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第一章 聖女と竜

第36話 ご褒美お買い物デート?

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 もう……、だめ……。土の上から離れたくない。
 素振りのあとの走り込み。それだけで私の体は限界だった。
 動きたくない。これ以上したら死んじゃうぅぅ。

「細くなったところでやっぱり筋力体力がたりないな。基礎訓練が必要だろ。まあ少しずつ頑張ろう、な?」

 少しずつ? かなり運動したと思うの。ただ、ルニアは何事もなかったように涼しい顔をしている。私の何十倍も動いてるのに……。
 ただ細くなるだけじゃ全然ダメなんだと実感する。このスタイルを維持するのは筋力体力なのね!!

「はい、ルニア教官。でも今日は勘弁してほしいです」

 もう一歩も動きたくない。ルニアはそんな様子の私の耳に顔を近付けささやいた。

「頑張ったご褒美があるのになぁ。動けないかぁ。なら――」
「何、何々!?」

 頑張ったご褒美と言えば甘いモノ!? 美味しいモノ!?
 思考が完全に聖女をやっていた時のままだ。食べる事しか思いつかない。だから、カケラほども想像していなかった。

「ブレイドと二人きりでお出かけだ」
「お出かけ?」

 頭の上に?がいっぱい浮かぶ。ご褒美って食べ物じゃないの? はっ、まさかブレイドを食べてこいと言ってるの!?
 無理無理。私とブレイドじゃ、どう頑張ってもブレイドに勝てっこない。つまりは食べられる方は私!?
 頭の中で答えが出て青くなっているとルニアがスピアーを引っ張ってきた。

「あー、もう。首根っこ掴むなや! あと、今回だけや! ええな? 今回だけやで!」

 ぶちぶちと文句を言いながらぶつぶつと呟く。あれ、これって……。温かい感じが足から全身に広がって筋肉がほぐれていく。さっきまでの疲労がとけていく。
 全身を優しく揉みほぐされている。何これ!!
 って、これも魔法?

「どや? 疲労回復魔法は効いたか?」

 地面から体を起こす。動く! 動くわ!! この体!!
 はっ! 動くようになったらまたシゴカれるのでは?

「効いてません。何も効いてません」

 再び地面へと頬を擦り付ける。

「なんでやねん!!」

 ルニアの手を離れたスピアーにツッコまれる。
 だって、もう走りたくないのです……。

「ほら、ブレイドの準備は終わってる」
「ふぇ?」

 彼は最近よく着ていた黒い服ではない、なんだか簡素な格好だった。まるで子どもの頃住んでいた家のまわりにいそうな。

「買い物に付き合ってもらって何故ご褒美になるかわからないが、一緒にきてくれるかな?」

 ルニアが親指を立てて行ってこいと言うので、私は急いで立ち上がり頷いた。
 買い物、買い物なら食べられないよね。
 王子様が買い物!?
 まだまだ頭の中は疑問だらけだけど、走り込みから解放されるなら私、いっきまーす!!

「ちなみに、どちらへ?」
「こことハヘラータの国境境いの街ラハナルだ」
「え……?」

 ラハナル……、そこって――。
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