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第五章・木の精霊の国
109話・にゃぁんとびっくり
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少し霧がでて、しっとりとした空気が漂う森の中。
「アリスト様、ここに入ったことはあるのですか?」
「んー、初めてかな」
「アリスちゃんも初めてなんだ」
「うん、精霊の場は話で聞いていただけだから。実際にこっちに入るのは初めてだよ」
じゃあ、何が起こるかわからないのかぁ。森の栄養にってあの人言ってたよね……。食虫植物的なものでもあるのかな。
食べて溶かされる想像をしてしまい、ぶるりと、身体が震える。
「ん?」
アリスの顔が赤い。マタタビを持ってる訳じゃなさそうだし、どうしたのかな?
「アリスちゃん、顔が赤いよ?」
「え?」
振り向いたアリスの瞳が潤んでいる。
「何だろう、すごくいい匂いがする」
いい匂い? 私はスンスンと鼻で匂いを嗅いでみるが何も匂わない。
「ルードさんはわかります?」
問いかけてみるが、彼もふるふると顔を横に振る。
「アリスちゃんにしかわからないのかな?」
「こっち」
ふらふらと、アリスが歩いて行ってしまう。これってもしかして危険なんじゃ!?
「アリスちゃん、まって!」
アリスの手を掴もうと、私は手を伸ばすが彼の手が目の前で消えた。
「えっ?」
違う、手だけじゃない。身体も消えたのだ。
パサリ
少し真ん中に膨らみがある、彼の服だけを残して……。
「アリスちゃん!?」
「アリスト様!?」
急いでアリスのいた場所にしゃがみこみ服に触れようとしたその時、服がもぞもぞと動いた。
「え?」
アリスの服の中から、可愛い生物が這い出てきた。
ぴるぴると動く猫の耳。降り積もった白銀の雪のように光る綺麗な銀色の毛並み。同じ色のくるくる動くしっぽ。綺麗な青い眼がこちらを見た。
いやぁぁ、めちゃくちゃかわいいいぃぃぃ! けど、待って。
なんで、なんで、アリスが猫に変身しちゃったの!?
「これは……、まさかアリスト様?」
「アリスちゃん?」
「にゃぁん」
あぁん、可愛い声。違う、そうじゃない。
「アリスちゃん、喋れないの?」
「にゃぁぁぁん」
可愛い。あぁ、だから。
「リサ様、いったん戻りましょう」
「え、でも――」
「木霊人やあの人なら、何かわかることがあるかもしれません」
「そう……だね……」
アリスの服や剣を拾い、ルードがまとめて持ってくれた。
私は、猫アリスを抱っこする。びっくりさせないように、ゆっくりと優しく。
「匂いから離れれば元に戻ったりしないかな」
「わかりません――」
私達は走って、もと来た道を戻った。
まだ、入り口からそう離れていないはず。
私の腕の中の猫アリスは、ゴロゴロゴロとのどをならしていた。
「アリスト様、ここに入ったことはあるのですか?」
「んー、初めてかな」
「アリスちゃんも初めてなんだ」
「うん、精霊の場は話で聞いていただけだから。実際にこっちに入るのは初めてだよ」
じゃあ、何が起こるかわからないのかぁ。森の栄養にってあの人言ってたよね……。食虫植物的なものでもあるのかな。
食べて溶かされる想像をしてしまい、ぶるりと、身体が震える。
「ん?」
アリスの顔が赤い。マタタビを持ってる訳じゃなさそうだし、どうしたのかな?
「アリスちゃん、顔が赤いよ?」
「え?」
振り向いたアリスの瞳が潤んでいる。
「何だろう、すごくいい匂いがする」
いい匂い? 私はスンスンと鼻で匂いを嗅いでみるが何も匂わない。
「ルードさんはわかります?」
問いかけてみるが、彼もふるふると顔を横に振る。
「アリスちゃんにしかわからないのかな?」
「こっち」
ふらふらと、アリスが歩いて行ってしまう。これってもしかして危険なんじゃ!?
「アリスちゃん、まって!」
アリスの手を掴もうと、私は手を伸ばすが彼の手が目の前で消えた。
「えっ?」
違う、手だけじゃない。身体も消えたのだ。
パサリ
少し真ん中に膨らみがある、彼の服だけを残して……。
「アリスちゃん!?」
「アリスト様!?」
急いでアリスのいた場所にしゃがみこみ服に触れようとしたその時、服がもぞもぞと動いた。
「え?」
アリスの服の中から、可愛い生物が這い出てきた。
ぴるぴると動く猫の耳。降り積もった白銀の雪のように光る綺麗な銀色の毛並み。同じ色のくるくる動くしっぽ。綺麗な青い眼がこちらを見た。
いやぁぁ、めちゃくちゃかわいいいぃぃぃ! けど、待って。
なんで、なんで、アリスが猫に変身しちゃったの!?
「これは……、まさかアリスト様?」
「アリスちゃん?」
「にゃぁん」
あぁん、可愛い声。違う、そうじゃない。
「アリスちゃん、喋れないの?」
「にゃぁぁぁん」
可愛い。あぁ、だから。
「リサ様、いったん戻りましょう」
「え、でも――」
「木霊人やあの人なら、何かわかることがあるかもしれません」
「そう……だね……」
アリスの服や剣を拾い、ルードがまとめて持ってくれた。
私は、猫アリスを抱っこする。びっくりさせないように、ゆっくりと優しく。
「匂いから離れれば元に戻ったりしないかな」
「わかりません――」
私達は走って、もと来た道を戻った。
まだ、入り口からそう離れていないはず。
私の腕の中の猫アリスは、ゴロゴロゴロとのどをならしていた。
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