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中編
嬢王対女王
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この瞬間が最高なんだ。
治まらない鼓動。止まらない汗。くたびれた体で身体中で深呼吸して、キラキラした湘南の海を見つめる。今日なんてよく晴れて実に気分がいい。
『○○○○~』
後ろから声が聞こえた。その瞬間だった。
何かがものすごい勢いで右のこめかみに激突してきて豹那は砂の上に打ちのめされた。
『悪修羅嬢の緋薙豹那さんは紛れもなく強敵です。1番厄介な相手と言っても過言ではないでしょう。この人には小細工は効きません。ウチの主力たちとの死闘が予想されます。挨拶程度で十分。実力見がてら因縁だけつけてきて下さい』
いきなりの激痛に豹那は一瞬訳が分からなくなってしまったが目で見えた物が頭の中思考を追いかけさせた。そしてすぐに理解した。
「攻撃された」「ゴルフクラブ」「赤い髪のくそったれ野郎!!」
右のこめかみが今ので切れてしまい出血している。
『っ痛…頭おかしーのか?あたしの美しい顔に傷つけやがって』
豹那は手で出血の程度を確かめると立ち上がった。
『誰だい、お前』
記憶にない顔だ。全く心当たりがない。
『おい、耳がないのかい?どこの誰か聞いてるじゃないか。口がないのかい?それとも今すぐ殺されたいか!』
豹那は怒りに顔を歪ませている。
『私はCRS、大和REDQUEENの総長、八代心愛だ。お前たちバックのいない4大暴走族をウチのケツモチが面倒見たがっている。同時にケツを持たせないなら潰して従わせろ、とな。どうだ?ケツ持たせてみるか?』
『マヌケそうだと思ったらどうやら本物みたいだねぇ。もう1回あいうえおから勉強し直しておいでよ。どこの腐れヤクザか知らないけどね、このあたしに向かっていい度胸じゃないか。おまけにこんな話し方も分からないバカよこしやがって。CRSだって?ふざけんのもいい加減にしときなよ?』
豹那は遠い目をして微笑みだした。
『まぁ、そうだろうな。だがふざけてなどいない。少なくとも私はな』
そう言うと八代はゴルフクラブをビュンビュン振り回しながら当てにきた。
しかし豹那はそれをつかむとヘッドの部分をへし折った。
『貴様、私の娯楽道具を!』
構わず今度は豹那がしかけた。しかけたというよりは猛獣のように襲いかかっていく。
その獣のような勢いに圧倒されたのか先程玲璃の攻撃をあんなに簡単にかわしていたのに八代は反応が一歩遅れガードするのが精一杯だった。
鋭いパンチが打ち込まれ、それを受けると八代はふっとばされた。
砂の上ということで足場も悪いのに勢いがある上に速い。瞬発力があるのに重さもしっかりある。
今のはどうよけてもよけきれなかった。
八代は神奈川最強と言われているのも満更ではないことを肝に銘じた。
(なるほど。打撃の重さだけなら優子といい勝負か?)
『こいつは驚いた。噂以上だ。悪修羅嬢王』
『その噂聞いといてここに来てるってことはお前はやっぱりただのバカってことだね。覚悟しな。このあたしの素敵な一時を台無しにしやがって』
『ふっ、受けて立とう。お前に恨みはないが私もクイーンと呼ばれる立場だ』
八代が構えた。それはボクシングとも空手や柔道とも違うが何らかの格闘技であることが窺えた。
豹那は構わず踏みこみ拳を叩きこんでいった。
だがその拳はわずかに軌道をずらされ代わりに相手の肘をくらった。そしてすかさず蹴りの2連撃だ。
ローからミドル、速い。何より決して八代の打撃も軽くはない。
だが豹那はひるまずもう1発パンチを打った。すると今度はその拳をかいくぐられ腹のど真ん中にもろに拳を叩きこまれた。
入った。完璧なカウンターだ。これを叩きこまれて平気でいられる人間などそうそういない。
油断などしないが経験からいって、いかに嬢王と言えど確かな手応えを確信できる1発だった。
八代が思ったのも束の間、目の前の女はそんな素振りなど見せずしっかりと八代の胸ぐらをつかんでいた。
(あぁ、そういえば燎が人間じゃないなんて言ってたな)
そう思いながらその手を払おうとしたのより早く3度目の拳が飛んできた。今度はもろだ。
衝撃の瞬間、体が浮いたのを感じた。かなり鈍い痛みがねじこまれながら後方へ殴り飛ばされていく。
燎の言葉を思い出した時には空を見ていた。
(因縁をつけるか…こいつは骨が折れる)
『なんだ、もう終わりかい?あんたの格好チカチカして目に悪いからここに生き埋めにしてあげるよ』
豹那はまだ八代に向かっていく。すると向こう側から玲璃が霞ヶ﨑を振り切って豹那たちの方へ走ってくる。
『豹那~!』
その後ろから霞ヶ﨑も向かってきている。
『玲璃?お前何やってるんだい、こんな所で』
玲璃が何か言うよりも先に後ろから霞ヶ﨑が飛び蹴りをくらわせた。玲璃は蹴り飛ばされ転んでしまった。
『いやー、この金髪元気いいわ。全く』
霞ヶ﨑が玲璃を蹴り飛ばし息をつくと次に目に入ったのは顔を歪ませひきつった笑みを浮かべながら自分の方へ歩いてくる悪修羅嬢王の姿だった。
『おいガキ。お前もここに墓を作ってほしいのかい?今ならサービスするよ。即死でいいかい?』
『…え?…え?』
さすがに霞ヶ﨑はそんなことになると思わず鬼のような形相の豹那を見て冷や汗をかいた。
『…あれ?心愛さん!?』
豹那はうろたえる霞ヶ﨑を容赦なく殴り飛ばした。八代はそれをゆっくりと立ち上がりながら見ていた。
『ほう…』
続いて豹那は転がる霞ヶ﨑を迷わず蹴り飛ばしにいった。サッカーのフリーキックをおもいきりミドルシュートにいくが如く蹴り払うと霞ヶ﨑は更に転がった。
『痛ってぇ…くそっ…あいつ…バケモノかよ…』
霞ヶ﨑はなんとか立ち上がりまだ向かってくるこの目の前の鬼に向き直った。
恐ろしい威圧感だ。これを殺気と呼ぶ以外に何があるだろう。
豹那は真っ直ぐ歩いて向かうとまた助走をつけ拳を振りかぶった。
打ち込まれてくる拳に対して霞ヶ﨑も対処法を考えたがギリギリかわすことしかできなかった。
(ジョーダンじゃねぇ!こいつはヤベぇぜ!ヤバすぎる!)
絶体絶命の霞ヶ﨑だったがそこで単車の音が響いた。甲高い2ストの音。スズキのRGに八代がまたがっていた。
『燎、もういい行くぞ。挨拶は終わりだ、乗れ』
霞ヶ﨑はダッシュで単車の後ろに飛び乗った。
『おい、口ほどにもないねぇ。逃げるのかい?』
『フッフッ、今日の目的は十分果たした。この勝負は預けておこう』
八代は豹那と目を合わせてニヤッとすると走りだし行ってしまった。
『…くそったれ野郎め』
治まらない鼓動。止まらない汗。くたびれた体で身体中で深呼吸して、キラキラした湘南の海を見つめる。今日なんてよく晴れて実に気分がいい。
『○○○○~』
後ろから声が聞こえた。その瞬間だった。
何かがものすごい勢いで右のこめかみに激突してきて豹那は砂の上に打ちのめされた。
『悪修羅嬢の緋薙豹那さんは紛れもなく強敵です。1番厄介な相手と言っても過言ではないでしょう。この人には小細工は効きません。ウチの主力たちとの死闘が予想されます。挨拶程度で十分。実力見がてら因縁だけつけてきて下さい』
いきなりの激痛に豹那は一瞬訳が分からなくなってしまったが目で見えた物が頭の中思考を追いかけさせた。そしてすぐに理解した。
「攻撃された」「ゴルフクラブ」「赤い髪のくそったれ野郎!!」
右のこめかみが今ので切れてしまい出血している。
『っ痛…頭おかしーのか?あたしの美しい顔に傷つけやがって』
豹那は手で出血の程度を確かめると立ち上がった。
『誰だい、お前』
記憶にない顔だ。全く心当たりがない。
『おい、耳がないのかい?どこの誰か聞いてるじゃないか。口がないのかい?それとも今すぐ殺されたいか!』
豹那は怒りに顔を歪ませている。
『私はCRS、大和REDQUEENの総長、八代心愛だ。お前たちバックのいない4大暴走族をウチのケツモチが面倒見たがっている。同時にケツを持たせないなら潰して従わせろ、とな。どうだ?ケツ持たせてみるか?』
『マヌケそうだと思ったらどうやら本物みたいだねぇ。もう1回あいうえおから勉強し直しておいでよ。どこの腐れヤクザか知らないけどね、このあたしに向かっていい度胸じゃないか。おまけにこんな話し方も分からないバカよこしやがって。CRSだって?ふざけんのもいい加減にしときなよ?』
豹那は遠い目をして微笑みだした。
『まぁ、そうだろうな。だがふざけてなどいない。少なくとも私はな』
そう言うと八代はゴルフクラブをビュンビュン振り回しながら当てにきた。
しかし豹那はそれをつかむとヘッドの部分をへし折った。
『貴様、私の娯楽道具を!』
構わず今度は豹那がしかけた。しかけたというよりは猛獣のように襲いかかっていく。
その獣のような勢いに圧倒されたのか先程玲璃の攻撃をあんなに簡単にかわしていたのに八代は反応が一歩遅れガードするのが精一杯だった。
鋭いパンチが打ち込まれ、それを受けると八代はふっとばされた。
砂の上ということで足場も悪いのに勢いがある上に速い。瞬発力があるのに重さもしっかりある。
今のはどうよけてもよけきれなかった。
八代は神奈川最強と言われているのも満更ではないことを肝に銘じた。
(なるほど。打撃の重さだけなら優子といい勝負か?)
『こいつは驚いた。噂以上だ。悪修羅嬢王』
『その噂聞いといてここに来てるってことはお前はやっぱりただのバカってことだね。覚悟しな。このあたしの素敵な一時を台無しにしやがって』
『ふっ、受けて立とう。お前に恨みはないが私もクイーンと呼ばれる立場だ』
八代が構えた。それはボクシングとも空手や柔道とも違うが何らかの格闘技であることが窺えた。
豹那は構わず踏みこみ拳を叩きこんでいった。
だがその拳はわずかに軌道をずらされ代わりに相手の肘をくらった。そしてすかさず蹴りの2連撃だ。
ローからミドル、速い。何より決して八代の打撃も軽くはない。
だが豹那はひるまずもう1発パンチを打った。すると今度はその拳をかいくぐられ腹のど真ん中にもろに拳を叩きこまれた。
入った。完璧なカウンターだ。これを叩きこまれて平気でいられる人間などそうそういない。
油断などしないが経験からいって、いかに嬢王と言えど確かな手応えを確信できる1発だった。
八代が思ったのも束の間、目の前の女はそんな素振りなど見せずしっかりと八代の胸ぐらをつかんでいた。
(あぁ、そういえば燎が人間じゃないなんて言ってたな)
そう思いながらその手を払おうとしたのより早く3度目の拳が飛んできた。今度はもろだ。
衝撃の瞬間、体が浮いたのを感じた。かなり鈍い痛みがねじこまれながら後方へ殴り飛ばされていく。
燎の言葉を思い出した時には空を見ていた。
(因縁をつけるか…こいつは骨が折れる)
『なんだ、もう終わりかい?あんたの格好チカチカして目に悪いからここに生き埋めにしてあげるよ』
豹那はまだ八代に向かっていく。すると向こう側から玲璃が霞ヶ﨑を振り切って豹那たちの方へ走ってくる。
『豹那~!』
その後ろから霞ヶ﨑も向かってきている。
『玲璃?お前何やってるんだい、こんな所で』
玲璃が何か言うよりも先に後ろから霞ヶ﨑が飛び蹴りをくらわせた。玲璃は蹴り飛ばされ転んでしまった。
『いやー、この金髪元気いいわ。全く』
霞ヶ﨑が玲璃を蹴り飛ばし息をつくと次に目に入ったのは顔を歪ませひきつった笑みを浮かべながら自分の方へ歩いてくる悪修羅嬢王の姿だった。
『おいガキ。お前もここに墓を作ってほしいのかい?今ならサービスするよ。即死でいいかい?』
『…え?…え?』
さすがに霞ヶ﨑はそんなことになると思わず鬼のような形相の豹那を見て冷や汗をかいた。
『…あれ?心愛さん!?』
豹那はうろたえる霞ヶ﨑を容赦なく殴り飛ばした。八代はそれをゆっくりと立ち上がりながら見ていた。
『ほう…』
続いて豹那は転がる霞ヶ﨑を迷わず蹴り飛ばしにいった。サッカーのフリーキックをおもいきりミドルシュートにいくが如く蹴り払うと霞ヶ﨑は更に転がった。
『痛ってぇ…くそっ…あいつ…バケモノかよ…』
霞ヶ﨑はなんとか立ち上がりまだ向かってくるこの目の前の鬼に向き直った。
恐ろしい威圧感だ。これを殺気と呼ぶ以外に何があるだろう。
豹那は真っ直ぐ歩いて向かうとまた助走をつけ拳を振りかぶった。
打ち込まれてくる拳に対して霞ヶ﨑も対処法を考えたがギリギリかわすことしかできなかった。
(ジョーダンじゃねぇ!こいつはヤベぇぜ!ヤバすぎる!)
絶体絶命の霞ヶ﨑だったがそこで単車の音が響いた。甲高い2ストの音。スズキのRGに八代がまたがっていた。
『燎、もういい行くぞ。挨拶は終わりだ、乗れ』
霞ヶ﨑はダッシュで単車の後ろに飛び乗った。
『おい、口ほどにもないねぇ。逃げるのかい?』
『フッフッ、今日の目的は十分果たした。この勝負は預けておこう』
八代は豹那と目を合わせてニヤッとすると走りだし行ってしまった。
『…くそったれ野郎め』
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