした。
愛する妻を失い、娘と2人だけになり仕事をしながら子育てをして負担はあったかもしれません。
でもお父さんのそれはあまりにも突然で、私にはとても残酷に思えました。
始めは些細なことでした。私のことをお母さんの名前で呼んだり、いないはずのお母さんの食事を用意したり、毎日のようにお母さんの夢を見てしまったりと。
私は最初それはお父さんが悲しくてそうなってしまっているとばかり思っていたけど、私が思うよりそれは深刻で病的なものでした。
お父さんはその壊れ始めが1番辛かったんだと思います。
自分が壊れていくのが毎日少しずつ、でも確かに、明らかに分かりながらもそれを止められず、だからお父さんは私の知らない内に薬を使うようになったのです。
お母さんを殺した覚醒剤をです。
それを憎む立場でありながらお父さんはそれに溺れていきました。
私は何度も止めました。
お酒や精神安定剤ならまだしも、それだけはやめてほしいと。
でもお父さんはそんな私に怒り、まるで私がたった1人の娘であることも忘れてしまったかのように暴力を振るわれたりもしました。
その内本当に幻覚が見え始めたようで、もうその時には全てが遅いのだと気付きました。
だから…
だから私はお父さんを階段から突き落としたんです。
いっそ死ねば楽になれたのに、お父さんは今精神病院で拘束されています。
お父さんが覚醒剤を入手していたのは鷹爪組というヤクザからでした。
さすがに暴力団相手に私が何かできる訳もなかったけど、私が中学2年の時、隣の中学の不良グループが周辺の中学を潰して回っていて私の中学にも当然その人たちはやってきました。
私はその時全然不良でもなんでもなく争いに参加などしなかったのですが、恐る恐る遠くから見ているとその中に彼女がいたのです。
自分は鷹爪組の娘だと言って偉そうにふんぞり返るあの女がです。
彼女が私のお父さんに薬を売った訳でも、私のお母さんを殺したあの男に薬を使わせお母さんを殺すよう仕向けた訳でもないのは分かっています。
だけど人を殺し人を不幸にするあの死の粉を金の為に振り撒き、結果的に人を突き落としている奴の子供が何故あんなに偉そうにしているのかが私には分からず、その後彼女たちに近づきました。
幸いにも子供の頃から習っていた武術が役に立ちました。腕が立てば立つほど上の者に近づくことができ、私が信用を得るのに時間はかからなかったです。
ただその組織の内側を見て驚きました。
その中にいる者のほぼ全員が覚醒剤に手を出し染まっていたからです。
私の知る限りCRSでそれに手を出していないのは八代心愛さんと八代さんを信じるごく少数の人間だけです。
鷹爪は10代の少年少女にも容赦なくその死の粉をばらまいていたのです。
そしてある時彼女は言いました。
『こんなもんに金払って本当にクズだよな。お前もそう思うだろ?』
2人でいる時、覚醒剤を使わない私に笑って言ったのです。
じゃあこれにはまって抜け出せなくなってしまった人たちは?
『クズ中のクズだね』
じゃあ、そんな人たちの起こした事件に巻きこまれて命を落としてしまった人たちは…
『哀れなクズってとこだな。あたしには何の関係もないね』
その言葉を聞いた時思ったんです。
この女を許してはいけないって。
だからその時から鷹爪を殺すことをイメージし始めました。
だけど私があのクズを殺してこの国の法律なんぞに裁かれる訳にはいきません。
この国では相当な理由、極めて明らかな正当防衛でなければ人を殺すことができません。
しかし、そんな正当な理由での死ですらあの女には値しない。
だから誰か他の人間があの女を地獄に突き落とし殺さなければならないのです。
大切なのは目で動きを見ることや、その動きに対応できる身体能力を身につけることじゃなく、どういう動きになるかを想像すること。
拳を振りかぶったり体を捻ったり踏み出した足だったり目線とかで、どういう攻撃でくるのかを想像しきること。
同時に想像できる全てのパターンに対しどういう技で返すのが1番適した形かをその瞬間に判断できること。
それを突き詰めて極めていくと相手をどうやって倒すかという映像まで鮮明に見えるようになる。
構えや立ち回り、細かな指先の動きでも相手に取らせたい行動を取らせたりさえできるようになる。
それはもうそうやって自分が思っているだけとも思われそうな話だけど、そういうことができる人間は間違いなく存在している。
『最初からできた訳じゃありませんでした』
こんなことができたらお母さんも殺されずに済んだかもしれない。
『そう望んでできるようになった訳でもありませんでした』
でも最終的にいつも最初に想像するのが決まって終わりの形になった。
全てのシナリオは終わりから組み立てていく。
愛する妻を失い、娘と2人だけになり仕事をしながら子育てをして負担はあったかもしれません。
でもお父さんのそれはあまりにも突然で、私にはとても残酷に思えました。
始めは些細なことでした。私のことをお母さんの名前で呼んだり、いないはずのお母さんの食事を用意したり、毎日のようにお母さんの夢を見てしまったりと。
私は最初それはお父さんが悲しくてそうなってしまっているとばかり思っていたけど、私が思うよりそれは深刻で病的なものでした。
お父さんはその壊れ始めが1番辛かったんだと思います。
自分が壊れていくのが毎日少しずつ、でも確かに、明らかに分かりながらもそれを止められず、だからお父さんは私の知らない内に薬を使うようになったのです。
お母さんを殺した覚醒剤をです。
それを憎む立場でありながらお父さんはそれに溺れていきました。
私は何度も止めました。
お酒や精神安定剤ならまだしも、それだけはやめてほしいと。
でもお父さんはそんな私に怒り、まるで私がたった1人の娘であることも忘れてしまったかのように暴力を振るわれたりもしました。
その内本当に幻覚が見え始めたようで、もうその時には全てが遅いのだと気付きました。
だから…
だから私はお父さんを階段から突き落としたんです。
いっそ死ねば楽になれたのに、お父さんは今精神病院で拘束されています。
お父さんが覚醒剤を入手していたのは鷹爪組というヤクザからでした。
さすがに暴力団相手に私が何かできる訳もなかったけど、私が中学2年の時、隣の中学の不良グループが周辺の中学を潰して回っていて私の中学にも当然その人たちはやってきました。
私はその時全然不良でもなんでもなく争いに参加などしなかったのですが、恐る恐る遠くから見ているとその中に彼女がいたのです。
自分は鷹爪組の娘だと言って偉そうにふんぞり返るあの女がです。
彼女が私のお父さんに薬を売った訳でも、私のお母さんを殺したあの男に薬を使わせお母さんを殺すよう仕向けた訳でもないのは分かっています。
だけど人を殺し人を不幸にするあの死の粉を金の為に振り撒き、結果的に人を突き落としている奴の子供が何故あんなに偉そうにしているのかが私には分からず、その後彼女たちに近づきました。
幸いにも子供の頃から習っていた武術が役に立ちました。腕が立てば立つほど上の者に近づくことができ、私が信用を得るのに時間はかからなかったです。
ただその組織の内側を見て驚きました。
その中にいる者のほぼ全員が覚醒剤に手を出し染まっていたからです。
私の知る限りCRSでそれに手を出していないのは八代心愛さんと八代さんを信じるごく少数の人間だけです。
鷹爪は10代の少年少女にも容赦なくその死の粉をばらまいていたのです。
そしてある時彼女は言いました。
『こんなもんに金払って本当にクズだよな。お前もそう思うだろ?』
2人でいる時、覚醒剤を使わない私に笑って言ったのです。
じゃあこれにはまって抜け出せなくなってしまった人たちは?
『クズ中のクズだね』
じゃあ、そんな人たちの起こした事件に巻きこまれて命を落としてしまった人たちは…
『哀れなクズってとこだな。あたしには何の関係もないね』
その言葉を聞いた時思ったんです。
この女を許してはいけないって。
だからその時から鷹爪を殺すことをイメージし始めました。
だけど私があのクズを殺してこの国の法律なんぞに裁かれる訳にはいきません。
この国では相当な理由、極めて明らかな正当防衛でなければ人を殺すことができません。
しかし、そんな正当な理由での死ですらあの女には値しない。
だから誰か他の人間があの女を地獄に突き落とし殺さなければならないのです。
大切なのは目で動きを見ることや、その動きに対応できる身体能力を身につけることじゃなく、どういう動きになるかを想像すること。
拳を振りかぶったり体を捻ったり踏み出した足だったり目線とかで、どういう攻撃でくるのかを想像しきること。
同時に想像できる全てのパターンに対しどういう技で返すのが1番適した形かをその瞬間に判断できること。
それを突き詰めて極めていくと相手をどうやって倒すかという映像まで鮮明に見えるようになる。
構えや立ち回り、細かな指先の動きでも相手に取らせたい行動を取らせたりさえできるようになる。
それはもうそうやって自分が思っているだけとも思われそうな話だけど、そういうことができる人間は間違いなく存在している。
『最初からできた訳じゃありませんでした』
こんなことができたらお母さんも殺されずに済んだかもしれない。
『そう望んでできるようになった訳でもありませんでした』
でも最終的にいつも最初に想像するのが決まって終わりの形になった。
全てのシナリオは終わりから組み立てていく。
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