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魔法の学園

ファイスヴェードにて◆別視点

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 リオンは思った。人選を誤ったかもしれない。が始まったのは、他の少女二人がいなくなった日だった。

「魔法の力が弱くなった?」
「はい。麻美あみ様の聖女の魔法が日に日に弱くなっています。このままでは――」
くなってしまうと?」
「わかりません。ですが、この国から同時に二人がいなくなった日からですので、もしかしたら引き離してはいけない存在であったのかもしれません」

 リオンは報告に来た魔法使いの男に、下がるよう伝える。

「リンシール陛下、如何いかが致しましょう」
「もう一人の少女は見つかっていないのだろう? 隣に捕らえていた魔人の仲間がともに連れていったのかもしれないな」

 リオンの父、リンシールは、長い髭をいじりながら考えている。ふと、違う事が気になったのかある人物の名前が出てきた。

「フェレリーフはどうしている?」

 リオンと王位継承を競いあう女の名前。フェレリーフの母の方がリオンの母より身分が上で、その母親の庇護のもと、わがままをたくさん通していた。

「いつも通りです」
「そうか……」

 長い長いタメ息をついた後、リンシールは目を閉じた。

「もう一人の聖女と交換とはいかんだろうなぁ。そうだ、もう片方の聖女はどうなのだ?」
「彼女は、テトが気に入ったそうで、難しいでしょうね。力がどうなっているか、使者を送りましょう」
「そうしてくれ」

 大きくもう一度息をつき、リンシールは話を終える。
 リオンは、ゆっくり頭を下げて、その場から離れた。

「何故こんなことに……、いや、もしかしたら彼女はただ疲れているだけかもしれない」

 リオンは一人、そんな事はないとわかりながらもそうであればいいと願っていた。
 いつものように、麻美のもとへと向かう。顔に出さないよう注意を払いながら、ドアをノックする。

「おはよう、アミ。さぁ、今日も力を目覚めさせるために頑張ろう」

 出てきた麻美の表情は、出会った時の美しさがどこかに行ってしまった様にかたく険しかった。

「リオン、私の歌、なんだか寂しいの――」

 わからないと頭を振る麻美。リオンはゆっくりと乱れた髪を直す様に麻美の頭を撫でる。少し落ち着いた麻美がじっと見上げてくる。瞳にはほんの少しの恐怖の色。何に怯えているのだろう。

「大丈夫、今その話をしてきたところだよ。もしかしたら、一人で寂しいからかもしれない。ユアに会いに来てもらおうか?」
「お願い――」

 心が弱っている。麻美のもとになった人物はとても弱い人だったのかもしれない。この世界に馴染みだして、元になった人の性格が出てきているのだろうか。
 もとの人間はファイスヴェードの者だったのだろうか。
 いまだ調べはついていない。こちらも同時に調査を進めなければいけないだろう。
 リオンは麻美の手を引いて、部屋から連れ出した。
 これが、あの時自ら前に出た彼女なのだろうか。
 おどおどとしながら、麻美はリオンの後ろをついて歩いていた。
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