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見てしまった俺

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「……マキちゃん?」

 マキちゃんが男と一緒に歩いてる。
 嘘だろ……。近いんだよ! 誰だよ、お前は!
 帰り道、人通りがある交差点。確かに俺の彼女がそこにいた。どういうことか確かめたいけれど、信号は赤だし、二人はなんだか早足で行ってしまう。待ってくれ、マキちゃん!
 意味もなく足踏みをする。信号が変わるまでが長く感じる。気がつけばもうマキちゃんの姿はそこにいない。

 ぴっぽー、ぴっぽー

 信号が変わった。すぐに走り出したが人を避けながらでまっすぐに進めない。

「マキちゃんっ!!」

 返ってこないとわかってはいるけれど呼んでみる。
 まっすぐ進み続けたけれど、マキちゃんは見つからなかった。
 学校の友達か何かだ。そう思いたいけれど、違う学校に通う彼女のいつも通りを知らない俺は不安に思ってしまった。マキちゃんの表情を見ていないから余計に。
 そうだ、メッセージを送れば――。
 すぐに送ってみたけれど既読はつかなくて、帰りにここでと言っていた場所にもマキちゃんはいなかった。

「マキちゃぁん」

 凹みながらスマホをいじっていると連絡を知らせる音がした。

『ごめんなさい。今日は先に帰りました』

 しょんぼりとその言葉を眺めながら俺は立ち上がり、ふらふらと家に向かって歩き出した。
 その下のメッセージを確認せずに。

「お兄!! おそいよ」
「え、なんだ?」

 帰ったとたんにナミが詰め寄ってきた。

「中、急いで」
「だから、なんだよ?」

 急いで手を洗い、リビングに移動する。そこにはマキちゃんがいた。

「あ、樹君……」

 彼女は悲しそうな表情を浮かべてこちらを見た。

「ごめんなさい」

 何が何だかわからない俺は狼狽うろたえた。
 マキちゃん、いったいどうしたんだ!?
 謝られるようなことなんて、俺されて――。先ほど見た映像が脳裏をよぎる。違う、マキちゃんは違う。さっきからずっと不安に思っている気持ちをおさえつける。泣いてる彼女にこんな気持ちをぶつけちゃダメだ。
 ぎゅっと口を結んでマキちゃんに近づく。

「どうして謝るの?」
「――――気をつけようって言ってたのに、ごめんなさい」
「え?」

 父さんは気を利かせてか、部屋にこもってくれているみたいだ。顔が見えない。なら、ここで話しても問題ないか?

「気をつけようって、Vのこと?」

 俺が聞くとマキちゃんはこくりと頷いた。

「私の個人情報がどこからかもれたみたいで、V活動はやめないといけなくなるかもしれません」
「……え」
「ごめんなさい」

 謝る彼女はポツリポツリと事のあらましを話し続けていた。
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