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第三章・水の精霊の国

80話・ペシペシ

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「あぁ、来たね」

 もうクレス王子達は用意を終わらせて、私達を待っていたようだ。夜でもないのに、松明トーチを幾つも用意している。
 何故だろうと私が見ていたせいかクレス王子が苦笑いしながら、教えてくれた。

「私達は火の魔法と相性が悪くてね。いざとなったら火を放つつもりだ」

 火事になりませんかね……。あ、そこは水の魔法があるから大丈夫なのかな。

 先ほどの人達より二十人程増えた一行は、トレントが逃げた方向へと歩きだした。
 クレス王子は水の乙女アミスと馬に乗っている。あまり、遠くないといいなぁ。そう思いながら、私も歩きだした。
 あの男の人の姿は見えなかった。

 ーーー

「いないな……」

 かなり歩いてまわったけれど、トレントは見当たらなかった。

「これ以上奥に行っても皆が消耗するだけか、戻ろう」

 ホッとした。だいぶ疲れてきてたんです。体力ないなぁ。
 引き返そうと、決まったその時だった。アミスの顔色が蒼白になり、冷や汗をかいていた。どうしたんだろう。ふと、アミスの横を見ると水の精霊と思わしきあの男の人がいた。

「クレス様、街に巨大なトレントが現れたとウォータが――」
「何!」
「急ぎ戻りましょう」
「わかった、ディーテ! お前は皆を守りながら戻ってこい。私達は先に街に戻る!」
「はっ!」

 ディーテと呼ばれた列の一番前にいた人が承諾すると、クレス王子とアミスの乗った馬は駆け出した。

「ボク達も戻ろう」

 アリスは指笛を鳴らしぴーちゅんを呼んだ。サッと私はまた抱き上げられた。

「風の精霊よ」

 トントンと木の上に登って行く。

「ルードも一緒に乗って!」
「はい」

 魔力の消費をおさえるために、片方だけで行くんだろう。

「魔力は私が」
「リサちゃんは自分用に置いといて、サラにお願いするかもでしょ?」

 そうアリスに小さく告げられ、私は指を引っ込めた。

「ぴーちゅん!」

 不服そうなぴーちゅんはしぶしぶとアリスの指に嘴を当てていた。
 ぴーちゅんが大きくなったのを確認してから、ルードも空に飛び上がってきた。

「いくよ!」

 ぴーちゅんに乗って、前方遠目に見える街には、湖に根を浸けた絡み合う大きな木が一本見えた。
 紫色の煙が木のまわりに漂っている。

「あれはいったい何?」
「あれは……、毒かもしれません。近づきすぎないようにしましょう」

 ルードが注意すると、アリスはこくりと頷いた。
 確かに、毒々しい感じがする。でも、あんなところで発生しているのが毒だったら……。急がなきゃ!

 今度はラーファが私の頭の上にきて、あしゆびでペシペシしていた。もー、何なの君たち?
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