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第一章
第5話 駆け引きって何?
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返してくれそうにない男の子と、怒ってるライムとソラの間で私は困っていた。
「なぁ、さっきからそいつらお前にくっついてるけど、もしかしてお前魔物使いか? お前の使役獣だったのか?」
「え? えっと」
男の子が不満げな顔をしながら聞いてきた。どういう意味で聞いてきたんだろう。魔物使いってあれだよね。ゲームで魔物を仲間にできる職業なんかの。
あ、でも答える前に――。
「私、お前じゃない。藤村遥って名前があるの」
「ふじ……?」
「名前、ハルカ!」
「ハル……カ……」
なんだか、たじろいでいる。もしかして、強気でいけばお話聞いてくれるのかな?
「あなたの名前は? 名前も知らないのに色々話す訳ないでしょ?」
「……カナタ。俺はカナタ」
「カナタ? ……カナタ」
聞いた通りに繰り返すと男の子、改めカナタはこくりと頷いた。
先生と同じ名前。だからかな、やっぱりこの人を放っておけない気がした。
話せばわかるヤツかもしれない。ライムとソラを傷つけたのは許せないけれど――。
カナタの目、先生と同じ誰かを助けたいって思ってる目だった。
「せんせ……カナタ。カナタはどうしてそれがいるの?」
「いや、俺が先に聞いて――。うー、俺の妹が病気で、薬がいるんだ。だから、これを俺にくれ。お願いだ。お前の使役獣を傷つけたのは悪かった!! ここにはえてるはずの薬草が全然見つけられなくて、そんな時スライムが草を食べるとこ見て……こいつらが全部食べてしまうんじゃないかって。それで……」
本気でお願いされてるのはなんとなくわかる。だけど――。
『ライム達じゃないラム! ライムは自分達で育てたのしか食べてないラム! 他の薬草全部とっていったのは、風狼族の獣人ラム』
『そうモャ……ソラ達じゃないモャ』
うーん。どっちも悪くないのよね。でも、やっぱり……。
「そいつらの言葉わかるのか? やっぱり魔物使いか。なんて言ってるんだ?」
あ、そうか。カナタには二人の言葉は届かないんだ。二人はカナタの言葉理解してるみたいだけど。
『ハイ、ハルカ』
そうそう、もふちゃんの声も。
私はソラとライムを抱き上げ、話しかける。
「ねぇ、あげてもいいかな」
「ほんとか!?」
カナタにはこの音量でも聞こえてしまうみたい。諦めて、普通の声量で話を続けた。
「私は目の前で大変な目にあってる人を助けたい。だって、それが私の夢だから。でも、二人の気持ちも大事にしたいの。だから、聞かせて? 二人はどうしたい?」
『……ソラは別にハルカがしたいなら反対しないモャ。ソラ、助けてもらってなかったら今頃命はなかったモャ。だから、この命はハルカのものモャ』
『――っ!? それはライムもラム……。なら、ライムの命もハルカのものラム。だから――』
ライムは体を伸ばし、カナタの持つ草だけを飲み込んだ。え、あれ? あげてもいいって話じゃ……。
「何するんだっ!?」
カナタが怒って立ち上がろうとしたけれど、前のめりに倒れた。足が折れてるのを忘れてたんだろう。
「クソッ!!」
睨まれるとかなり怖い。狼らしく犬歯がかなり大きくて、牙をむいてるみたい。
「ちょっと、ライム?」
『ハルカは大事な人ラム。だからハルカが渡してもいいって言うなら渡すラム。ただし、病気の妹の前で渡すって条件ラム』
「え、何で?」
『そうだね、モャ。嘘つきだったらどうするモャ。足を治して、薬草盗られて実は病気の妹は嘘でしたは嫌モャ』
『それに、また攻撃されたら困るラム』
「そ、そっか……」
何も考えてなかった。ライムとソラに言われて、その可能性もあることを知らされる。
ここは人の優しさや正しさは信じられない世界かもしれない。だって、オークや獣人、魔物が闊歩する世界だもの。
「わかった。うん。そうしよう。いいかな、ライム? ソラ?」
二人に確認して承諾を得ると私は牙を剥く彼の方に視線をやった。
やっぱり、少し怖い。
「ライムとソラが、薬草はあげるって」
「――っ!? ならっ!!」
「だけど、それは交換条件があるの」
「こ、交換条件?」
「そう、私達をあなたの住んでる、病気の妹さんのいるところに連れていって。ほんとかどうか確認したらライムから薬草出してあげる」
「……でも、この足じゃどれだけかかるか」
「それならっ」
痛いの痛いの飛んでいけーで治るよね、と思って口に出そうとしたらベチンとソラが腕から抜け出し頭突きしてきた。痛いんですけど。
『待つモャ!!』
『さっき作ったこれで治すラム』
ライムが作ったばかりの私お手製回復薬を口からだした。
『飲むでもかけても使えるラム』
「どうして?」
『説明はあとラム。絶対に回復魔法も調合も見せちゃ駄目ラム』
『ハルカの命がかかってるモャ』
「……えっ」
命がかかってると言われたら従うしかない。出してもらった回復薬をカナタの足にかける。どれくらいかければいいのかな。骨折だったらやっぱりいっぱいいるよね?
ぐぃっと傾けると、ドバっと半分くらいがかかってしまった。慌てて口を上にむけたけれど、やっぱり半分くらい減っていた。
「ハルカっ、待て、今のは――――」
カナタは覗き込もうと首を伸ばしたけれど、ライムが次の瞬間また回復薬を飲み込んでいた。
は、はやい。
「カナタ、治った?」
かけた足、びしょびしょになるかと思ったらもう乾きだしていた。気になってうずうずする。吸収されるのか、蒸発しちゃうのがはやいのか調べたいところだ。
「…………」
ひょいと立ち上がり屈伸したり、跳んだりして確かめている。すごい。回復薬! 怪我のあともきれいになっていた。
「大丈夫そうだね」
良かった良かったと笑顔で彼を見ると、また怒り顔をしている。眉間に皺、寄ってるよ?
もしかして、まだどこか痛いのかな。
「だ、大丈夫じゃなかった?」
「いや、そうじゃなくて……。回復薬めちゃくちゃ高いものなのに、使役獣を怪我させた俺にまで使わせてしまって……、ごめんなさい」
「えっ、え?」
突然しおらしく丁寧になった。耳も尻尾も眉毛まで下がりに下がっている。
何だ、これ。
『ハルカ、この国、今、回復って貴重なんだラム』
『やっぱり知らないモャ? 調合のスキル持ちはなかなか生まれない。だから回復薬はとっても貴重モャ』
『調合スキルもだけど回復魔法なんてもっと人前で使っちゃダメラム! 神様みたいな存在で』
『偉いところに連れて行かれて一生出てこれなくなるモャ!』
え、え? どういうこと?
私が首を傾げていると、もふちゃんが右肩の上に座った。そのままそっと耳打ちしてくる。
『ハイ、ハルカ。通称神の庭と呼ばれる場所に連れていかれ、多額の金と引き換えに治療を施す事になります。手厚い保護は受けられると思いますが、自由は――』
ないないない! 絶対にない!
そんなの私が目指すお医者さんじゃないっ!!
私が目指すのは先生みたいな優しいお医者さんなんだからっ!
隠さなきゃ。そんなところに連れて行かれたら――。
でもせっかくの回復魔法、使えないのってやだなぁ。
「俺、そんなお金なくて……。薬草いっぱい渡して作ってもらった大事な薬だったんだろ……。大事な人を治す為にだったんだろ……。なのに……使役獣怪我させた俺に、こんなに……」
う、うわぁぁぁぁ。どうしよう。カナタ、大粒の涙をこぼしてる。めちゃくちゃ泣き出しちゃった。どうしよう、どうしたら!?
うーん、うーんとそんなに賢くない頭を捻って考える。お母さんは、私が泣いた時どうしてたっけ。
手を伸ばし頭をいい子いい子と撫でてあげる。
コンデショナーとかしてないのかな。けっこうゴワゴワってしてた。
「な、な、何するんだよ」
真っ赤に彼が照れていたのが可愛い。私もつられて赤くなりながらなんとか笑顔を作った。お医者さんはいつだって笑顔でいないと、患者さんが不安になっちゃうもんね。
「大丈夫だよ。カナタ。先生だったらやっぱり、放ってなんておかなかったから、私はこれで良かったの」
真っ赤なカナタの顔がもっと真っ赤になってしまったのは、お日様の光のせいだったのかな。
「なぁ、さっきからそいつらお前にくっついてるけど、もしかしてお前魔物使いか? お前の使役獣だったのか?」
「え? えっと」
男の子が不満げな顔をしながら聞いてきた。どういう意味で聞いてきたんだろう。魔物使いってあれだよね。ゲームで魔物を仲間にできる職業なんかの。
あ、でも答える前に――。
「私、お前じゃない。藤村遥って名前があるの」
「ふじ……?」
「名前、ハルカ!」
「ハル……カ……」
なんだか、たじろいでいる。もしかして、強気でいけばお話聞いてくれるのかな?
「あなたの名前は? 名前も知らないのに色々話す訳ないでしょ?」
「……カナタ。俺はカナタ」
「カナタ? ……カナタ」
聞いた通りに繰り返すと男の子、改めカナタはこくりと頷いた。
先生と同じ名前。だからかな、やっぱりこの人を放っておけない気がした。
話せばわかるヤツかもしれない。ライムとソラを傷つけたのは許せないけれど――。
カナタの目、先生と同じ誰かを助けたいって思ってる目だった。
「せんせ……カナタ。カナタはどうしてそれがいるの?」
「いや、俺が先に聞いて――。うー、俺の妹が病気で、薬がいるんだ。だから、これを俺にくれ。お願いだ。お前の使役獣を傷つけたのは悪かった!! ここにはえてるはずの薬草が全然見つけられなくて、そんな時スライムが草を食べるとこ見て……こいつらが全部食べてしまうんじゃないかって。それで……」
本気でお願いされてるのはなんとなくわかる。だけど――。
『ライム達じゃないラム! ライムは自分達で育てたのしか食べてないラム! 他の薬草全部とっていったのは、風狼族の獣人ラム』
『そうモャ……ソラ達じゃないモャ』
うーん。どっちも悪くないのよね。でも、やっぱり……。
「そいつらの言葉わかるのか? やっぱり魔物使いか。なんて言ってるんだ?」
あ、そうか。カナタには二人の言葉は届かないんだ。二人はカナタの言葉理解してるみたいだけど。
『ハイ、ハルカ』
そうそう、もふちゃんの声も。
私はソラとライムを抱き上げ、話しかける。
「ねぇ、あげてもいいかな」
「ほんとか!?」
カナタにはこの音量でも聞こえてしまうみたい。諦めて、普通の声量で話を続けた。
「私は目の前で大変な目にあってる人を助けたい。だって、それが私の夢だから。でも、二人の気持ちも大事にしたいの。だから、聞かせて? 二人はどうしたい?」
『……ソラは別にハルカがしたいなら反対しないモャ。ソラ、助けてもらってなかったら今頃命はなかったモャ。だから、この命はハルカのものモャ』
『――っ!? それはライムもラム……。なら、ライムの命もハルカのものラム。だから――』
ライムは体を伸ばし、カナタの持つ草だけを飲み込んだ。え、あれ? あげてもいいって話じゃ……。
「何するんだっ!?」
カナタが怒って立ち上がろうとしたけれど、前のめりに倒れた。足が折れてるのを忘れてたんだろう。
「クソッ!!」
睨まれるとかなり怖い。狼らしく犬歯がかなり大きくて、牙をむいてるみたい。
「ちょっと、ライム?」
『ハルカは大事な人ラム。だからハルカが渡してもいいって言うなら渡すラム。ただし、病気の妹の前で渡すって条件ラム』
「え、何で?」
『そうだね、モャ。嘘つきだったらどうするモャ。足を治して、薬草盗られて実は病気の妹は嘘でしたは嫌モャ』
『それに、また攻撃されたら困るラム』
「そ、そっか……」
何も考えてなかった。ライムとソラに言われて、その可能性もあることを知らされる。
ここは人の優しさや正しさは信じられない世界かもしれない。だって、オークや獣人、魔物が闊歩する世界だもの。
「わかった。うん。そうしよう。いいかな、ライム? ソラ?」
二人に確認して承諾を得ると私は牙を剥く彼の方に視線をやった。
やっぱり、少し怖い。
「ライムとソラが、薬草はあげるって」
「――っ!? ならっ!!」
「だけど、それは交換条件があるの」
「こ、交換条件?」
「そう、私達をあなたの住んでる、病気の妹さんのいるところに連れていって。ほんとかどうか確認したらライムから薬草出してあげる」
「……でも、この足じゃどれだけかかるか」
「それならっ」
痛いの痛いの飛んでいけーで治るよね、と思って口に出そうとしたらベチンとソラが腕から抜け出し頭突きしてきた。痛いんですけど。
『待つモャ!!』
『さっき作ったこれで治すラム』
ライムが作ったばかりの私お手製回復薬を口からだした。
『飲むでもかけても使えるラム』
「どうして?」
『説明はあとラム。絶対に回復魔法も調合も見せちゃ駄目ラム』
『ハルカの命がかかってるモャ』
「……えっ」
命がかかってると言われたら従うしかない。出してもらった回復薬をカナタの足にかける。どれくらいかければいいのかな。骨折だったらやっぱりいっぱいいるよね?
ぐぃっと傾けると、ドバっと半分くらいがかかってしまった。慌てて口を上にむけたけれど、やっぱり半分くらい減っていた。
「ハルカっ、待て、今のは――――」
カナタは覗き込もうと首を伸ばしたけれど、ライムが次の瞬間また回復薬を飲み込んでいた。
は、はやい。
「カナタ、治った?」
かけた足、びしょびしょになるかと思ったらもう乾きだしていた。気になってうずうずする。吸収されるのか、蒸発しちゃうのがはやいのか調べたいところだ。
「…………」
ひょいと立ち上がり屈伸したり、跳んだりして確かめている。すごい。回復薬! 怪我のあともきれいになっていた。
「大丈夫そうだね」
良かった良かったと笑顔で彼を見ると、また怒り顔をしている。眉間に皺、寄ってるよ?
もしかして、まだどこか痛いのかな。
「だ、大丈夫じゃなかった?」
「いや、そうじゃなくて……。回復薬めちゃくちゃ高いものなのに、使役獣を怪我させた俺にまで使わせてしまって……、ごめんなさい」
「えっ、え?」
突然しおらしく丁寧になった。耳も尻尾も眉毛まで下がりに下がっている。
何だ、これ。
『ハルカ、この国、今、回復って貴重なんだラム』
『やっぱり知らないモャ? 調合のスキル持ちはなかなか生まれない。だから回復薬はとっても貴重モャ』
『調合スキルもだけど回復魔法なんてもっと人前で使っちゃダメラム! 神様みたいな存在で』
『偉いところに連れて行かれて一生出てこれなくなるモャ!』
え、え? どういうこと?
私が首を傾げていると、もふちゃんが右肩の上に座った。そのままそっと耳打ちしてくる。
『ハイ、ハルカ。通称神の庭と呼ばれる場所に連れていかれ、多額の金と引き換えに治療を施す事になります。手厚い保護は受けられると思いますが、自由は――』
ないないない! 絶対にない!
そんなの私が目指すお医者さんじゃないっ!!
私が目指すのは先生みたいな優しいお医者さんなんだからっ!
隠さなきゃ。そんなところに連れて行かれたら――。
でもせっかくの回復魔法、使えないのってやだなぁ。
「俺、そんなお金なくて……。薬草いっぱい渡して作ってもらった大事な薬だったんだろ……。大事な人を治す為にだったんだろ……。なのに……使役獣怪我させた俺に、こんなに……」
う、うわぁぁぁぁ。どうしよう。カナタ、大粒の涙をこぼしてる。めちゃくちゃ泣き出しちゃった。どうしよう、どうしたら!?
うーん、うーんとそんなに賢くない頭を捻って考える。お母さんは、私が泣いた時どうしてたっけ。
手を伸ばし頭をいい子いい子と撫でてあげる。
コンデショナーとかしてないのかな。けっこうゴワゴワってしてた。
「な、な、何するんだよ」
真っ赤に彼が照れていたのが可愛い。私もつられて赤くなりながらなんとか笑顔を作った。お医者さんはいつだって笑顔でいないと、患者さんが不安になっちゃうもんね。
「大丈夫だよ。カナタ。先生だったらやっぱり、放ってなんておかなかったから、私はこれで良かったの」
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