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第二章・火の精霊の国

55話・魔法の使い方

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「マテマテマテマテ!!」

 とても驚いた顔のドレンが叫ぶ。
 大きな水球を頭上に浮かばせながら私達が来たからだ。
 あのあとまだ、睡魔も疲労感もなく、たぶん魔力に余裕があった私は浸水しているところの水も移動させるため、大きな水球にして運んできたのだ。

「お水、どこに置いておけばいいですか?」
「あ、あぁ。あっちに貯水用の池がある」
「いこっか。リサちゃん」

 一緒に魔法を使っているように見せるために、アリスがぴったりと横にくっついている。さすがに私一人でしてるってバレたら、あとあと面倒が起きるかもしれないからね。

 ざぶんと水球を池の中に放り込むと、いい感じにタプタプになった。

「さっきのスコールも驚いたが、こっちもびっくりだな」

 良かった、ちゃんとこっちまで雨雲が届いたみたい。
 でも、あまり長続きはしなかったようだ。来る途中も降り続けていたら勢力も弱くなるのはしょうがないか。

「水の精霊の魔法、便利だな」

 ドレンがうらやましそうに呟く。

「ドレン、お風呂借りていい?」
「あ、あぁ、いいぞ。さっきのスコールにやられたのか? 水を運んでくれたんだ。オレの家のを使ってくれ」

 ドレンの家でお風呂を借りることになったので、お邪魔じゃましに行く。奥さんとか家族とかいるのかな?

「すぐそこだ」

 そういうと、隊舎からすぐのお家に案内された。

「一人暮らしだから、気にするな。勝手に使ってくれていい。タオルはそこだ。オレはあっちに戻ってるから。終わったらまたオレのところにきてくれ」
「ありがとうございます」
「ありがとー」

 ペコリとお礼をして、ドレンを見送り、私達は順番にお風呂と着替えを済ませる。

「リサちゃんからいっておいで」

 と、言われたので私は先に着替えに行く。そこで、はっと気がついた。濡れた水分をさっきの要領で自分から離れろとかすればよかったかな、と。魔法なんてなかった世界の住人の私には、ポンと発想出来なくて便利な魔法を使いこなすのはなかなかに難しそう。
 ドレンのおうちのお風呂は、お風呂といっても水風呂で少し水をはっているだけだったので、私は水の精霊に手伝ってもらって、水を増やしておいた。
 これくらい、いいよね?

 ーーー

「これで当分の間、この街の水は安泰あんたいだ。ありがとう!」

 手を掴まれブンブン振られながら感謝の言葉をもらう。

「よ、よかったですー」

 2メートルありそうな巨体は近くで見るとかなり威圧感があり、びくびくしながら私は答えた。

「アリストが水の魔法を使えるのは知ってたが、嬢ちゃんもすごい魔女だったんだな!」
「あ、ははは……」

 肯定していいのかどうかわからなかったので、私は曖昧あいまいに返事を返す。
 それを笑顔で見ていたアリスが、少し真剣な表情になってドレンに聞いた。

「ドレン、さっきお願いした件はいけそう?」
「あ、あぁ、もちろんだ。早速行こうか」

 お願いした件? いったい、何のことだろう。
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