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第五草

33・二人目

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 ◆

 二回目の人生。オレは神聖術師になった。

 何度も何度も通った道を今日もまっすぐに進んでいく。
 彼女が治るまでオレはこの道を何度だって進む。前の人生では守れなかったから。次こそは大切な人を。

「リーゼ。こんにちは」

 部屋の扉を開ける。そこに彼女はいた。
 ある病のせいで、動けなくなった女の子。
 幼い頃から一緒に遊んでいた。大きくなり、一緒に冒険者パーティーを組んでいた。彼女は名を馳せたパーティーの主だった。オレの前の人生と同じ、剣士として――。

「今日は回復術と一緒に試して欲しい物を持ってきたんだ。ほら、これ。とても珍しい薬草」

 笑顔で話しかけても、彼女は無表情のまま。目だけが少し動くだけだった。

「オレ、美味しくしてみせるから。そうだな、うーん。肉に挟んで……、いや魚を煮て、一緒に煮汁に入れるか」

 草をそのまま食べさせるのは何か悪いような気がして、考える。だけど、これ調理すると苦味が増して食べにくくなるのだ。さあ、どうするか。

「とりあえず、いつもの回復術からしようか」

 オレは神に祈る。

「この者に癒しを、回復ヒール

 これだけでは回復しないのは、何度もしたからわかっている。何かが足りないのだ。
 剣の腕だけでは人を守れない。だから神聖術師になった。
 だけど、まだ足りない。また、守れないのか。

「……カイ、もういいよ」
「リーゼ! 今日は声出せるのか? 待ってて、今からこれを」
「……もういい。私はもう、……いいから」

 彼女はまぶたを閉じてオレに背を向けた。

 ◇

「治ったんだね! どれが効いたのかな。あの薬草かな、それとも……」

 リーゼは元気になった。どれが効いたのかわからない。けれど、確かに治ったのがわかる。顔色がよくなった。普通に立ち上がっている。
 ……彼女は何故か旅用の装束を着ていた。

「裏切り者!! 信じていたのに」

 その言葉を言い放ち、彼女は違うパーティーに行ってしまった。
 オレは組んでいたパーティーメンバーと合流し直した。彼女のいないここに意味なんてないのに。
 次に彼女に会ったのは、半年後だった。

 彼女は剣の鞘だけになってしまった。
 彼女のパーティーメンバーはたった一人になって戻ってきた。
 そいつはいなくなったメンバーを探したけれどどこを探しても見つからなかったと言った。
 それぞれの装備品がいくつか残っていただけだったそうだ。

 どうして、ついていかなかったのか。誤解をといて、一緒にいれば……。守ると決めたのに、また守れなかった。
 オレはパーティーを抜けて、彼女を探す旅に出た。
 メンバーが諦めろと言っていたが、聞こえないフリをした。

「カイっ!! 私達にはあなたの力が必要なの」

 そこに彼女はいない。オレが守ると決めたのは――。

『私、剣士になる。泣き虫なカイを守れるように』

 そう言って笑ってくれたリーゼだ。きみはどこに行ったんだ?

 ◆
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