上 下
7 / 42
第一章

第7話 つぶされるのは何?

しおりを挟む
 ゆっくりと呼吸を繰り返すミラの姿を見て、カナタのお父さんお母さんも涙を流していた。
 カナタのお母さんは、ミラの手を握っていた。眠ってるミラの手足、なんだか血色が良くなった気がする。

「ありがとう、えっと」
「父ちゃん、ハルカだ。この回復薬の持ち主」
「そうか、ハルカさん。ありがとう」
「あの、私、そんなお礼を言われるような事は」
「何を言うんだ。あんな高価な回復薬を」

 えっと、それ初めての調合で出来ただけだから。材料だってライムからもらったものだし。言いたいけど、話してもいいものかわからなくて口ごもる。

「父ちゃん、俺も怪我してハルカに助けてもらったんだ。ハルカ、帰る場所がないんだ。うちに住んでもらっていいか? 面倒は俺がみるから!」

 なんだか、拾われた犬の気持ちになりそうな台詞がカナタの口から飛び出す。

「え、そうなのか。ちょっと待てよ。オレだけじゃ決められねぇ。おい、スク」
「聞いてます。ウルズ。ミラにカナタまで救ってもらったのに追い出すなんて真似は絶対にしないですよね」
「……おう、決まりだな。部屋はカナタと同じでいいか?」
「ウルズ、その子女の子ですよ?」
「何? 髪が短いから男だと思ったが、ってあれ? お前さん耳と尻尾は……」

 ないと変に思われるのかな。耳は見せられるので髪をかきあげて見せる。

「ハルカさん、辛かったろう!!」

 途端、カナタのお父さん、ウルズさんが号泣を始めた。
 えっと、何?

「ハルカ、耳も尻尾も千切られちまったのか……。もしかしてそれを治したくて薬を……。それなのに俺達に」

 いやいやいや、これ、これで大丈夫なんだけど?
 あまりの号泣っぽりに若干引きつつ私は笑顔で顔を振る。すると、二人が余計に号泣した。

「ハルカさん、オレの息子でよけりゃいくらでも番いになってやってくれ」
「つがい?」
「父ちゃん、何言ってるんだよっ! ハルカ。俺絶対にお前を治してやるから。だから……、ずっとここにいろ」

 何だろう。すごい誤解が生まれてる気がするけど、一応今日はお家に泊まっても大丈夫なんだよね?

「お世話になります」

 ぺこりとお辞儀すると、カナタのお母さん、スクさんがミラの手をおいて、こちらに歩みよってきた。
 優しい顔がどこかお母さんを思い起こす。

「よろしくね、ハルカちゃん」

 ぎゅっと大きくて柔らかな体に包まれる。お日様みたいにぽかぽかした温かさとお母さんに似た匂いがして……。

「おか……ぁ……さん」

 お母さんの事を思い出したせいか、ホッとしたからか私までぼろぼろと涙をこぼし、大号泣隊の一員に加わってしまった。
 足下でライムとソラが慰めるように寄り添ってくれて、余計に涙が溢れてしまった。

「ごめんなさい、服が……」

 大号泣のせいで、濡れてしまったスクさんの服は着替えが済んでおり、新しくなっている。
 洗われた服は屋根近くに引っ掛けられ干されていた。
 大号泣組の服も全部並んでいる。
 私も着替えさせられていた。お尻のとこが開いていてスースーする。ここから尻尾がでているんだろうけれど……。

「ハルカちゃん用にお洋服用意しないとね」
「材料は任せとけ! オレが一式用意してくる」
「俺も!」
「あの、すみません。私もできるかぎり手伝いますので」

 少しでもはやく一人で生活出来るようにならないと。覚える事は多そうだ。
 本当の子どもじゃない私は、いつここから追い出されるかわからないもの。
 だから、それまでにいっぱいここの常識を覚えて、生活力をあげて、ミラ用の解毒薬を作れるようにならないとだ。

「恩人はそんな事気にせず――」

 ウルズさんの言葉を遮るようにスクさんが声を上げた。

「そうね、手伝ってもらえる事はお願いしましょう。よろしくね」
「はい!!」

 どうやら、スクさんの方が一枚上手のようだ。ウルズさんは「お、おぅ」と言って苦笑いを浮かべていた。仲良し夫婦の姿を見ると少しちくっとする。
 私が病気になってから、お父さんとお母さんは別々にお見舞いにくるようになった。
 二人揃っての笑顔を見る事がなくなってしまった。
 お家では仲良く出来てたのかな……。
 二人とも泣いてないといいなぁ。

「そうだ!! 部屋を用意したぞ!!」

 ウルズさんが布をめくり、見せてくれた。
 干し草の上に布をかけたたぶんベッドが二つ並んでいる。
 スパーンッとスクさんがウルズさんに一撃をいれた。

「だから、ハルカちゃんは女の子だって!」
「いやいや、今日は流石にもう遅い。部屋を増築したり掃除して空けたりするにしても眠たくなる時間だろ! なら、ここしかいい場所がないだろ!」
「ふぅ、そうね。ハルカちゃん、ここでも大丈夫?」
「はい、寝られる場所があるだけ助かります!」

 この台詞がウルズさんの涙腺を刺激してしまったのかまた号泣を始める。

「カナタ、あなたはそれでいい? ハルカちゃんの事守ってあげられる?」
「わかってる! ハルカは恩人だ。絶対に裏切らない」
「よし。もしハルカちゃんの嫌がる事をしたら、噛みつぶすからね?」

 スクさんがそれまで見せなかった歯を思いっきりむいた。
 こ、怖い。やっぱり親子だ。
 何を噛み潰されるんだろう。ウルズさんとカナタの二人は青い顔してぷるぷると首をふっていた。
 仲良しそうな家族。きっとミラもはやくこの中に戻ってきたいよね。私みたいに――。

「待っててね」

 自分では叶えられなかった、病気からの回復。でも、ミラは私が叶えてあげられるんだ。

『ハルカ、ライムも見張るから大丈夫』
『ソラもついてるモャ』
「うん、一緒に寝ようね」

 二人を抱き上げ、私は草のベッドに腰をおろし、ゆっくりと仰向けに倒れ込んだ。
 草と太陽の匂いがする。病院の薬と消毒薬の匂いがするベッドよりずっとずっといい匂いのそれは色々あってパンクしそうだった私の頭に心地よい眠気を運んでくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

魔物の装蹄師はモフモフに囲まれて暮らしたい ~捨てられた狼を育てたら最強のフェンリルに。それでも俺は甘やかします~

うみ
ファンタジー
 馬の装蹄師だった俺は火災事故から馬を救おうとして、命を落とした。  錬金術屋の息子として異世界に転生した俺は、「装蹄師」のスキルを授かる。  スキルを使えば、いつでもどこでも装蹄を作ることができたのだが……使い勝手が悪くお金も稼げないため、冒険者になった。  冒険者となった俺は、カメレオンに似たペットリザードと共に実家へ素材を納品しつつ、夢への資金をためていた。  俺の夢とは街の郊外に牧場を作り、動物や人に懐くモンスターに囲まれて暮らすこと。  ついに資金が集まる目途が立ち意気揚々と街へ向かっていた時、金髪のテイマーに蹴飛ばされ罵られた狼に似たモンスター「ワイルドウルフ」と出会う。  居ても立ってもいられなくなった俺は、金髪のテイマーからワイルドウルフを守り彼を新たな相棒に加える。  爪の欠けていたワイルドウルフのために装蹄師スキルで爪を作ったところ……途端にワイルドウルフが覚醒したんだ!  一週間の修行をするだけで、Eランクのワイルドウルフは最強のフェンリルにまで成長していたのだった。  でも、どれだけ獣魔が強くなろうが俺の夢は変わらない。  そう、モフモフたちに囲まれて暮らす牧場を作るんだ!

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...