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第六章・土の精霊の国

140話・残りは?

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「最初はね、彼女に何となく似てるなって思ってさ。だから、手伝おうって思ったんだ」

 アリスは、天井を見上げながら話し続ける。
 過去にそんなことがあったなんて――。私の方がとてもちっぽけに感じる。比べられるようなものでもないけれど……。

「帰りたいなら、叶えてあげようって。――でも、なんて言えば良いのかな。一緒にいると、ホッとする。自然体でいられるんだ。リサちゃんと居ると」

 自分の耳から入ってくる言葉に顔の温度上昇が進む。

「だから、元の世界に帰してあげたいボクと、帰したくないボクがいつの間にかここに――」

 アリスは自分の胸の前に拳を当てた。
 せっかく止まっていた涙が、また一粒こぼれ落ちた。
 アリスがすぐに手を添えて涙を指でなぞりとってくれた。

「ほとんど一目惚れ、かな? ボクもびっくりしてる。こんなにリサちゃんにかれるなんて」
「どうして?」
「どうしてだろう。でも、好きになっちゃったんだ」
「もしかして、マタタビのせい?」

 口が勝手に言わなくてもいいことを言ってしまう。誰か止めてぇぇ!

「違うよ。確かにマタタビもいい匂いだけどね。リサちゃんもとってもいい匂いがするんだよ。だけどね、ボクはリサちゃんの可愛いところも、ちょっと抜けてるところも、優しいところも全部全部大好きだよ」

 その言葉をもらえて、私はやっと安堵した。マタタビがなくなってもきっと大丈夫。
 家族に会えなくなるのはつらいけれど、アリスが居てくれるなら――。

「ごめんなさい、思い出したくないことを言わせてしまったよね」
「ううん、ボク達似てるからお互い魅かれあったのかな」

 アリスが頭を撫でてくれるので、私もそっと彼に手を伸ばし、猫耳とその横を撫でた。

「……これでもう帰還方法は探さないでよくなったのかな」
「あ、それは駄目」
「ん? どうして?」
「カナちゃんは、向こうに恋人がいるの」

 アリスが、困った顔になってしまった。でも、そうだよね。逆転の儀をしたら、私もむこうに帰ってしまう。それに、カナちゃんが帰ってしまったら、カトル王子が困るし――。

「そうか、カナには居たんだね。大切な人が……」
「私、カナちゃんをむこうに帰してあげたいの」

 深く考えているのか、少しの沈黙が流れる。アリスは意を決したのか目を一度閉じてから、こちらをまっすぐに見据えた。

「まずは時間が制限されているから、カナの中の魔獣の卵を浄化しよう。それからむこうの世界に帰れるように方法を探そう。リサちゃんがそう願うなら」

 私は、ポケットから二本のマタタビ棒を取り出して、アリスに渡す。これでマタタビはあと一本だけど、もう怖くない。

「私のお願いの分とカナちゃんの分」

 アリスは、二本を受け取るとふにゃりと笑いながら頷いて言った。

「りょーかいっ!」
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