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最終章・聖女じゃなくて

番外編・猫耳王子と聖女じゃないあの子の

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「このまま、何もしなければ、リサは二日後に竜になるっす。それと、アリスト君は一週間後に死ぬ」

 気を失った彼女を抱き上げ、城に向かおうとした時、スペードが言った。

「どういうことだい」
「その腕輪は、世界の王の証。王とは国の中心、そして支える者。リサは選ばれ、そして選んでしまった。例え姿が変わっても、アリスト君を守りたいと」
「何で……、ボクは? ボクは選ばれていないのか?」

 スペードは帽子を押さえると、首を横に振った。

「アリスト君、足に黒いリングがあるっすね」

 ピクリとアリスが反応する。

「けれど、白いリングは姿を現していない」
「何故それを――」
「それは、僕のせいっす――。それは、謝るっすよ」
「君のせい? そんなことはいい、竜になるのを止めることは!?」

 スペードは人差し指を立てて、一つだけを示す。

「その指輪を――、彼女との繋がりを断ち切る」
「それは――」

 死ぬ、ということだ。そう、誓いの指輪は片方が亡くなれば効力は消える。

「あ、勘違いしないで欲しいっす。魔法のない世界に行けば、魔法の指輪は意味を成さないっすよね――」

 結局はこの世界から存在が消えるということか。

「逆転の儀か――」
「そうっす」
「でも、リサちゃんは――」
「その気になったら、誰が召喚したか、とか詳しく教えるっすよ。あぁ、でもリサの運命は変えられるけれどアリスト君が死ぬのは変えられないっすよ。それじゃあ二日後、君の答えを聞かせてもらうっす。場所は、まあ分かってるっすね?」

 そう言って、スペードは姿を消した。

「一週間後にボクは死ぬ…………」

 彼女を一人残して?

 ーーー

 次の日の昼前に彼女は目を覚ました。
 何事もなかったのかと、自分の手や足を確認して、頭に? を沢山浮かべて。それと、盛大なお腹の音と。
 照れ笑いしながら、彼女は城の部屋に穴をあけてしまった。
 後で謝っておこう。
 ボクはご飯の準備をすぐにしてもらって、久しぶりに彼女と二人で食事をとった。
 その時に、寝ている間に起こったこと、スペードが言っていた竜になるということを伝えた。
 ボクの事は彼女には伝えられなかった。

「あはは、――そっかぁ」

 知っていたのだろうか、彼女はそれだけ言って笑っていた。

 時間はあと少しだけ。ボクは走った。残り時間を少しでも多く、彼女にあてたい。けれど、やることが多すぎる。
 ソーイや、皆に手伝ってもらって、彼らで何とかなりそうなものはすべて任せた。

 夜に、兄上はカナを明日帰すと伝えてきた。

 ーーー

 次の日の朝、カナの帰還の日だ。
 カナだけが、兄上の逆転の儀で元の世界に帰って行った。リサはここにいる。スペードが言った通りに。
 つまり、この後も――。

 カナを見送った後、彼女はボクにお願いしてきた。

「竜になる時、アリスちゃんが魔法のこと教えてくれた、あそこに行きたいな」

 きっと、二人きりになりたいということだろう。
 ごめんね、そのお願いはきっと聞けない。

 ーーー

「告げなかったんすか」
「うん」

 彼女が最後にくれたマタタビ棒をぎゅっと握りしめ、ボクは答えた。

「告げたら、彼女は帰らないって泣いてしまうかもしれないから」
「そうっすね……」

 ボクと同じ顔をしたスペードもリサが消えた場所を見ていた。

「ボクは何故死ぬんだい?」

 少しの間のあとに、彼が答える。

「僕の願いで――」

 彼の声が変わった。聞き慣れた、自分の声だ。

「僕は、過去を変えたいと願った。その時に払った代償は僕の未来。アリストという人間の未来なんだ」
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