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三人の女の子

赤い髪と黒い角

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「大丈夫ですか!?」

 声をかけるけれど、やっぱり彼の反応はない。彼の頬に手で触れる。小さくだけど息はしてる。だけど、すごく弱々しい。
 腕を外してあげたくて、鍵穴に鍵を入れる。さっきと同じ鍵が使えるみたいで、カチリと合った。
 一本外すと身体に重さを感じた。彼が私にもたれ掛かる。もう一本の腕を外すと、倒れるかもしれない。しっかりとその事を考えながら彼の身体を支え、私は両腕を自由にしてあげた。

「お、重いぃぃ」

 倒れ込んでくる身体をなんとか支えてあげて、頭をぶつけないようにゆっくりとおろしてあげる。
 テトと同じ赤い髪。その隙間から二つの黒い尖った石が突き出ている。黒曜石のようなそれに触れる。

「これって……角?」

 飾り等ではなく、そこから生えている。
 怪我が、ひどい。力を見せろと言われた時の男達よりもたくさんの怪我があった。
 彼を治してあげたい。私の歌で元気が出たと言ってくれたこの人を治してあげたい。
 私に麻美や結愛のような力がないのはわかっているけれど――。黒曜石の角に触れながら、私は歌う。ぎゅっと、目をつぶりながら。

「……綺麗きれいだな」

 頬に何かが触れる。聞こえてきたのはさっきまで話していた声だ。恐る恐る目を開けると、彼と目があった。角と同じ、黒曜石のように黒い瞳。
 頬に触れたのは、さっきまで繋がれていた彼の手だった。

「あっ……」

 私はお風呂に入れていない事を思い出す。それに涙を流して、きっと赤い目で……。
 恥ずかしくなり、彼から離れようとすると、手をぎゅと掴まれた。

「帰るぞ」

 言うが早いか、彼は立ち上がり私の手を引く。

「えっと……待って……」

 結愛と……麻美がここにいるし、帰り道がわからない。私、どうやって帰ったらいいの?

「ごめん、待てないんだ。これを逃したら……」

 そうだ。捕まっていたんだから、逃げないと。鍵が開いて自由で……。なら、逃げない手はないよね。でも、私は――。
 黙っていると、手をぐいっと引かれた。

「一緒に行こう」

 すぐそこに熱を感じる身体がある。彼の身体からさっきまであった怪我がなくなっていた。どうして――。

黒陽炎ダークミラージュ

 彼が何か言葉を呟く。

「行くぞ」
「え、え?」

 私は、走り出した。名前も知らない、赤い髪の男の人に手を引かれて――。

 キッ

 鳴き声がしてそちらを見ると、あのリスが彼の肩に乗っていた。
 走り出してすぐに、ここに入れられた時に通った男の人達がいる場所を通る。彼らは私達の事に全然気がついていない。
 何事もなく、通りすぎていく。大きな壁の出入り口みたいなところも、人々が行き交う街並みのような場所も――。誰も私達を気に止めない。

「はぁ、はぁ、はぁ――。もう、駄目……です」

 走って走って、走り続けて、途中、私はをあげた。
 街並みを抜け、平野に出たけれど、これ以上は無理だ。
 誰も通らない、夜の道。彼は、後ろを振り返り、少し考えるようにしてから足を止めてくれた。
 置いていかれても、文句なんて言えないのだけど、彼は私を待ってくれる。

「もう少しだけ、頑張れないか?」

 ふるふると私は首を横にふる。お腹の横が痛い。息もあがってる。これ以上は私には無理だと感じる。
 そんな様子を見てとったのか、彼は私を抱き上げた。

「なっ、あの……」
「もう少しだけ、人の目のつかないところまで……。しっかり捕まってろ」

 おずおずと首に手を回ししがみつく。それを確かめた彼は、歩きだす。さっきまで、あんな怪我をしていた人に無理させちゃ駄目だ。そう思い、私は彼に言った。

「置いていって。あなた一人なら走っていけるでしょう?」

 だけど、彼は私の言葉を聞かないフリをした。

「あの、――」
「静かにしていろ。あそこまでだから……」

 彼の目が見ているのは、木立。切り開かれた場所との境目のように立つ木々の場所。

「あの中に入れば、追っ手もなかなか見つけられないだろう」

 彼は息をあげながら、進み続けている。
 私は口を閉じて、彼に従った。あそこについたら、おろしてもらって、自分の足で走ろう。
 それまでに、……大きく息を吸って、はいて、もう一度走れるようにと息を整えた。
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