上 下
29 / 135
第一章 聖女と竜

第29話 あなたのそばにいたいな

しおりを挟む
 ブレイドが対応していた広場。瘴気もなくて無事解決できた事がわかる。そこに色々広げてちょっとしたパーティー会場みたいになっていた。
 王様が開く本物はもっと豪勢だったりするのかな。だけど、比べるものが私の記憶にはなくて、この数人で始めるパーティーがすごくきらきらと光って見えた。
 誰かと何かをするというのがすごく新鮮だ。聖女の仕事の時は世話役の人はいたけれど、こんなふうに楽しく話したりパーティーをしようなんてなくて側にいるけれど一人で何かしてることが多かったから。

「この魚からはいい味が出るのでスープを仕立てましょう。こちらの果物や野菜は……そうですねぇ」

 そうつぶやきながらリリーはとってきた材料を持ってマチスとともに調理場へと向かう。その間もずっとなり続けるこのお腹。完成まで待てるのかな……。でも、美味しい料理を作ってもらえるという期待から心はもうウキウキしっぱなしだ。私はブレイドにもらった小さな干し肉の炙りを噛みしめながら空腹に負けず頑張って待つぞと心に決める。あぁ、お肉美味しいです。

「ブレイド、これもらってよかったの?」

 王子様のおやつまで出させてしまうあたり、私とても失礼なのではないか。王子様って干し肉食べるんだ? 元婚約者あのひとも食べてたのかしら。なんて考えているとブレイドは笑いながら「いいよ」って言ってくれた。ありがとうございます。美味しくいただきます。
 あぁ、干し肉これもだけどきちんとお礼を伝えておかないとだった。

「ありがとう。ブレイド。あのね、私ここの人たちをもとに戻していってもいいかな? その、――」

 果物に飽きたからリリー料理人から人間にもどすつもりだった。なんて口が裂けても言えない。
 何人になるかわからないけれどこう言っておけば戻し終わるまではぱくりと食べられちゃったりしなくなるよね。うん。
 もしダメなら食べられる前に逃げるしかないのかなぁ。

「ここにいさせてくれるお礼に瘴気の浄化の手伝いをしながら、余裕があったらなんだけど、えっと」

 話の途中でブレイドが私の両手をとって自分の手の上に持っていく。え、いまから食べられる?

「ごめんね、それはボクの仕事でボクがしなくちゃダメなことだから」

 断られそうな雰囲気に続きを聞きたくないなと思ってしまう。

「……私、一人で頑張るのがすごく大変だって知ってる。だから、二人ならブレイドが助かるんじゃないかなって思って……迷惑だったかな」

 涙より先に鼻水が出てしまう。これは寒いせいだ。きっと。

「違うよ。迷惑なんかじゃない」

 ぎゅっと両手を包み込まれる。ブレイドはまっすぐ私を見ていた。

「ボクの国の問題だから、これ以上エマ達に迷惑をかけれないって思って、それでその、言い出せなかった。人に戻ったシルを見て涙を流す者が何人もいた。ボクにはその力はない。だから、エマお願いしてもいいかな。ボクは皆を元に戻してやりたい。ボクがエマに返せるものがあるなら何でも払う。だから」

 私は顔をあげる。顔をぷるぷるとふって笑ってみせた。

「お肉もらったお礼です。また、食べたいです」

 急いで食べてしまったから、もう少し味わいたかった!! あのお肉。

「わかった! またとってくる!」

 びっくりした顔だったブレイドはふわりと笑った。なんだかいつもどこか思いつめてる顔をしていたから、その笑顔が私にとってとても嬉しいものだった。
 私も一人で頑張っていた時はこんな顔をしていたのかな。

「あーもう、何いい雰囲気だしてるんやー!」

 スピアーが頭に乗ってくる。一気に台無し感が増す。

「スピアー、重い」
「なら、はよオレも元に戻してくれ!!」
「ヤダ」

 私からキスをするとかいう方法ではない別の方法があるなら考えてもいいけど、あるのかなぁ。

「なんでやー!!」

 頭の上で暴れられフラフラする。がしりと掴んで胸の前に抱えると大人しくなった。
 けれど気がつけばシルに呼ばれてブレイドが行ってしまった。
 あぁ、もうブレイドの事をもっと知りたかったのに。なんだか邪魔されてしまったような気がする。
 ブレイドもずっと瘴気と戦ってたんだよね。いつから、どうして、竜の事とかいっぱい知りたい事があったのに。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...