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第二章 赤の瞳と金の瞳

第76話 鼓動が聞こえる距離

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「落ち着いた?」

 ブレイドが軽く手をポンポンと撫でる。私はゆっくりと息を整えた。

「はい。ごめんなさい。さきほどの話で昔の事を少し思い出してしまって」
「そんな軽い感じやなかったけど」

 ブレイドは手を握り続けてくれて、スピアーからは頭を撫でられる。まるで子どもみたいだ。はやくいつも通りにしないと……。そう思うのだけれど、なかなか上手く頭が回らない。

「あのくらいじゃ生ぬるかったかー。やっぱり……」

 なんてスピアーがぼそりと言う。彼は何かしてきたのだろうか。あの日あの後何があったかは彼からは何も聞いていない。

「今からハヘラータに飛んで問いただしに行く?」

 私はブレイドの問いに首を横にふる。心が追いつかない。このまま現実を突きつけられたら、なんて口走ってしまうか。

「大丈夫、ほらルニアが連絡とれるでしょ。だから……」

 頬を温かい水が伝う。驚いてブレイドの握ってくれていた手を引き抜き顔を覆った。

「ほんと、大丈夫だからっ」

 立ち上がって逃げようとしたのに、ブレイドに捕まった。
 抱き上げられ無言のまま連れて行かれる。
 たどりついたのは、彼の部屋だった。

「ブレイド? あの……」

 久しぶりに入った部屋。ここを使う事が少ないのか最低限の物しかなくて、スッキリと整っている。
 ソファに降ろされる。隣にブレイドも座り以前ここにきた日のように向かい合った。

「エマ、今日から部屋をここにしよう!!」
「……え?」
「今のエマを一人にしたらダメだと思うから……。もちろん嫌なら無理にとは言わない。でも、ボクと一緒にいてくれないかな?」
「ええっと……」

 嫌なワケない。一緒にいられるなら、ずっとそばにいたい。
 ただ、迷惑ではないだろうか。
 だって、私は他の人と一緒に寝たりしたことなくて……。けり飛ばしたりしてしまわないか心配で……。
 戸惑っていると、ぎゅっと抱き寄せられた。

「少し顔に赤みが戻ったね。さっきは蒼白になってて心配した」

 ブレイドの心臓の音がする。心臓の音を聞くとなんだかとても落ち着く。
 私は顔を彼に埋めたまま、彼への返答をした。

「一緒にいてもいい?」
「……うん」

 ぎゅっとする力が強くなる。
 ブレイドを助けるんだって思ってるのに頼ってばかりだなぁと反省した。でも、おかげで少し考える力が戻ってきた。
 スピアーは私を食べるのが目的で、フレイルもまたそばにいたいという。
 でも、私はどちらにも食べられたくない。もちろん、ブレイドにも。
 どうして、スピアーは食べられたいと言うようになると断言出来たんだろう。
 お父さん、お母さんは殺されてしまったのかな。だから帰ってこなかった?
 頭の中を駆け巡る謎達をゆっくり追いかけながら、ブレイドの腕の中で私は大きく息を吸った。ようやく、たくさんの空気をもらえた頭はゆっくりと散らばっていた情報の整理整頓を始めた。
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