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陽人 ― 4
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ぼくのお山が完成して何日かたった。だけど、何も変わらない。お迎えがくるんじゃないの?
ほら、もうかなみのお山と同じ高さだよ。
それに近づくと、向こう側に人がいた。塁だった。
アイツもお山を作っていた。
ぼくより先に外に出て、お父さんに会うつもりなんだ。ぼくは急いでアイツのいる場所に走った。
「何でまだいるんだよ! 突き落としたはずなのに。流れていっただろ!!」
ぼくが大きな声で言うと、塁はかたまった。何も言わない。何も言わないってことはそうなんだ。
「お前が出ていくなんて許さない! 許さない!」
ぼくはおもいっきりアイツのお山にキックする。崩して崩して、全部なくしてやる。
「……よくも」
消えてなくなった頃、塁が睨みながらぼくのところにきた。違う、その後ろのぼくのお山のところに――。
「何するんだ!!」
さっきぼくがしたように、全部全部踏み潰され蹴り崩されていく。お母さんが遠ざかっていく。やめて、やめてよ!! 何でなんだよ!!
もう少しだったんだ。
最後の一個も消えた。何もなくなった。
ぼくは叫んだ。
「「お母さぁぁぁぁぁぁん」」
同時にアイツが叫んだのはぼくとおんなじだった。
◇
ぼくは呆然とその場にしゃがみこんだ。アイツはゆっくりと歩きだす。はやく、どっか行け。そう願ったのに、何度も何度もぼくのところに現れた。
顔を見たくないぼくは反対方向に歩きだす。でも駄目だった。アイツと同じ場所にきてしまう。
諦めて、ここでお山を作るしかないのかな。アイツもそう思ったのか、抱えていた骨をばらばらと下に置いた。
「お兄ちゃんが言ってたんだ――」
ぞわりと背中が粟立つ。コイツのお兄ちゃんなんて言葉を聞きたくない。
「ここから出る方法」
塁がここにいるってことはお父さんはお母さんのところに帰ってきてるはずだよね。
なら、コイツより先にここからでないと。
「本当はぼくは生田陽人。この前のは友達の名前」
塁はお父さんを知ってるのか? この名前はお母さんとお父さんが大切なぼくにつけてくれたんだ。お前はぼくの予備だ。だって、お母さんが言ってた。
「適合したら、奪い取ってやる。はるくんきっと治るからね」
って……。
お父さんも言ってたんだよね。
「薬を取りに行ってくる」
って……。
◇
「この食べ物、お父さんに似てない?」
背中に大きな赤い亀裂のある男が落ちてきた。見覚えのある服、靴、腕時計。それはどう見ても、お父さんだった。
「知らない」
塁は首をふる。だけど、ぼくはどうしてもお父さんに見えてしまって、動けなかった。
「ぼくは食べたくない」
近づくこともできないまま、それから目をそらす。
「いいの?」
お父さん、とっちゃうよ?
ぼくにはそう言ってるように聞こえた。
くちゃくちゃと音がしてきて、ぼくは離れた場所でしゃがみこむ。
違う、あれはお父さんじゃない。そうだ、違うんだ。そう思いたかったのに、塁が叫んだ言葉で思い知る。
「お母さん、お母さん、おかあさぁぁぁん!!」
やっぱり、お父さんだったんだ。お父さんの中に、あの女もいたんだ……。
あぁ、嫌だな……。
◇
お腹がすくと動けなくなるんだ。今までごはんは食べていたから、こんな風になるなんて思ってもいなかった。
「どっちが食べる?」
ぼんやりとした視界に映る塁が聞いてくる。もう何もいらないよ。だって、動けないもん。あ、そっか。これでいいんだ。かなみと同じだもの。
「ぼくは行くね――」
やっと、お母さんに会えるんだ――。お父さんがいないなら、お母さんはぼくが守るんだ。
大嫌いな塁はずっとここにいればいい。
ほら、もうかなみのお山と同じ高さだよ。
それに近づくと、向こう側に人がいた。塁だった。
アイツもお山を作っていた。
ぼくより先に外に出て、お父さんに会うつもりなんだ。ぼくは急いでアイツのいる場所に走った。
「何でまだいるんだよ! 突き落としたはずなのに。流れていっただろ!!」
ぼくが大きな声で言うと、塁はかたまった。何も言わない。何も言わないってことはそうなんだ。
「お前が出ていくなんて許さない! 許さない!」
ぼくはおもいっきりアイツのお山にキックする。崩して崩して、全部なくしてやる。
「……よくも」
消えてなくなった頃、塁が睨みながらぼくのところにきた。違う、その後ろのぼくのお山のところに――。
「何するんだ!!」
さっきぼくがしたように、全部全部踏み潰され蹴り崩されていく。お母さんが遠ざかっていく。やめて、やめてよ!! 何でなんだよ!!
もう少しだったんだ。
最後の一個も消えた。何もなくなった。
ぼくは叫んだ。
「「お母さぁぁぁぁぁぁん」」
同時にアイツが叫んだのはぼくとおんなじだった。
◇
ぼくは呆然とその場にしゃがみこんだ。アイツはゆっくりと歩きだす。はやく、どっか行け。そう願ったのに、何度も何度もぼくのところに現れた。
顔を見たくないぼくは反対方向に歩きだす。でも駄目だった。アイツと同じ場所にきてしまう。
諦めて、ここでお山を作るしかないのかな。アイツもそう思ったのか、抱えていた骨をばらばらと下に置いた。
「お兄ちゃんが言ってたんだ――」
ぞわりと背中が粟立つ。コイツのお兄ちゃんなんて言葉を聞きたくない。
「ここから出る方法」
塁がここにいるってことはお父さんはお母さんのところに帰ってきてるはずだよね。
なら、コイツより先にここからでないと。
「本当はぼくは生田陽人。この前のは友達の名前」
塁はお父さんを知ってるのか? この名前はお母さんとお父さんが大切なぼくにつけてくれたんだ。お前はぼくの予備だ。だって、お母さんが言ってた。
「適合したら、奪い取ってやる。はるくんきっと治るからね」
って……。
お父さんも言ってたんだよね。
「薬を取りに行ってくる」
って……。
◇
「この食べ物、お父さんに似てない?」
背中に大きな赤い亀裂のある男が落ちてきた。見覚えのある服、靴、腕時計。それはどう見ても、お父さんだった。
「知らない」
塁は首をふる。だけど、ぼくはどうしてもお父さんに見えてしまって、動けなかった。
「ぼくは食べたくない」
近づくこともできないまま、それから目をそらす。
「いいの?」
お父さん、とっちゃうよ?
ぼくにはそう言ってるように聞こえた。
くちゃくちゃと音がしてきて、ぼくは離れた場所でしゃがみこむ。
違う、あれはお父さんじゃない。そうだ、違うんだ。そう思いたかったのに、塁が叫んだ言葉で思い知る。
「お母さん、お母さん、おかあさぁぁぁん!!」
やっぱり、お父さんだったんだ。お父さんの中に、あの女もいたんだ……。
あぁ、嫌だな……。
◇
お腹がすくと動けなくなるんだ。今までごはんは食べていたから、こんな風になるなんて思ってもいなかった。
「どっちが食べる?」
ぼんやりとした視界に映る塁が聞いてくる。もう何もいらないよ。だって、動けないもん。あ、そっか。これでいいんだ。かなみと同じだもの。
「ぼくは行くね――」
やっと、お母さんに会えるんだ――。お父さんがいないなら、お母さんはぼくが守るんだ。
大嫌いな塁はずっとここにいればいい。
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