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中編
嘘つき
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『あれ?昨日何時に寝たんだ?』
次の日綺夜羅は目覚めると記憶をさかのぼったがなかなか前日のことを思い出せなかった。
『おい!みんな起きろ!今日は遊び行くんだぞ!』
とりあえずみんなを叩き起こそうとしたが旋が眠そうに目をこすりながら言った。
『ねぇ綺夜羅。あんたは昨日さっさとくたばってたからいいけど、あたしたちはあの後も起きてたんだよ?お願いだからもうちょっと寝かせて。おやすみ』
周りも綺夜羅の声に目を覚ましたが旋が言うとまた全員眠りに就いていった。
そんな中咲薇だけはもう起きていた。
『綺夜羅、ちょっとえぇか?』
『おはよう咲薇。どーした?』
『あたしのCXちょっと見てほしいねん。単車いじれんのやろ?』
『おっ!?なんだ任せろよ。あたしは生まれる前からバイクいじってるぜ』
綺夜羅は自信満々の笑顔で言うと握った拳の親指を立てた。
『別におかしいとこあるのと違うんやけど、乗り始めてからオイルとタイヤ位しかまだ換えてへんねん。あたし単車のことそこまで分からんから是非見てほしいんや』
『おぉ、その気持ちは大事だぜ。目で見てよく分かんなかったり乗ってておかしくなかったのに壊れるのが単車だ。見れる時にどんだけ見ても無駄にはなんねーよ』
ということで綺夜羅は咲薇のCXを見ることにした。かなり入念に色んな所を舐め回すように見ていき一通り確認を終えると、エンジンをかけてアクセルを吹かしてみたり、ちょっと乗ってみたりして点検を終えた。
『咲薇。これお前相当きてるぞ』
『きてるて、そんなヤバい?』
『ヤバいなんてもんやないで。外はまぁまぁ綺麗やけどな、これは緊急オペや』
綺夜羅がつられて関西弁になってしまう程らしく、すぐに工具を持ち出してきた。
おそらく一般的に走る分には問題ないのだが綺夜羅の基準が高すぎる為、オイル交換、キャブのオーバーホールや各ワイヤーの点検からちょっとしたメンテナンスまでを行っていった。
(あいつもこんな風に夢中になっていじってたな)
咲薇はそんな綺夜羅に叶泰の姿を重ね思い出してしまっていた。
『…そうや、次の日曜日ここらで花火大会あんねんで!』
『花火大会?』
『うん。いつも夏の終わりにやんねん。もうめっちゃ綺麗なんやから。空が鳴くんやで!?』
『空が泣く?』
『日曜日までおんねやったらあたしがえぇとこで見したるから、みんなで一緒に行かへん?』
『そういや今年まだ花火見に行ってねーなぁ。よっしゃ、行こうぜ。決定な!』
『それにしても綺夜羅キミすごいな。ホンマにこんないじれると思えへんかったよ』
『へへ。まぁ、お母さん出てってからずっとクソオヤジの手伝いばっかしてきたからな。こんなの朝飯前よ』
『そんだけいじれたら楽しいやろね。えぇなぁ~、あたしもバイクいじれるようになりたいわ』
咲薇がそんな風に言って綺夜羅はふと作業する手を止めた。
『なんだ咲薇。お前ファッションの学校通ってんのにこんなこと興味あんのか?』
言われて咲薇は困ったような顔をして笑った。
『嫌いやないねんけど、もうちょっとおもろいと思てたかな』
『ふーん…じゃあ、ウチで働くか?』
『え?ウチて、綺夜羅のウチ?』
『ほら、昨日転校してくればなんて言われてたろ?咲薇が興味あんならウチに住んでウチで働いたっていいぜ?部屋余ってんし』
『ホンマに言うてる?それ』
『あぁ。将来2人でバイク屋やったりしてよ。女2人のバイク屋なんてカッコいいぜ?』
『なんであたしなんかにそこまでしてくれるん?』
『バーカ。昨日姉妹の盃交わしたじゃねーかよ。あったりめーだろ?』
綺夜羅はニカッと笑って当然のように言うが咲薇はこの時、この目の前の少女の優しさ、その大きさに触れた気がした。
『でも父ちゃん母ちゃん食堂やってんだべ?お前は継がなくていいのか?』
『あたしがか?親のこと考えたらその方がえぇんやろなとは思うけど、正直あたしそんなに料理できる方でもないし、まずは自分のやりたいことやってみたいと思てんのよ』
『じゃあマジで1回来てみるか?今すぐじゃなくてもその内よ』
『うん。行きたい!』
『そうだ、咲薇んちも行こうぜ。何が旨いんだ?』
『ウチの食堂は自慢やないけど何でも旨いで。でもあたしが好きなんはカツ丼や。』
『よし、カツ丼だな。じゃあまずはカツ丼にするぜ』
『うん』
この子になら話せる。話してもいい。咲薇はそう思った。
『…なぁ、綺夜羅』
『ん?なんだ?』
実は今日…と話を始めようとすると、そこに起きて支度の整った他のメンバーたちが旅館から出てきた。
『…いや、なんでもないわ。単車見てくれてありがとうね』
『あ、おう。…これでバッチリだぜ』
咲薇が何かを言いかけてやめたのは明らかだったが、綺夜羅は少し気になりながらもそれ以上聞くことができなかった。
『さっすがバイクマスター綺夜羅。友の単車を朝から整備とは感心だねぇ~』
数がタバコを吹かしながら偉そうに言うので綺夜羅はすぐに言い返す。
『全くオメーらはやっと起きたのかよ。もうすぐ昼だぞ昼』
『そういえば今日どこ行くんや?』
『USJだよ。咲薇ちゃん、案内よろしくね』
燃が咲薇に後ろから抱きついていく。
『え?あたし?マジか?』
『行こうぜ咲薇』
咲薇に決定権はなく、ほぼ強制的にUSJに同行することが決まってしまったが、着いたら着いたであれはなんという乗り物であそこのあれがおいしいんやと初めて来た綺夜羅たちを案内してくれた。
咲薇はもちろん何回も来たことがある。いずれも死んだ叶泰と一緒にだった。その記憶をなぞると叶泰はいつも隣にいた。そして彼女は今も思い出の彼の隣に立ってしまっている。忘れることなどできる訳もなく、ここにいると声さえ聞こえてきてしまいそうになる。
だが今日がもう鏡叶泰の命日だ。綺夜羅たちと楽しんでいると時間を忘れてしまいそうだが、日は沈み時計に目をやるともう22時だった。約束の時間は24時、もうあまり時間はない。
『よし次は何行くか!』
そんなこと知りもしない綺夜羅はまだまだ遊ぶつもりでいる。
『すまん綺夜羅。あたし、今日これから予定あんねやった。悪いけど先帰らしてもらうわ』
『え?そうか?じゃああたしたちもそろそろ行くか』
『えぇやんえぇやん!まだここはやっとんのやから、みんなはまだおったらえぇ。せっかくの大阪旅行、もっと楽しんでや』
咲薇は少し焦った様子で綺夜羅たちを留まらせようとした。みんなとはここで別れなければならない。そう思った。万が一にでも巻きこんでしまうことは嫌だったからだ。
『ありがとうな綺夜羅、みんな。今日も昨日もホンマに楽しかった』
しかしその姿は6人の目にあまりにも不自然に映っていた。綺夜羅はそれを見て、今朝咲薇が何か言いかけたのを思い出した。だが咲薇は足早に行ってしまおうとした。
『咲薇!お前、なんかあったのかよ!』
何故か呼び止めないといけない気がして思わず叫んでいた。
咲薇は1度止まって振り向くと笑って言った。
『なんもない。ただの約束やねん』
そう言って手を振ると走って行ってしまった。6人はその後ろ姿を咲薇が人に紛れて見えなくなるまでずっと見てしまっていた。
『…なぁ燃。あいつ、嘘つきか?教えてくれ』
『その前にさ綺夜羅、多分話しとかないといけないことがあるんだけど。今のはとりあえずどう見ても嘘でしょ』
綺夜羅はまだ咲薇が走っていった方を見つめていた。
『…そうか…あたしもそう思う』
燃たちは前日の女将の話をその時寝ていた綺夜羅と掠に話した。
次の日綺夜羅は目覚めると記憶をさかのぼったがなかなか前日のことを思い出せなかった。
『おい!みんな起きろ!今日は遊び行くんだぞ!』
とりあえずみんなを叩き起こそうとしたが旋が眠そうに目をこすりながら言った。
『ねぇ綺夜羅。あんたは昨日さっさとくたばってたからいいけど、あたしたちはあの後も起きてたんだよ?お願いだからもうちょっと寝かせて。おやすみ』
周りも綺夜羅の声に目を覚ましたが旋が言うとまた全員眠りに就いていった。
そんな中咲薇だけはもう起きていた。
『綺夜羅、ちょっとえぇか?』
『おはよう咲薇。どーした?』
『あたしのCXちょっと見てほしいねん。単車いじれんのやろ?』
『おっ!?なんだ任せろよ。あたしは生まれる前からバイクいじってるぜ』
綺夜羅は自信満々の笑顔で言うと握った拳の親指を立てた。
『別におかしいとこあるのと違うんやけど、乗り始めてからオイルとタイヤ位しかまだ換えてへんねん。あたし単車のことそこまで分からんから是非見てほしいんや』
『おぉ、その気持ちは大事だぜ。目で見てよく分かんなかったり乗ってておかしくなかったのに壊れるのが単車だ。見れる時にどんだけ見ても無駄にはなんねーよ』
ということで綺夜羅は咲薇のCXを見ることにした。かなり入念に色んな所を舐め回すように見ていき一通り確認を終えると、エンジンをかけてアクセルを吹かしてみたり、ちょっと乗ってみたりして点検を終えた。
『咲薇。これお前相当きてるぞ』
『きてるて、そんなヤバい?』
『ヤバいなんてもんやないで。外はまぁまぁ綺麗やけどな、これは緊急オペや』
綺夜羅がつられて関西弁になってしまう程らしく、すぐに工具を持ち出してきた。
おそらく一般的に走る分には問題ないのだが綺夜羅の基準が高すぎる為、オイル交換、キャブのオーバーホールや各ワイヤーの点検からちょっとしたメンテナンスまでを行っていった。
(あいつもこんな風に夢中になっていじってたな)
咲薇はそんな綺夜羅に叶泰の姿を重ね思い出してしまっていた。
『…そうや、次の日曜日ここらで花火大会あんねんで!』
『花火大会?』
『うん。いつも夏の終わりにやんねん。もうめっちゃ綺麗なんやから。空が鳴くんやで!?』
『空が泣く?』
『日曜日までおんねやったらあたしがえぇとこで見したるから、みんなで一緒に行かへん?』
『そういや今年まだ花火見に行ってねーなぁ。よっしゃ、行こうぜ。決定な!』
『それにしても綺夜羅キミすごいな。ホンマにこんないじれると思えへんかったよ』
『へへ。まぁ、お母さん出てってからずっとクソオヤジの手伝いばっかしてきたからな。こんなの朝飯前よ』
『そんだけいじれたら楽しいやろね。えぇなぁ~、あたしもバイクいじれるようになりたいわ』
咲薇がそんな風に言って綺夜羅はふと作業する手を止めた。
『なんだ咲薇。お前ファッションの学校通ってんのにこんなこと興味あんのか?』
言われて咲薇は困ったような顔をして笑った。
『嫌いやないねんけど、もうちょっとおもろいと思てたかな』
『ふーん…じゃあ、ウチで働くか?』
『え?ウチて、綺夜羅のウチ?』
『ほら、昨日転校してくればなんて言われてたろ?咲薇が興味あんならウチに住んでウチで働いたっていいぜ?部屋余ってんし』
『ホンマに言うてる?それ』
『あぁ。将来2人でバイク屋やったりしてよ。女2人のバイク屋なんてカッコいいぜ?』
『なんであたしなんかにそこまでしてくれるん?』
『バーカ。昨日姉妹の盃交わしたじゃねーかよ。あったりめーだろ?』
綺夜羅はニカッと笑って当然のように言うが咲薇はこの時、この目の前の少女の優しさ、その大きさに触れた気がした。
『でも父ちゃん母ちゃん食堂やってんだべ?お前は継がなくていいのか?』
『あたしがか?親のこと考えたらその方がえぇんやろなとは思うけど、正直あたしそんなに料理できる方でもないし、まずは自分のやりたいことやってみたいと思てんのよ』
『じゃあマジで1回来てみるか?今すぐじゃなくてもその内よ』
『うん。行きたい!』
『そうだ、咲薇んちも行こうぜ。何が旨いんだ?』
『ウチの食堂は自慢やないけど何でも旨いで。でもあたしが好きなんはカツ丼や。』
『よし、カツ丼だな。じゃあまずはカツ丼にするぜ』
『うん』
この子になら話せる。話してもいい。咲薇はそう思った。
『…なぁ、綺夜羅』
『ん?なんだ?』
実は今日…と話を始めようとすると、そこに起きて支度の整った他のメンバーたちが旅館から出てきた。
『…いや、なんでもないわ。単車見てくれてありがとうね』
『あ、おう。…これでバッチリだぜ』
咲薇が何かを言いかけてやめたのは明らかだったが、綺夜羅は少し気になりながらもそれ以上聞くことができなかった。
『さっすがバイクマスター綺夜羅。友の単車を朝から整備とは感心だねぇ~』
数がタバコを吹かしながら偉そうに言うので綺夜羅はすぐに言い返す。
『全くオメーらはやっと起きたのかよ。もうすぐ昼だぞ昼』
『そういえば今日どこ行くんや?』
『USJだよ。咲薇ちゃん、案内よろしくね』
燃が咲薇に後ろから抱きついていく。
『え?あたし?マジか?』
『行こうぜ咲薇』
咲薇に決定権はなく、ほぼ強制的にUSJに同行することが決まってしまったが、着いたら着いたであれはなんという乗り物であそこのあれがおいしいんやと初めて来た綺夜羅たちを案内してくれた。
咲薇はもちろん何回も来たことがある。いずれも死んだ叶泰と一緒にだった。その記憶をなぞると叶泰はいつも隣にいた。そして彼女は今も思い出の彼の隣に立ってしまっている。忘れることなどできる訳もなく、ここにいると声さえ聞こえてきてしまいそうになる。
だが今日がもう鏡叶泰の命日だ。綺夜羅たちと楽しんでいると時間を忘れてしまいそうだが、日は沈み時計に目をやるともう22時だった。約束の時間は24時、もうあまり時間はない。
『よし次は何行くか!』
そんなこと知りもしない綺夜羅はまだまだ遊ぶつもりでいる。
『すまん綺夜羅。あたし、今日これから予定あんねやった。悪いけど先帰らしてもらうわ』
『え?そうか?じゃああたしたちもそろそろ行くか』
『えぇやんえぇやん!まだここはやっとんのやから、みんなはまだおったらえぇ。せっかくの大阪旅行、もっと楽しんでや』
咲薇は少し焦った様子で綺夜羅たちを留まらせようとした。みんなとはここで別れなければならない。そう思った。万が一にでも巻きこんでしまうことは嫌だったからだ。
『ありがとうな綺夜羅、みんな。今日も昨日もホンマに楽しかった』
しかしその姿は6人の目にあまりにも不自然に映っていた。綺夜羅はそれを見て、今朝咲薇が何か言いかけたのを思い出した。だが咲薇は足早に行ってしまおうとした。
『咲薇!お前、なんかあったのかよ!』
何故か呼び止めないといけない気がして思わず叫んでいた。
咲薇は1度止まって振り向くと笑って言った。
『なんもない。ただの約束やねん』
そう言って手を振ると走って行ってしまった。6人はその後ろ姿を咲薇が人に紛れて見えなくなるまでずっと見てしまっていた。
『…なぁ燃。あいつ、嘘つきか?教えてくれ』
『その前にさ綺夜羅、多分話しとかないといけないことがあるんだけど。今のはとりあえずどう見ても嘘でしょ』
綺夜羅はまだ咲薇が走っていった方を見つめていた。
『…そうか…あたしもそう思う』
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