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おかえり! 大切な俺の
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「よろしくお願いします」
「うん。よろしく」
私服の鵜川はなかなか可愛かった。清楚系のワンピースの上に茶色のコートを羽織っていた。今日も眼鏡はかけていない。
少し日が出てて今日は暖かい。ゲーム機を構えて公園の屋根付きベンチに座る。となり同士ではなく一人分離れて。
「集会所はわかる?」
「集会所?」
「あー、フレンドとかとゲームするために一回行く場所なんだけど」
「どこ?」
せっかく空けた場所をつめて鵜川が近づいてくる。
「ここ」
説明したあとすぐにまた隙間を作る。
「あ、できたみたい」
鵜川のキャラクターが入ってきたみたいだ。ん、なんか見覚えがあるんだが……。猫耳、大太刀、初心者に多いすぐ作れる紅水竜の鎧。名前は、ヒカリ……。
は?
俺は画面を二度見する。それから鵜川を二度見する。
いや、うん。たまたまだよな。ヒカリなんて名前珍しくともなんともないし、猫耳だって、人気だろうからな。だから、たぶん、違うよな? 猫月ヒカリとは。
バケツで水でもかけられたように冷や汗がだらだらと流れる。え、これ、待って? まさか、鵜川は俺だって気がついてる? 俺がミツキだって、それで猫月ヒカリがリアルで接触してきた? え、どうなってる? 今俺何が起こってる?
ぐるぐるぐるぐると思考が回る。
「遠坂君」
「はい!」
「入ったよ」
「あ、うん。それじゃあこれに行ってみる? それとも何か欲しいのがあるかな?」
「んー」
鵜川の表情からは何も読み取れない。猫月ヒカリのように何か言ってくる様子もない。やっぱり気のせいか?
「えっとね、緑水晶龍のクエスト」
うぁぁぁぁぁぁ!? これ絶対俺のことわかってるだろ? そう、まだ装備が復活出来てないんだよぉぉぉぉぉ! ちょうどいいけど! 行きたいクエストだけどさ!!
もくもくとクエストを進める。う……、初心者の動きだ。やっぱり同一人物か?
俺の後ろから斬撃だと……。ずっと後ろをついて歩き、動きをトレースする鵜川。あ、負けた。
「ごめんなさい」
「あ、大丈夫です。もう一回行きましょう」
いきなり謝られて敬語になってしまう。
「あたしのせいで負けちゃった」
「気にしないで、ほら、次行こうよ」
困った。妹ならガツンガツン言えるけれど、さすがに鵜川相手にそんなこと言えない。
「なんであたしダメなんだろう。上手に真似して同じ様に動いてるはずなのに」
あ、そうか。それだ……。
「鵜川さん、ちょっといいかな?」
鵜川の顔を見る。かなり悩んでる顔だった。
「鵜川さん、真似してるって言ってるけど、まったく同じに動いてしまうとさっきみたいに重なってしまってもう一人の動きの邪魔になるからさ、鵜川さんが思うように動いてみてくれないかな」
「え?」
「それと、よく動きを見てるからさ、遠距離武器に変えてみない?」
「遠距離? でもあたし、一個しか作ってないし」
「それでいいよ! やってみよう」
たぶんだけど、鵜川は適正さえ掴めばぐっと上手くなるタイプだ。なのに人の真似ばかりしてるから自分らしさが成長してないんじゃないかな。
鵜川が弓を装備する。使い方はわかるらしいのでそのままクエストに出た。
「うそ?」
「すげー! やっぱ、鵜川さんこっちのほうが適正武器だよ」
欲しい時に矢が飛んでくる。めちゃくちゃ上手い。これ、俺の方がいらなくないか? ってくらい。
「鵜川さん、マネなんてやめてさ、自分らしさを大事にしたらいいんじゃないかな」
「自分らしさ……。あたしらしさ」
「よし、勝ったぁ!」
おぉ、しかもレアのドロップきたー!!
これでやっと鎧が完成する。おかえり、緑水晶龍の鎧ぃぃぃ!
「遠坂君」
「ん?」
「ありがとう――――」
ありがとうのあとが小さすぎて何か言ってる気がしたけど聞き返すのも失礼かなと思って俺は無難に返事をしておいた。
「こっちこそ、欲しかったのが出たんだ。ありがとう、鵜川さん」
「うん。よろしく」
私服の鵜川はなかなか可愛かった。清楚系のワンピースの上に茶色のコートを羽織っていた。今日も眼鏡はかけていない。
少し日が出てて今日は暖かい。ゲーム機を構えて公園の屋根付きベンチに座る。となり同士ではなく一人分離れて。
「集会所はわかる?」
「集会所?」
「あー、フレンドとかとゲームするために一回行く場所なんだけど」
「どこ?」
せっかく空けた場所をつめて鵜川が近づいてくる。
「ここ」
説明したあとすぐにまた隙間を作る。
「あ、できたみたい」
鵜川のキャラクターが入ってきたみたいだ。ん、なんか見覚えがあるんだが……。猫耳、大太刀、初心者に多いすぐ作れる紅水竜の鎧。名前は、ヒカリ……。
は?
俺は画面を二度見する。それから鵜川を二度見する。
いや、うん。たまたまだよな。ヒカリなんて名前珍しくともなんともないし、猫耳だって、人気だろうからな。だから、たぶん、違うよな? 猫月ヒカリとは。
バケツで水でもかけられたように冷や汗がだらだらと流れる。え、これ、待って? まさか、鵜川は俺だって気がついてる? 俺がミツキだって、それで猫月ヒカリがリアルで接触してきた? え、どうなってる? 今俺何が起こってる?
ぐるぐるぐるぐると思考が回る。
「遠坂君」
「はい!」
「入ったよ」
「あ、うん。それじゃあこれに行ってみる? それとも何か欲しいのがあるかな?」
「んー」
鵜川の表情からは何も読み取れない。猫月ヒカリのように何か言ってくる様子もない。やっぱり気のせいか?
「えっとね、緑水晶龍のクエスト」
うぁぁぁぁぁぁ!? これ絶対俺のことわかってるだろ? そう、まだ装備が復活出来てないんだよぉぉぉぉぉ! ちょうどいいけど! 行きたいクエストだけどさ!!
もくもくとクエストを進める。う……、初心者の動きだ。やっぱり同一人物か?
俺の後ろから斬撃だと……。ずっと後ろをついて歩き、動きをトレースする鵜川。あ、負けた。
「ごめんなさい」
「あ、大丈夫です。もう一回行きましょう」
いきなり謝られて敬語になってしまう。
「あたしのせいで負けちゃった」
「気にしないで、ほら、次行こうよ」
困った。妹ならガツンガツン言えるけれど、さすがに鵜川相手にそんなこと言えない。
「なんであたしダメなんだろう。上手に真似して同じ様に動いてるはずなのに」
あ、そうか。それだ……。
「鵜川さん、ちょっといいかな?」
鵜川の顔を見る。かなり悩んでる顔だった。
「鵜川さん、真似してるって言ってるけど、まったく同じに動いてしまうとさっきみたいに重なってしまってもう一人の動きの邪魔になるからさ、鵜川さんが思うように動いてみてくれないかな」
「え?」
「それと、よく動きを見てるからさ、遠距離武器に変えてみない?」
「遠距離? でもあたし、一個しか作ってないし」
「それでいいよ! やってみよう」
たぶんだけど、鵜川は適正さえ掴めばぐっと上手くなるタイプだ。なのに人の真似ばかりしてるから自分らしさが成長してないんじゃないかな。
鵜川が弓を装備する。使い方はわかるらしいのでそのままクエストに出た。
「うそ?」
「すげー! やっぱ、鵜川さんこっちのほうが適正武器だよ」
欲しい時に矢が飛んでくる。めちゃくちゃ上手い。これ、俺の方がいらなくないか? ってくらい。
「鵜川さん、マネなんてやめてさ、自分らしさを大事にしたらいいんじゃないかな」
「自分らしさ……。あたしらしさ」
「よし、勝ったぁ!」
おぉ、しかもレアのドロップきたー!!
これでやっと鎧が完成する。おかえり、緑水晶龍の鎧ぃぃぃ!
「遠坂君」
「ん?」
「ありがとう――――」
ありがとうのあとが小さすぎて何か言ってる気がしたけど聞き返すのも失礼かなと思って俺は無難に返事をしておいた。
「こっちこそ、欲しかったのが出たんだ。ありがとう、鵜川さん」
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