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三つの国

クランからの依頼

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 テトがそこにいるのに、ドキドキしない。どうしてだろう。同じ顔なのに全然違う人みたい。
 じっと入ってきた人物を見る。

「この格好は久しぶりだ。オレ様・・・はあっちの方が慣れてるんだけどな」
「……え、クラン?」
「従兄弟なんだよ。彼らは。まあ、ある程度魔法で誤魔化している部分もあるけれど」
「え、えーーーー!?」

 びっくりするくらい似てる。もしかして、こっちが本当の姿に近いのかな? 角はまだ隠してるみたいだけど。

「替玉役なんてやりたくなかったけど、しょうがないよな。テト様がいないんじゃ。すずめ、連れ戻してくれよ」
「え?」
「依頼出したから」
「え?」
「私達でテト様を助けに行きますわよ!!」

 イソラが胸をはって立ち上がる。
 まさか、私達って……。

「ヨウ、あなたも手伝いなさい」

 私、イソラ、ヨウ 私達 で!?

 ◇

「結愛、いいか?」
「はい、すぐに行きます」

 テトそっくりなクランに結愛は赤くなりながら近づいていく。

「あー、何。ゆあってば、あんなゆるんだ顔して……」
「麻美ちゃん、しぃー」

 テトの時には見なかった結愛の嬉しそうに一緒に歩く姿。見てて少しだけ心苦しかった。
 結愛はクランの事が好きなんだ。テトではなくて、クランだった。それでは、テトの気持ちは?

「また余計なこと考えてるだろ」

 ヨウが頭の上に手をおいてきた。

「別に……」
「ボクの事だけ考えて」
「う……」
「はぁ、次の場所の依頼がきたよ」

 ヨウはペラッと何かが書かれた紙を机に置いた。

「今回の場所は、ここ。セキドガーグの中だ」
「それじゃあ」

 麻美がふぅと大袈裟にため息をはいた。

「はいはい、いってらしゃい。私達はお留守番ね」
「ご、ごめんね」
「謝らないでよね。すず。私そういうの嫌い」
「あ、そうだった。こっちはお願い、麻美ちゃん」
「オッケ、結愛ののろけも聞かされとく」
「あ、あはは」

 三人で歌ったあの日から、関係は少しずつ変わった。大きく変わったわけじゃないけれど、麻美が言っていた後ろ向きなのを出来るだけ気をつけるようにした。
 麻美は今まで言わなかった事をズバズバと言うようにすると言っていた。黙って進めすぎたって、ごめんって言って。

「それじゃあ、準備しないと」
「と、言ってもまあ変身をとくぐらいじゃないか?」
「そうだけど、女の子はそれだけじゃないんだから」

 話しながら二人でイソラが待っている部屋に向かった。

「ただいま、イソラ。ってはや!!」
「さぁ、行きますわよ」
「行きます、です!」

 イソラとセレが二人で大荷物を作って得意気に立っていた。
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