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最終章・聖女じゃなくて
最終話・私は聖女じゃない①
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「ここは?」
見慣れた、玄関。私の住んでる部屋。ぺたりと私は座りこんでいた。
スマホ!
電源が切れているかもしれないが、横に転がっている鞄からスマホを取り出す。
「同じ日付…………」
私があの世界に落っこちた、あの日をスマホの画面は示している。時間も、帰ってきた時間とあまり変わらないような。ほんの少しの時間だった?
「何で……?」
夢なんかじゃない、だって私はこんなドレスで会社に行くわけがない……。指輪だって。
「一つだけ…………」
黒い石の、あの指輪だけが私の指にはまっていた。
「あ、ぁ、ぁ…………」
私は、自分の左手にすがりつき、泣き続けた。
ざらざらした鱗模様も、身体の中を駆け巡っていた熱も、腕輪も、魔法の指輪も綺麗になくなっていた。
アリスにもらった、誓いの指輪も――。
そう、私は聖女じゃなくて、魔女でもなくて、ただの人に戻ったんだ。
ーーー
あれから、少したった日。私は格闘していた。
え、何と闘ってるって?
「こら、アリスちゃん!」
チリンと小気味良い鈴の音をならして、白猫は、にゃぁんと鳴いてから戸棚の上に飛び乗る。
「降りてきなさーい! まったくいたずらっ子なんだから、あとでご主人様に文句、言っちゃうぞー!」
そう言うと、白猫は青い眼でじっとこちらを見てから、トンッと肩の上に乗ってきた。
「まったく。はい、こっちね」
肩から腕の中に白猫を移動させる。
「辰巳君もタツミ君だわ。彼女と喧嘩して、仲直りの旅行に行きたいからって、猫を預かってくれだなんて……」
白猫の喉を撫でながら独り言を呟く。タツミはこの猫ちゃんの飼い主だ。そして、私の幼馴染。そう、あの、ね――。
「私の気持ちも知らないで――」
私はあの日、彼女が怒るから猫を預かって欲しいと打診があって、マタタビ棒をもって事情を聞くつもりだった。
仲が悪いのかなって、意地悪なこと考えて――。
会えなくて、よかった。だって――。
「まさか、あんなことになるなんて、誰が想像できたと思う? ねえ、アリスちゃん。あ、ごめんね。アリスちゃんにあげるつもりだったマタタビ、全部、アリスちゃんに――」
言っていて、何だか可笑しくて笑ってしまう。
白猫は喉をゴロゴロならして気持ち良さそうにしている。
あの時間はたしかにあったんだ。ほんの数週間の出来事で、現実ではたった一瞬の事だったけれど。
「あぁ、そういえば、カナちゃんの彼もタツミだっけ。まさか、同一人物だったり――」
しないよね、きっと。うん、だってカナちゃんが、とてもとても愛した人なんだもの。王子様よりもっともっと素敵な彼氏に違いないよね!
「…………アリスちゃん」
私の手が止まったことに不満を覚えたのか、にゃぁ? と、白猫が首を傾げる。
ねえ、貴方はいつ、迎えにきてくれるのかな。それとも、もう一回あの世界に落っこちて行けばいいのかな?
でも――、彼があの世界に呼んでくれたとしても、私の事を忘れてしまうんじゃ……。
ぽたりぽたりと、あの日流しそびれた涙が溢れ落ちる。
「私は、待っていたらいいの?」
誰も答えなんてくれない。
にゃぁん
白猫が不満げに腕から抜け出して、床に降り立つ。
「え、待って…………!」
換気で開けていた窓の網戸が開いている。
なんで?!
そう思った時、彼女はするりと外に飛び出して行った。
「アリスちゃん! 待って!」
網戸は開けてないはずなのに。ううん、違う、捕まえなきゃ。タツミ君に、返さないといけないのに!
私は急いで、彼女を探しに外へと向かった。
見慣れた、玄関。私の住んでる部屋。ぺたりと私は座りこんでいた。
スマホ!
電源が切れているかもしれないが、横に転がっている鞄からスマホを取り出す。
「同じ日付…………」
私があの世界に落っこちた、あの日をスマホの画面は示している。時間も、帰ってきた時間とあまり変わらないような。ほんの少しの時間だった?
「何で……?」
夢なんかじゃない、だって私はこんなドレスで会社に行くわけがない……。指輪だって。
「一つだけ…………」
黒い石の、あの指輪だけが私の指にはまっていた。
「あ、ぁ、ぁ…………」
私は、自分の左手にすがりつき、泣き続けた。
ざらざらした鱗模様も、身体の中を駆け巡っていた熱も、腕輪も、魔法の指輪も綺麗になくなっていた。
アリスにもらった、誓いの指輪も――。
そう、私は聖女じゃなくて、魔女でもなくて、ただの人に戻ったんだ。
ーーー
あれから、少したった日。私は格闘していた。
え、何と闘ってるって?
「こら、アリスちゃん!」
チリンと小気味良い鈴の音をならして、白猫は、にゃぁんと鳴いてから戸棚の上に飛び乗る。
「降りてきなさーい! まったくいたずらっ子なんだから、あとでご主人様に文句、言っちゃうぞー!」
そう言うと、白猫は青い眼でじっとこちらを見てから、トンッと肩の上に乗ってきた。
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白猫の喉を撫でながら独り言を呟く。タツミはこの猫ちゃんの飼い主だ。そして、私の幼馴染。そう、あの、ね――。
「私の気持ちも知らないで――」
私はあの日、彼女が怒るから猫を預かって欲しいと打診があって、マタタビ棒をもって事情を聞くつもりだった。
仲が悪いのかなって、意地悪なこと考えて――。
会えなくて、よかった。だって――。
「まさか、あんなことになるなんて、誰が想像できたと思う? ねえ、アリスちゃん。あ、ごめんね。アリスちゃんにあげるつもりだったマタタビ、全部、アリスちゃんに――」
言っていて、何だか可笑しくて笑ってしまう。
白猫は喉をゴロゴロならして気持ち良さそうにしている。
あの時間はたしかにあったんだ。ほんの数週間の出来事で、現実ではたった一瞬の事だったけれど。
「あぁ、そういえば、カナちゃんの彼もタツミだっけ。まさか、同一人物だったり――」
しないよね、きっと。うん、だってカナちゃんが、とてもとても愛した人なんだもの。王子様よりもっともっと素敵な彼氏に違いないよね!
「…………アリスちゃん」
私の手が止まったことに不満を覚えたのか、にゃぁ? と、白猫が首を傾げる。
ねえ、貴方はいつ、迎えにきてくれるのかな。それとも、もう一回あの世界に落っこちて行けばいいのかな?
でも――、彼があの世界に呼んでくれたとしても、私の事を忘れてしまうんじゃ……。
ぽたりぽたりと、あの日流しそびれた涙が溢れ落ちる。
「私は、待っていたらいいの?」
誰も答えなんてくれない。
にゃぁん
白猫が不満げに腕から抜け出して、床に降り立つ。
「え、待って…………!」
換気で開けていた窓の網戸が開いている。
なんで?!
そう思った時、彼女はするりと外に飛び出して行った。
「アリスちゃん! 待って!」
網戸は開けてないはずなのに。ううん、違う、捕まえなきゃ。タツミ君に、返さないといけないのに!
私は急いで、彼女を探しに外へと向かった。
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