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陽人 ― 2
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口の中に赤いのをいれると否応なく見せられる。
もう、だいぶ慣れてきたけれど――。
◇
「死なないで、まだ生きていてよ」
男は力なく頷く。
鼻や口に、それから喉に管がついている。他にもいっぱい何かに繋がれている。
「――――――」
「うん、うん。知ってる。そうだよね。私一人じゃ何も出来ないよ。泣いてばっかりだよ。だから、お願い。置いていかないで」
男は目を閉じて、涙を流した。
◇
「置いていきたくない……」
ぼくの目からも涙がぽろぽろと落ちる。この食べ物も病院にいたのかな。見慣れた景色だった。
お母さんに会いたい。お母さんも心配してるよね。
会いたいよ。
「かなみのパパは置いていったんだよ。ママも会いに来てくれないの。はるとくんも?」
「……違うよ。ぼくのお父さんはぼくの病気を治すためにあの人のところに行ってたんだ。すぐ帰ってくるって」
ぼくの記憶に残っているお母さんの目が横に動く。
どこが嘘だったの? 病気を治すため? あの人のところに行ってる? すぐに帰ってくる?
「はるとくん、なんで目があっちに向いてるの? こっち見て話してよ」
「え、あ……、うん」
「はるとくんは幸せだったんだね」
「……うん」
幸せだったのかな。お父さんが家にいて、お母さんもいて、ぼくもそこにいた。その時は確かに幸せだった。
お母さんが女の名前を口にしてしまった、あの日までは――。
「江川こはるのところに行くの?」
お父さんが止まって、お母さんの顔を見る。
「せっかく戻ってきてくれたのに、また置いていくの?」
お父さんは答えない。お母さん、大丈夫だよ。ぼくが守ってあげるから。なのに、今ぼくはお母さんのそばにいない。お母さんを守ってあげるんだった。はやくお母さんのところに行かなきゃ。
「はるとくん、かなみの積み上がったから、次はたぶんかなみの番。少しのあいだお腹が空くかもしれないけれど、我慢してね」
先に食べ終わったかなみは白いのをからからと積みに行く。きれいに積み上がったまわりの山と同じ高さ。
「ぼくのところに積めばいいんだよね」
かなみはにこりと笑う。
もう、だいぶ慣れてきたけれど――。
◇
「死なないで、まだ生きていてよ」
男は力なく頷く。
鼻や口に、それから喉に管がついている。他にもいっぱい何かに繋がれている。
「――――――」
「うん、うん。知ってる。そうだよね。私一人じゃ何も出来ないよ。泣いてばっかりだよ。だから、お願い。置いていかないで」
男は目を閉じて、涙を流した。
◇
「置いていきたくない……」
ぼくの目からも涙がぽろぽろと落ちる。この食べ物も病院にいたのかな。見慣れた景色だった。
お母さんに会いたい。お母さんも心配してるよね。
会いたいよ。
「かなみのパパは置いていったんだよ。ママも会いに来てくれないの。はるとくんも?」
「……違うよ。ぼくのお父さんはぼくの病気を治すためにあの人のところに行ってたんだ。すぐ帰ってくるって」
ぼくの記憶に残っているお母さんの目が横に動く。
どこが嘘だったの? 病気を治すため? あの人のところに行ってる? すぐに帰ってくる?
「はるとくん、なんで目があっちに向いてるの? こっち見て話してよ」
「え、あ……、うん」
「はるとくんは幸せだったんだね」
「……うん」
幸せだったのかな。お父さんが家にいて、お母さんもいて、ぼくもそこにいた。その時は確かに幸せだった。
お母さんが女の名前を口にしてしまった、あの日までは――。
「江川こはるのところに行くの?」
お父さんが止まって、お母さんの顔を見る。
「せっかく戻ってきてくれたのに、また置いていくの?」
お父さんは答えない。お母さん、大丈夫だよ。ぼくが守ってあげるから。なのに、今ぼくはお母さんのそばにいない。お母さんを守ってあげるんだった。はやくお母さんのところに行かなきゃ。
「はるとくん、かなみの積み上がったから、次はたぶんかなみの番。少しのあいだお腹が空くかもしれないけれど、我慢してね」
先に食べ終わったかなみは白いのをからからと積みに行く。きれいに積み上がったまわりの山と同じ高さ。
「ぼくのところに積めばいいんだよね」
かなみはにこりと笑う。
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