上 下
87 / 94

おかえり! 大切な俺の

しおりを挟む
「よろしくお願いします」
「うん。よろしく」

 私服の鵜川はなかなか可愛かった。清楚系のワンピースの上に茶色のコートを羽織っていた。今日も眼鏡はかけていない。
 少し日が出てて今日は暖かい。ゲーム機を構えて公園の屋根付きベンチに座る。となり同士ではなく一人分離れて。

「集会所はわかる?」
「集会所?」
「あー、フレンドとかとゲームするために一回行く場所なんだけど」
「どこ?」

 せっかく空けた場所をつめて鵜川が近づいてくる。

「ここ」

 説明したあとすぐにまた隙間を作る。

「あ、できたみたい」

 鵜川のキャラクターが入ってきたみたいだ。ん、なんか見覚えがあるんだが……。猫耳、大太刀、初心者に多いすぐ作れる紅水竜の鎧。名前は、ヒカリ……。
 は?
 俺は画面を二度見する。それから鵜川を二度見する。
 いや、うん。たまたまだよな。ヒカリなんて名前珍しくともなんともないし、猫耳だって、人気だろうからな。だから、たぶん、違うよな? 猫月ヒカリとは。
 バケツで水でもかけられたように冷や汗がだらだらと流れる。え、これ、待って? まさか、鵜川は俺だって気がついてる? 俺がミツキだって、それで猫月ヒカリがリアルで接触してきた? え、どうなってる? 今俺何が起こってる?
 ぐるぐるぐるぐると思考が回る。

「遠坂君」
「はい!」
「入ったよ」
「あ、うん。それじゃあこれに行ってみる? それとも何か欲しいのがあるかな?」
「んー」

 鵜川の表情からは何も読み取れない。猫月ヒカリのように何か言ってくる様子もない。やっぱり気のせいか?

「えっとね、緑水晶龍のクエスト」

 うぁぁぁぁぁぁ!? これ絶対俺のことわかってるだろ? そう、まだ装備が復活出来てないんだよぉぉぉぉぉ! ちょうどいいけど! 行きたいクエストだけどさ!!
 もくもくとクエストを進める。う……、初心者の動きだ。やっぱり同一人物か?
 俺の後ろから斬撃だと……。ずっと後ろをついて歩き、動きをトレースする鵜川。あ、負けた。

「ごめんなさい」
「あ、大丈夫です。もう一回行きましょう」

 いきなり謝られて敬語になってしまう。

「あたしのせいで負けちゃった」
「気にしないで、ほら、次行こうよ」

 困った。妹ならガツンガツン言えるけれど、さすがに鵜川相手にそんなこと言えない。

「なんであたしダメなんだろう。上手に真似して同じ様に動いてるはずなのに」

 あ、そうか。それだ……。

「鵜川さん、ちょっといいかな?」

 鵜川の顔を見る。かなり悩んでる顔だった。

「鵜川さん、真似してるって言ってるけど、まったく同じに動いてしまうとさっきみたいに重なってしまってもう一人の動きの邪魔になるからさ、鵜川さんが思うように動いてみてくれないかな」
「え?」
「それと、よく動きを見てるからさ、遠距離武器に変えてみない?」
「遠距離? でもあたし、一個しか作ってないし」
「それでいいよ! やってみよう」

 たぶんだけど、鵜川は適正さえ掴めばぐっと上手くなるタイプだ。なのに人の真似ばかりしてるから自分らしさが成長してないんじゃないかな。
 鵜川が弓を装備する。使い方はわかるらしいのでそのままクエストに出た。

「うそ?」
「すげー! やっぱ、鵜川さんこっちのほうが適正武器だよ」

 欲しい時に矢が飛んでくる。めちゃくちゃ上手い。これ、俺の方がいらなくないか? ってくらい。

「鵜川さん、マネなんてやめてさ、自分らしさを大事にしたらいいんじゃないかな」
「自分らしさ……。あたしらしさ」
「よし、勝ったぁ!」

 おぉ、しかもレアのドロップきたー!!
 これでやっと鎧が完成する。おかえり、緑水晶龍の鎧ぃぃぃ!

「遠坂君」
「ん?」
「ありがとう――――」

 ありがとうのあとが小さすぎて何か言ってる気がしたけど聞き返すのも失礼かなと思って俺は無難に返事をしておいた。

「こっちこそ、欲しかったのが出たんだ。ありがとう、鵜川さん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...