上 下
90 / 97
後編

好きと大好き

しおりを挟む
 思い出した。あの時の男だ。でも、今さら何の用だろ? スマホは見つかったのよね?

「それで、私に何か用ですか?」
「あ、その、――。髪型変わったんですね」
「何……、当て付けを言いたかったの? 別に言われたから変えたわけじゃないし……」

 私の顔が不機嫌に変わったせいだろう。目の前の男は、言おうかどうしようか悩んでいるみたい。
 アルテを探さなきゃいけないのに、ありがとうも言ったしもう行ってもいいよね。やっぱり、家の近くにいた方がいいかな? はやく戻らなきゃ。もしすれ違ってしまったら、嫌だ。だから、これ以上他の人に時間をとられたくない。

「もう行ってもいい? 私、探さなきゃいけない人がいるの。約束してるから」

 そう言って、歩きだそうとすると、腕を掴まれた。あれ、でも痛くない。すごく軽く、掴んでる?

「俺…………、絶対に負けられないヤツが現れたから、ソイツに持っていかれる前に、急がないとなんだ」
「え――?」

 そのセリフ、聞いたばかりの言葉。

「アイツに負けたくない。俺だけど俺じゃない。アイツには――」
「あの……」
「佐々木絵理奈さん」
「はいっ」

 フルネームで呼ばれ、返事をしてしまう。

「俺もエリナって呼んでもいいですか!」
「え? 意味がわかりません」

 悲しそうに眉をさげる真面目君。

「うぅ、そろそろわかって……。すぐに会いに行くから、待ってろ」
「え……? えぇ?!」
「月城大輔です。ゲーム名はアルテ――」
「?!?!?!」

 キャラ違わない? 喋り方も違いすぎだし、それに――。
 頭の中で、またたくさんの私が必死に彼とアルテを繋げようとするがエラーばかり。だって、全然違う。あ、身長だけは似てるかもしれないけど……。そう、彼も大きい。まあ、アルテよりは低いのかな?

「やっぱり、俺では、アイツに勝てないですよね」
「ちょっとまって、私、私は!」

 そっと握られていた手を離されたので、私は掴み返す。

「私はアルテを外見で好きになったわけじゃないんだから!」

 途端、赤くなる月城さんアルテ

「だけど、その、まだ混乱してて……」

 だって、イメチェンどころの話じゃないよ? 見た目も感じも本当に別人だもの。

「それに、その……、私むこうでアルテに好きだって言えてなかったし……、だからアルテが、す――、好きかどうか聞けてないし」

 そこまで言って、両手をぎゅっと握られた。

「俺、好きです。エリナが。大好きです」

 握られた両手と頬と耳が熱くなる。

「あの日から、エリナの事忘れられなくて。ずっと、探してて――。きちんと謝りたかった。気持ちを伝えたかった。ただ、俺、こんなだし、出会い方最悪だったし、勇気が出なくて……。何度も何度も言いそびれて。でも、やっと言えた。エリナは? 俺じゃ駄目ですか?」
「ちょっと……言い方が、……ずるいよ。私は……」

 ぱっぱっと手をふって、両手を自由にする。そして、背伸びして、彼のほっぺたをぐにっとつねった。

「まずは、ナホを振った分」

 ぐいーっと伸ばす。

「私、まだ呼び捨てを許可してない分っ!」

 ぱっと手を離して、後ろを向いた。真っ赤な顔をこれ以上見られたくない。

「むこうではありがとうございました。月城さん。でも、知ってると思うけど、私はこんなだからさ、お嬢様でもない、美人でもない……」
「勘違いしないで欲しい。俺はエリナさんが好き。エリーナじゃない、リリーナでもない。あの日、見つけた、エリナさんが好きなんだ。俺と付き合って下さい」

 本当に、私でいいの?

「私、……エリナでいいよ。面倒なんでしょ。あとさ、教えてよ。私の知らないこといっぱい。まだ月城さんのこと私は、全然知らない」
「俺も、月城さんじゃなくて、……アルテでもなくて、ダイスケがいいな。話すよ。だから、俺の事知って欲しい。もう、俺の事全然知らないなんて言わなくなるぐらい」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

闇黒の悪役令嬢は溺愛される

葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。 今は二度目の人生だ。 十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。 記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。 前世の仲間と、冒険の日々を送ろう! 婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。 だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!? 悪役令嬢、溺愛物語。 ☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...