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第四章
魔王復活と四人の英傑
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魔王復活の翌日。アルベルトの体を借りたヴィルヘルムは、エルトリアにつれられ玉座の間へと向かっていた。アデルとエーミールは二人の後ろを追っていく。部屋に向かっている途中、エルナバス、ベルタ、カミルに出会った。カミルはヴィルヘルムに近寄る。そんなカミルを見て、
「何だこのガキは? まとわりつくな、鬱陶しい。今すぐ吾輩から離れろ」と告げる。カミルは優しい兄の豹変に戸惑い動くことが出来ない。
それを見たヴィルヘルムは大きく溜息を吐き、
「おい貴様、聞こえなかったのか? 離れろと言ったのだ。もし動けないのなら、吾輩が一生動けない体にしてやってもいいのだぞ?」
ベルタはカミルを引き離しその場から足早に去っていく。エルナバスも二人を追いかけた。
城を出ても尚、ベルタは無心に走り続ける。息子が話しかけていることにも気付かずに。「お母様!」と叫んだところでようやくベルタは息子の呼びかけに気付いた。
「ごめんなさいカミルちゃん。気付かなかったわ。どうかしたの?」
「お兄様は? お兄様はまだ城にいる! お兄様も一緒に逃げなくちゃ!」
城の方へと戻ろうとするカミルに
「待ちなさいカミル。アルのあの変わりようを見ただろう? 何があったのかは分からないが、今戻るのは危険だよ」とエルナバスがカミルの手を取り止める。
「そうよ。エルナバスの言う通りだわ。あの子はもう貴方の知る兄じゃないの」
「でも……」
「でもじゃないわ。頭のいい貴方なら分かるでしょう? 今やるべきことが」
そう諭すと、ベルタは無理矢理カミルの腕を引っ張り再び走り出した。
ベルタとエルナバスはとにかく帝都から遠く離れた所に逃げようとひたすらに走っていると、ある小さい村に辿り着いた。そこは帝都ほどには及ばないものの、数多くの住宅が集まっている。露店も所々に並んでいた。アルベルトが元に戻るまでとりあえずここで暮らそうと考えているところにエルナバスは見覚えのある二人の女を見つけた。エルナバスはトントンとその二人の女の肩を叩き、
「お前達、もしやミラダとマリンではないか? 確かミラダの介抱の為長閑な村へ行くと言っていたが、随分と元気そうだな?」と声をかけた。
ミラダとマリンは、帝国王家に仕えるリーデンベルク姉弟の祖母と母である。二人は体の不自由なミラダの為に小さい村に居住を移すと言っていた。設備が揃っているんだから城から出て行かなくてもいいじゃないかと提案しても、姉弟の長女、エルトリアがこれを断った。というのも、ミラダとマリンが村に居住を移すのは祖母の介抱の為ではなく、来たる魔王復活に備えてだからだ。まだ王国が誕生していなかった時代、何よりも民のことを考えていた魔王ヴィルヘルムが帝国の民に危害を加えることはないだろうと思っていたが、万が一に備えてということだった。
「エルナバス様、申し訳ありません。ですが、これは我が娘エルトリアにこうするよう言われたのです」
ミラダとマリンは叩頭し、アルベルトが魔王復活の器に選ばれたことなどを説明した。三人共理解が追いつかないというような顔をしていたが、
「つまり、わたし達が今朝見たのはアルではなく魔王だということか? アルはどうなる? 元に戻るんだろうな?」とエルナバスが口を開く。
マリンが答えようとしたが、ミラダが制する。
「それについてはわしから話そう。女神アイリーンのことは知っておるな?」というミラダの問いに、
「ええ、知っているわ。確か、アイリーンが魔王様を殺したのよね?」とベルタが答える。
「そうじゃ。いくら魔王様といえど女神の聖なる光には敵わなかったようじゃな。そこでじゃ、女神の力を使えばアルベルト様の体からヴィルヘルム様の魂を引き離すことが出来る。じゃが、一つ問題があるのじゃ」
言いにくそうにしているミラダを見て、マリンが引き継ぐ。
「一度器として使われたアルベルト様のお体は、もう保たないと思います。つまり、引き離した後に待っているのはアルベルト様の死かと……」
マリンの言葉を聞くと、エルナバスとカミルは泣き出した。ベルタも肩を震わせている。だが、その震えは二人のそれとは違うようだった。
「ベルタ……。お前……」
「お母様? どうしてお兄様が大変な時に笑っているの?」
「え? あたし、今笑っているかしら?」
一方その頃、ヴァルト城、玉座の間。
ヴィルヘルムは、玉座に深く座っている。そして、エルトリアを手招きをして呼び寄せた。
「なあエルトリア、この城中の兵士達を集めてここにつれてきてくれ」
「ヴィルヘルム様! とうとう始めるのですね! さあ、アデル。何をぼさっとしているのです? 行きますよ」
エルトリアに誘われたアデルは、共に玉座の間から出て行った。部屋にはアルベルトの姿をしたヴィルヘルムと、エーミールの二人だけ。
ヴィルヘルムは再び手招きをし、エーミールを呼び寄せる。すると、近づいたエーミールの腕をぐいっと引っ張り、彼を床に押し倒した。ヴィルヘルムはエーミールの上に跨り、片手でエーミールの首を掴んだ。だが、当然力は入れておらず首を絞めるフリだ。
「ちょっと……ヴィルヘルム様……急に何するんです?」
「このアルベルトという青年の体に宿ってから、アルベルトの生涯の記憶が見えるようになってな。お前、アルベルトのことが幼少の頃から好きだったんだろう? それなのに、お前の気持ちは受け入れてくれなくて、よりによって王国の魔道士なんかと関係を持って。可哀想な奴だなお前は。だが今は違う。アルベルトの全てはお前のものだ。これを望んでいたんだろう?」
ヴィルヘルムは首を掴んでいた手を離しエーミールの口元に持っていくと、唇を人差し指でなぞる。たまに指を口の中に入れて遊んでみたりする。エーミールはその妖艶な指使いに少し感じてきているようだった。
「んっ……。ヴィル……ヘルム様……。やめてください……」
口の中から指を抜くと、一筋の銀糸が伸びていた。ヴィルヘルムはエーミールの顔を見下ろして悪戯に笑う。
「お前は分かり易い反応をするな。どうだ? そろそろ苦しいんじゃないか? 吾輩が今楽にしてやろう」
そう言うと、ボタンを外し胸元をはだけさせる。
「意外と子供みたいな体だな。もっと筋肉がほしいところだが。まだアルベルトの方がいい体をしている。まあいい、吾輩はお前を楽にするという使命を果たさねばな」
ヴィルヘルムはまず最初に首筋を舐め、そこから徐々に舐める部位を下げていく。そして腹まできたところでエーミールは乳首が弱いと知ったヴィルヘルムは爪と舌先の両方で乳首を刺激していく。その快感に腰を動かし始めたエーミールは、顔を真っ赤にし更に息遣いも荒くなっていた。
「お前はここを弄っただけで感じてしまうのか。可愛い奴だ。一回イッてみるか?」
「いいんですか? 早く出したい……。このままだと快感でおかしくなってしまいそうです」
「だが、今のこの状況を姉達に見られたらどうなるかな」
エーミールは涙目のまま目を丸くした。
「心配するな。エルトリアとアデルには吾輩が良しと言うまでは戻ってくるなと催眠をかけておいた。フン、催眠など吾輩には容易い」
そう言われ安心したエーミールは、ヴィルヘルムに執拗に乳首を弄られ絶頂に達した。エーミールのズボンには染みが付いている。
「なかなかいい反応だった。吾輩も楽しめたぞ。さて、そろそろエルトリア達の催眠を解こうか」
「ちょっと待ってください。出したばかりで体力が回復してないんですが」
「知るか。それより服がはだけたままだぞ? 早くしろ。あいつらが帰ってきてしまう」
意地悪く言うヴィルヘルムを横目にエーミールはボタンを留め始める。力が上手く入らなかったが、何とか留め終えたエーミールは床に座り込んだ。
ヴィルヘルムは「面白い反応のいいおもちゃを見つけた」と小声で呟いたが、これはエーミールには聞こえていなかった。
丁度部屋の扉が開き、エルトリア、アデルと城中の兵士が入ってきた。皆、皇帝からの頼みとあってどこか誇らしげな顔をしている。エルトリアは姉達にズボンに付いた染みを見られない様にと床に座り込んでいるエーミールを見つめる。
「ヴィルヘルム様の御前ですよ。座り込んで、失礼ではありませんか? ……何ですその目は? それが姉への態度ですか?」
まだ体力が回復していないエーミールはエルトリアを見上げた時に、睨みつけているような目つきになってしまったらしい。答えようとしたが、上手く喋れないエーミールに代わってヴィルヘルムが答えた。
「悪いな。あいつは色々疲れているようだから、座らせてあげてくれないか?」
「そうですか。それよりヴィルヘルム様! 城中の兵士達を連れて参りました!」
エーミールに冷たく吐き捨てると今度はパッと顔を輝かせてヴィルヘルムに向き直り一礼する。その態度の変わり様にアデルは少し驚いていたが、彼女もすぐにヴィルヘルムに一礼する。
「よくやったエルトリア、アデル。これで王国進軍の準備は整った。後は吾輩に任せてくれ」
兵士達に向かい呪文を唱えると、今までの活気に満ちていた表情はどこへやら、彼らから生気は感じられなく、中身が空っぽになったようだった。
「これからお前らは吾輩の傀儡だ。吾輩の命令は絶対。クリミナへと出向き、今すぐにクロードを殺すのだ。滅ぶ国に王など不要だからな。その暁には帝国統一が果たされる。良いか? 失敗は許されぬぞ」
王、殺ス。帝国ト王国全土ハヴィルヘルム様ノ物。兵士達はブツブツと呟き、雄叫びを上げた。その声は耳を劈くようだった。
ヴィルヘルムはクリミナに行きクロードを殺せと言った。だが、王都までは歩けば二日かかる。いくら魔王の命令といえど今すぐには実行出来ない。果たしてどうしようと言うのか。すると、まるでアデルの心を読んだかのようにヴィルヘルムが答えた。
「心配するなアデル。吾輩は魔王だぞ? 転移魔法を使えばいい」
再び兵士達に向かい呪文を唱える。すると兵士達の周りを光が包み込み部屋中に閃光が走りエルトリア達は目を覆う。だがその光は一瞬で消え目を覆っていた手をどかすとそこにいたはずの兵士達はもういなかった。
「これがヴィルヘルム様の力。素晴らしい。これで王国など……」
言い終えない内にエルトリアはその場に座り込んでしまう。全身から一気に力が抜けたような、そんな感じだ。アデルはしゃがみ、エルトリアの背中を声をかけながらさする。「もう大丈夫です」と言ってはいたが、その声は聞き取りづらくとても大丈夫なようには見えなかった。
「ヴィルヘルム様、申し訳ありません。姉上の体調が優れないので部屋に戻らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。こっちのことは気にするな。吾輩の身の回りの世話はエーミールに任せる」
突然名前を呼ばれたエーミールは驚いていた。エルトリアも同様だった。
「待ってください。わたしは本当に大丈夫です。だから、ずっと貴方様の隣にいさせて……」
「姉上、強がらないで。もう一人では立てないぐらいになってるじゃない。ゆっくり休んで元気な姿をヴィルヘルム様にお見せしましょう? ね?」
部屋に留まろうとするエルトリアをアデルは力ずくで引っ張っていく。その様子を見て笑っているヴィルヘルムをエーミールは見逃さなかった。
「どうしたんですか? 何か面白いことでも?」
「いや別に。ただ、あいつの魔力は素晴らしい。この世に復活してすぐ魔法が使えるようになるとは」
「まさか姉上が急に倒れたのは貴方様が原因?」
「そういうことになるな。ところで、身の回りの世話をお前に任せると言った件、あれは本当だぞ? よろしくな」
「はい。貴方様のお側にいれること、光栄に思います」
そして、その日からヴィルヘルムとエーミールは常に一緒に行動していた。昼は勿論のこと、夜の世話も彼の仕事だった。ヴィルヘルムはたまに部屋にエーミールを呼びつけては優しく愛撫したり強い刺激を与えて彼の反応を楽しんだ。彼の中ではエーミールはよく鳴き面白い反応をするおもちゃという認識に過ぎなかった。が、そんなことはつゆ知らずただ単に求められていると思っているエーミールは今日も彼の腕の中で鳴くのであった。
一方その頃、クリミナ王国。クリミナ城、執務室。
帝国で魔王が復活したことなど知るはずもなく、今日も城ではオスカーとユージーンの喧嘩をクロードが宥めていた。魔王が復活した帝国とは正反対に、王国は今日も平和である。
「帝国も楽しかったけど、やっぱりお前達の喧嘩を見なくちゃ生きた感じがしないよ。俺の日々の楽しみの一つだ」
「俺達の喧嘩を娯楽代わりにするな」「僕達の喧嘩を娯楽代わりにしないでください」
二人の言葉が被ると、また喧嘩を始める。俺の真似をするな、貴様こそ。だが、この平和な時間はすぐに終わりを告げる。息を切らしながら部屋に入ってきた兵士によって。
「クロード様!」
バタンと扉が勢いよく開いたと思うと、入ってきたのは息を切らした血だらけの一人の兵士。ユージーンが手当てをしようと駆け寄ろうとしたが、オスカーがそれを止める。残念だが、この兵士はもう助からない。
「お逃げください! 帝国の……」
言い切ることも出来ず、兵士は後ろから斬りつけられ倒れる。後ろには、帝国の鎧を身に纏った兵士が立っていた。だが何かが可笑しい。この兵士からは生気が感じられないのだ。まるで心を奪われ誰かに操られているような。帝国兵はうつろな目でクロードを見つけると、奇声を上げて斬りかかろうとした。これにはユージーンが即座に反応し帝国兵の心臓を一突きにする。
「ユージーン、なかなかやるじゃないか。初めて会った時とは別人みたいだ」
笑いながら言うオスカーの言葉でユージーンの脳裏に浮かび上がるあの時の光景。そう、あれはクリーチャーに遭遇した時のこと。オスカーの言う通り、あの時は脚が動かずクロードを護ることが出来なかったが、今は違う。
「うるさいな。確かにあの時は情けないところを見せてしまったが。僕はクロード様を護る盾なんだ。貴様もクロード様を護ることに集中しろ」
「ああ、そうだな。クロードを殺されたらこの国は王を失う」
「失ッテイインダ……。コノ国ハ滅ビル。全テハヴィルヘルム様ノモノ」
帝国兵がまた執務室に入ってくる。これはオスカーが黒魔法を使い倒した。
「ここは危険だ。早く城から出る」
オスカーはクロードの手を引っ張り、ユージーンはそれに続いた。一回に続く階段まで行くと、三人は目を疑う。何故なら、階段と一階には生気を失くした帝国兵がウジャウジャといたからだ。王国兵は何とか抵抗しているが、状況は劣勢。大半が命を落としてしまっている。帝国兵はクロード目掛けて攻撃を仕掛けてくる。後ろではユージーンが、前ではオスカーが戦っていたが、クロードの護衛が手薄になった時一人の帝国兵が近づく。
「しまった……! クロード様!」
ユージーンが近寄ろうとした時、クロードは懐から短剣を取り出し帝国兵に突き刺した。急所は外したが、確かに突き刺さった感触はあった。だが、体勢を立て直しまた襲いかかる。
「何だこいつ。痛みを感じないのか?」
オスカーは黒魔法で倒しながらクロードを自分の元へと引き寄せる。ユージーンはそれを見てイライラしていたが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「こいつらの顔を見るに、誰かに強力な魔力で操られている。もう人間じゃないのかもしれんな。それに、この人数は流石に俺達だけじゃ無理だ。遠くまで逃げる」
三人は無心で城の入り口まで走り続けた。入り口まで辿り着くのに数え切れないほどの帝国兵と戦った。
そして入り口まで来たところで
「んふふ。こんな死地を無傷で切り抜けるなんて、坊や達意外とやるじゃない。ゾクゾクしますわ」と女の声がした。
三人の前に姿を現した女は、金の甲冑に身を包んでいる。美しい桃色の髪は可愛らしく編み込まれている。顔色は他の帝国兵と同じく灰色がかった色をしていたが、違う点を挙げるとすればこの女は完全に操られている兵士に比べてまだ自我が残っているところだ。
「あら、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたわね。あたしはヴェンデルガルト=フォルクヴァルツ。ヴィルヘルム様によって新たな力を授かりましたの」
「ヴィルヘルム? まさか、魔王が復活したのか?」
「そう、魔王は復活し再び帝国が世を統一することを望んでおられます。そしてあたしは絶望の中ヴィルヘルム様に助けられました。あたしはそんなヴィルヘルム様の力になりたいのです。もう何が言いたいか分かりますわよね? 理不尽かもしれないけれど、ヴィルヘルム様の為に死んでくださる?」
ヴェンデルガルトは微笑みながら告げる。
「ご存知でしょうか? 男ってのはダメージが大きいほど性的魅力が上がるらしいですわ。坊や達皆いい男ですので、傷が増えたらどれだけセクシーになるのでしょうか。考えただけで興奮してしまいますわ」と顔を赤らめながら舌なめずりをする。
「それが君の最期の台詞ってことでいいか?」
「ユージーン! 早くこいつを倒すぞ! 親玉を倒せば城中の帝国兵は動きを止めるはずだ!」
「それは分からないが、今はその望みに賭けてみるしかないな! 全力で行く!」
「ああん。積極的な坊や達。嫌いじゃないわ。でも残念ね、ここで死ぬのは貴方達よ」
オスカーとユージーンはヴェンデルガルトに向かって走り出す。それを彼女は余裕の表情で見ていた。ユージーンの刃がヴェンデルガルトの脳天を捉え振り下ろそうとした時、彼女の周りに闇のバリアのようなものが張られ、ユージーンの攻撃は跳ね返され後方へと吹き飛ばされてしまった。オスカーは黒魔法で応戦するが、これもバリアのようなもので跳ね返される。魔法が弾き返され、真正面から喰らってしまった。口から血を吐き出しているオスカーを見て彼女は興奮している。彼女は倒れているユージーンに近寄り、
「男前な剣士さん、そのままでも充分魅力的ですけれど、こうすればもっといい男になりますわよ」とユージーンの脇腹に剣を突き刺す。ユージーンの断末魔にヴェンデルガルトはコロコロと笑いながら見ていた。そしてトドメを刺そうとした時、クロードはこれを短剣で受け止めた。予想外の出来事にヴェンデルガルトは目を丸くさせる。
「あら王様、貴方先程まで護ってもらってばかりでしたのに、そんな力を隠していたのですね」
「とっておきは最後まで残しておくってよく言うからね。それに、こいつらは俺の護衛であると共に大事な王国の民なんだ。そんな民をみすみす死なせる様じゃ国の長失格だよ。まあ、多くの兵士を死なせておいて偉そうに言うなって話なんだけど。それじゃ、俺達は力をつけてまた戻ってくるよ。このまま続けてたら俺達は負けるしね」
ユージーンを背中に担ぎ、オスカーを脇に抱えて城から出ようとするクロードに
「逃げるつもりですの?」と挑発する。
「お前から見たらそうかもしれないね。でも完全に逃げるわけじゃない。必ずここに帰ってくる。それまではこの城を好きに使ってくれても構わないが、最後には返してもらうよ」
クロードはそう言い捨て出て行った。
「長失格ね……。あの時は両腕を拘束されていましたけれど、民達を見殺しにしてしまったのには変わりはない。あたしは女王失格ですわね」
時を同じくして、ヴァルト城、アルベルトの私室。
ベッドの中で、エーミールはヴィルヘルムの腕の中で抱かれていた。
「なあエーミール、お前はヴェンデルガルト=フォルクヴァルツという女を知っているか?」
「姉上から聞いたことがあります。確か、ルーグの里に住む不老不死の一族の女王だったかと。ですがあの里は滅ぼされたはず。ただ、誰が滅ぼしたかというのは教えてくれないんです。ヴィルヘルム様は何かご存知なんですか?」
「なんでもない。お前は何も知らなくていい。人生、知らなくていいこともある」
ヴィルヘルムはエーミールの頭、そして顔を優しく撫でる。その優しくいやらしい手つきにエーミールは声を漏らした。自分の声を恥ずかしく感じてしまったエーミールは逸らそうとする。
「そんなことより、こんなことしてていいんですか? まだ日は落ちていませんよ?」
「まあそう言うな。夜まで待てないのだ。お前もそうなんだろう? 先程から硬いモノが当たっている」
そう言うと、彼の下半身に手を伸ばし勃ちあがった男の象徴を愛撫し始める。先端から溢れている汁をぬるぬると塗りたくるように。その手つきにまたしてもエーミールは声を漏らしてしまう。それどころか、今度はビクンビクンと体を痙攣させていた。
「お前は本当に可愛い反応をする。今日は中に入れてもいいだろう?」
「やめっ……。それはおやめくださいっ!」
「本当に言っているのか? 下はもうガチガチだが? 顔は欲しそうな顔をしているぞ」
「ですがっ……。んっ」
言い終わらないうちに、ヴィルヘルムはエーミールを貫いていた。エーミールはそんなヴィルヘルムに何か訴えかけているが、それも虚しく彼にはもうどんな言葉も届かない。涙目になっているエーミールを他所にヴィルヘルムは何度も奥を突く。激しく体をくねらせるエーミールは、意識が朦朧としながらも今日は気が済むまで離してもらえないんだろうなと悟っていた。
舞台は戻りクリミナ王国、平原。
オスカーは自分の放った魔法をヴェンデルガルトのバリアで弾き返され真正面から喰らっていたが、命に関わるような傷ではなかった為なんとか自力で歩いていた。ここで心配すべきはユージーンだ。後方へ吹き飛ばされたうえに脇腹を刺され大量出血。今は意識を失っている様だが、死んではいない。あれで生きていることは奇跡と言えよう。
クロードはそんなユージーンを背中に担ぎ、ひたすらにまっすぐ歩き続ける。もうどこに向かうかは決まっているかのように。歩いている先はオスカーの生まれ故郷、ラディン村があるカルディナ地方だった。
「ラディン村に何か用があるのか?」
オスカーがクロードに問う。
「正確にはカルディナ地方の向こう側にあるマナ地方にね。お前はアルバン神殿の話を聞いたことはないか?」
「少しな。だが、その神殿については見つからなかったと聞いたが」
「見つからなかったというか、見つけられなかった。いや、辿り着くことが出来なかったと言うべきかな」
「意味が分からん。分かるように説明しろ」
イライラしだすオスカーをはいはい、と受け流す。
「今アイリーン様は神殿で英気を養っている。そのアイリーン様と神殿を守るよう俺の父はラディン村のある夫婦に頼んだんだ。マナ地方へ行こうとする人間がいたらクリーチャーで追い払う様にと。もう分かるだろう? 君の家族、ランゲージ夫婦だ。恵まれた魔力を持っていたからその役に選ばれたらしいよ」
「そうか。それより一つ聞きたいことがある。初めて会った時ガルシアを見てビビっていたが、お前の父からクリーチャーのことを聞いていたんじゃないのか?」
「聞いたことはあるけど見たことはなかったんだ。だからびっくりしちゃったよ」
「そうか。早く行くぞ」
「自分から聞いておいて酷くないか?」
クロードとオスカーは黙々と歩き続ける。暫く歩いていると、遠くの方に小屋が見えた。かつてオスカーが住んでいた小屋だ。
小屋に着き、中に入る。中は荒らされたままで床には乾いた血溜まりが広がっていた。当時の残酷さを思い起こさせる。
「ここで何かあったのか?」
「その神殿とやらを探しに来た男に殺されたんだ。その男はクリーチャーに殺されたがな」
「そんなことが……。すまない」
「別にお前が謝ることじゃない。それに、両親は勅命を誇りを持って全うしていた。お前の父のことも恨んでないだろうよ」
「ありがとう。そう言われるとなんか救われた気がするよ」
「お前の何を救ったのかは知らんが、急いだ方がいい。そいつが危ない」
オスカーはクロードの背中に担がれているユージーンを指さす。彼はまだ意識を失ったままだった。
「そうだな。急ごう」
小屋を通り過ぎ暫く歩いていると、大きな岩山に囲われた緑が美しい場所に出た。王国は全体的に緑が豊かだが、この場所はより一層美しかった。この一帯だけ別の世界のように見える。周りを見てみると、泉がありその周りでは無数の動物達が水を飲んでいる。その中央に聳え立つ巨大な木の周りにも、泉と同様に動物達が木の実を食べていた。そして、いやでも目に入る神秘的な建物。あれが女神が住むと言われているアルバン神殿だろう。
「驚いた。まさか村の向こう側にこんな綺麗な場所があったとはな」
「見惚れちゃう気持ちは分かるけど、今はそんな時間はないよ。魔王を倒したら皆でピクニックでもしようよ。さ、急ごう」
二人は神殿の入り口に立つ。オスカーが開けようと扉に手を伸ばすと、何かに反応したように扉が自動的に開いた。驚きながらも神殿内部に進む。すると、内部はまるで人が一日も欠かさず手入れをしていたかのように綺麗な内装だった。だが、人の気配はない。本当にここに女神がいるのだろうか。
「おいクロード、確か女神はこの神殿で英気を養っていると言っていたな? 本当にいるのか? もう死んだんじゃないか?」
そんなことを言うオスカーの後ろをクロードは指さす。
「何だ。後ろに何かあるのか?」とオスカーが振り向くと、後ろにはオスカーと同じ碧い髪、碧い瞳をした美しい女が立っていた。
「確かにわらわは永い間眠りに就いておったが、今はこうして生きておる。それとも何か? 信じ難いと言うのなら、試してみるか?」
女はそう言うと、オスカーの腕を掴み自身の胸に押し当てた。オスカーの手には女の柔らかな胸の感触が広がる。
「お前……! 急に何するんだ、この破廉恥女!」
オスカーは女の手を振り解くと、女はコロコロと笑う。
「そなたのその反応、ジーナスにそっくりじゃ。ジーナスもそなた同様クールな奴じゃが、そういうことには疎くてな。揶揄うと顔を真っ赤にして照れていたもんじゃ」
「神のそんな話聞きたくなかったなあ。ところでアイリーン様、こいつを助けていただけませんか?」
「流石王様。わらわの正体に気付いておったか。では、その人間をこちらへ」
アイリーンと呼ばれた女はクロードの背中からユージーンを受け取ると、床に寝かせた。そして、詠唱を始めユージーンに手を翳す。するとどうだろうか。ユージーンの体に刻まれた無数の傷は消え去り、ゆっくりと目を開けた。ついでに……、とオスカーにも同様の動きをする。するとこちらも傷が消え去り体力も元に戻っていた。
「クロード様、僕は確か気を失っていたはずです。傷もたくさん……。これは? それに、貴女は?」
ユージーンが見上げると、女はニコニコと笑っていた。そして、女は軽く息を吐き、左胸に手を当てる。
「では、改めて自己紹介をするとしようかの。わらわはアイリーン。かつて聖戦で魔王ヴィルヘルムを討った。じゃが、その魔王は復活してしまった。それでわらわに助けを請いに来たのじゃろう?」
「その通りです。女神様なら何か知っているのではないかと」
「なるほどのう。そなたらは四人の英傑と神々の神器は知っておるか?」
三人は一斉に知らないという顔をする。この三人の表情にアイリーンは呆れながらもまたコロコロと笑う。
「魔王を封印するには四人の英傑の力と神々の力を宿した神器が必要なのじゃ。まず、英傑とはわらわ以外の四人の神の力を授かり神器を扱うことの出来る者のことじゃ。そして、そなたらは英傑に会ったことがある」
「そんな凄い力を秘めた人達、一目で分かりそうだけど、見覚えがないな」
クロードは考え込む。
「そりゃそうじゃ。今の時点では全員覚醒してないんじゃからのう。まあ、名前を言えば分かるじゃろう。まずはパミラの力を授かるサザンクロス。次にダリルの力を授かるカルマ。そしてレティシアの力を授かるヴァレンティン。最後にジーナスの力を授かるエルロンド。エルロンドとはクロード、そなたのことじゃ」
「クロード様が英傑? やはりクロード様は特別な力をお持ちだったのですね!」
「そんなに持ち上げないでくれ。こそばゆい」
クロードとユージーンがふざけ合っていると、
「そんな遊んでいる暇があるのか? 早く英傑を探し出さなければ王国は帝国の犬と成り果ててしまうぞ」とアイリーンが口を挟む。
「確かにそうだな。悪かったよ。でも、その他の名前に心当たりがないんだが?」
「俺の幼馴染のゼルダの苗字はサザンクロスだ。ゼルダ=サザンクロス」
「クロード様、僕にも思い当たる人物が一人います。クロード様の代わりに仕事をしている時に城にフォティアという少女が来たんです。確かフォティア=セシル=ヴァレンティンと名乗っていたかと」
「本当か? ここまでで俺を含めて三人の英傑が絞れたわけだな。カルマのことは何か知らないか?」
ユージーンは険しい顔をして何とか思い出そうとしているが、流石の彼でも思い出せないようだった。それを見ていたアイリーンは溜め息を吐く。
「カルマはエイベル地方のラーゴ村におる。早く探しに行かぬか」
「分かったよ。じゃあ、まずはここから近いラディン村に住むゼルダちゃんの所に行こうか」
「そうだな」
「分かりました!」
こうして、クロード、ユージーン、オスカーの英傑探しの旅が始まった。
「何だこのガキは? まとわりつくな、鬱陶しい。今すぐ吾輩から離れろ」と告げる。カミルは優しい兄の豹変に戸惑い動くことが出来ない。
それを見たヴィルヘルムは大きく溜息を吐き、
「おい貴様、聞こえなかったのか? 離れろと言ったのだ。もし動けないのなら、吾輩が一生動けない体にしてやってもいいのだぞ?」
ベルタはカミルを引き離しその場から足早に去っていく。エルナバスも二人を追いかけた。
城を出ても尚、ベルタは無心に走り続ける。息子が話しかけていることにも気付かずに。「お母様!」と叫んだところでようやくベルタは息子の呼びかけに気付いた。
「ごめんなさいカミルちゃん。気付かなかったわ。どうかしたの?」
「お兄様は? お兄様はまだ城にいる! お兄様も一緒に逃げなくちゃ!」
城の方へと戻ろうとするカミルに
「待ちなさいカミル。アルのあの変わりようを見ただろう? 何があったのかは分からないが、今戻るのは危険だよ」とエルナバスがカミルの手を取り止める。
「そうよ。エルナバスの言う通りだわ。あの子はもう貴方の知る兄じゃないの」
「でも……」
「でもじゃないわ。頭のいい貴方なら分かるでしょう? 今やるべきことが」
そう諭すと、ベルタは無理矢理カミルの腕を引っ張り再び走り出した。
ベルタとエルナバスはとにかく帝都から遠く離れた所に逃げようとひたすらに走っていると、ある小さい村に辿り着いた。そこは帝都ほどには及ばないものの、数多くの住宅が集まっている。露店も所々に並んでいた。アルベルトが元に戻るまでとりあえずここで暮らそうと考えているところにエルナバスは見覚えのある二人の女を見つけた。エルナバスはトントンとその二人の女の肩を叩き、
「お前達、もしやミラダとマリンではないか? 確かミラダの介抱の為長閑な村へ行くと言っていたが、随分と元気そうだな?」と声をかけた。
ミラダとマリンは、帝国王家に仕えるリーデンベルク姉弟の祖母と母である。二人は体の不自由なミラダの為に小さい村に居住を移すと言っていた。設備が揃っているんだから城から出て行かなくてもいいじゃないかと提案しても、姉弟の長女、エルトリアがこれを断った。というのも、ミラダとマリンが村に居住を移すのは祖母の介抱の為ではなく、来たる魔王復活に備えてだからだ。まだ王国が誕生していなかった時代、何よりも民のことを考えていた魔王ヴィルヘルムが帝国の民に危害を加えることはないだろうと思っていたが、万が一に備えてということだった。
「エルナバス様、申し訳ありません。ですが、これは我が娘エルトリアにこうするよう言われたのです」
ミラダとマリンは叩頭し、アルベルトが魔王復活の器に選ばれたことなどを説明した。三人共理解が追いつかないというような顔をしていたが、
「つまり、わたし達が今朝見たのはアルではなく魔王だということか? アルはどうなる? 元に戻るんだろうな?」とエルナバスが口を開く。
マリンが答えようとしたが、ミラダが制する。
「それについてはわしから話そう。女神アイリーンのことは知っておるな?」というミラダの問いに、
「ええ、知っているわ。確か、アイリーンが魔王様を殺したのよね?」とベルタが答える。
「そうじゃ。いくら魔王様といえど女神の聖なる光には敵わなかったようじゃな。そこでじゃ、女神の力を使えばアルベルト様の体からヴィルヘルム様の魂を引き離すことが出来る。じゃが、一つ問題があるのじゃ」
言いにくそうにしているミラダを見て、マリンが引き継ぐ。
「一度器として使われたアルベルト様のお体は、もう保たないと思います。つまり、引き離した後に待っているのはアルベルト様の死かと……」
マリンの言葉を聞くと、エルナバスとカミルは泣き出した。ベルタも肩を震わせている。だが、その震えは二人のそれとは違うようだった。
「ベルタ……。お前……」
「お母様? どうしてお兄様が大変な時に笑っているの?」
「え? あたし、今笑っているかしら?」
一方その頃、ヴァルト城、玉座の間。
ヴィルヘルムは、玉座に深く座っている。そして、エルトリアを手招きをして呼び寄せた。
「なあエルトリア、この城中の兵士達を集めてここにつれてきてくれ」
「ヴィルヘルム様! とうとう始めるのですね! さあ、アデル。何をぼさっとしているのです? 行きますよ」
エルトリアに誘われたアデルは、共に玉座の間から出て行った。部屋にはアルベルトの姿をしたヴィルヘルムと、エーミールの二人だけ。
ヴィルヘルムは再び手招きをし、エーミールを呼び寄せる。すると、近づいたエーミールの腕をぐいっと引っ張り、彼を床に押し倒した。ヴィルヘルムはエーミールの上に跨り、片手でエーミールの首を掴んだ。だが、当然力は入れておらず首を絞めるフリだ。
「ちょっと……ヴィルヘルム様……急に何するんです?」
「このアルベルトという青年の体に宿ってから、アルベルトの生涯の記憶が見えるようになってな。お前、アルベルトのことが幼少の頃から好きだったんだろう? それなのに、お前の気持ちは受け入れてくれなくて、よりによって王国の魔道士なんかと関係を持って。可哀想な奴だなお前は。だが今は違う。アルベルトの全てはお前のものだ。これを望んでいたんだろう?」
ヴィルヘルムは首を掴んでいた手を離しエーミールの口元に持っていくと、唇を人差し指でなぞる。たまに指を口の中に入れて遊んでみたりする。エーミールはその妖艶な指使いに少し感じてきているようだった。
「んっ……。ヴィル……ヘルム様……。やめてください……」
口の中から指を抜くと、一筋の銀糸が伸びていた。ヴィルヘルムはエーミールの顔を見下ろして悪戯に笑う。
「お前は分かり易い反応をするな。どうだ? そろそろ苦しいんじゃないか? 吾輩が今楽にしてやろう」
そう言うと、ボタンを外し胸元をはだけさせる。
「意外と子供みたいな体だな。もっと筋肉がほしいところだが。まだアルベルトの方がいい体をしている。まあいい、吾輩はお前を楽にするという使命を果たさねばな」
ヴィルヘルムはまず最初に首筋を舐め、そこから徐々に舐める部位を下げていく。そして腹まできたところでエーミールは乳首が弱いと知ったヴィルヘルムは爪と舌先の両方で乳首を刺激していく。その快感に腰を動かし始めたエーミールは、顔を真っ赤にし更に息遣いも荒くなっていた。
「お前はここを弄っただけで感じてしまうのか。可愛い奴だ。一回イッてみるか?」
「いいんですか? 早く出したい……。このままだと快感でおかしくなってしまいそうです」
「だが、今のこの状況を姉達に見られたらどうなるかな」
エーミールは涙目のまま目を丸くした。
「心配するな。エルトリアとアデルには吾輩が良しと言うまでは戻ってくるなと催眠をかけておいた。フン、催眠など吾輩には容易い」
そう言われ安心したエーミールは、ヴィルヘルムに執拗に乳首を弄られ絶頂に達した。エーミールのズボンには染みが付いている。
「なかなかいい反応だった。吾輩も楽しめたぞ。さて、そろそろエルトリア達の催眠を解こうか」
「ちょっと待ってください。出したばかりで体力が回復してないんですが」
「知るか。それより服がはだけたままだぞ? 早くしろ。あいつらが帰ってきてしまう」
意地悪く言うヴィルヘルムを横目にエーミールはボタンを留め始める。力が上手く入らなかったが、何とか留め終えたエーミールは床に座り込んだ。
ヴィルヘルムは「面白い反応のいいおもちゃを見つけた」と小声で呟いたが、これはエーミールには聞こえていなかった。
丁度部屋の扉が開き、エルトリア、アデルと城中の兵士が入ってきた。皆、皇帝からの頼みとあってどこか誇らしげな顔をしている。エルトリアは姉達にズボンに付いた染みを見られない様にと床に座り込んでいるエーミールを見つめる。
「ヴィルヘルム様の御前ですよ。座り込んで、失礼ではありませんか? ……何ですその目は? それが姉への態度ですか?」
まだ体力が回復していないエーミールはエルトリアを見上げた時に、睨みつけているような目つきになってしまったらしい。答えようとしたが、上手く喋れないエーミールに代わってヴィルヘルムが答えた。
「悪いな。あいつは色々疲れているようだから、座らせてあげてくれないか?」
「そうですか。それよりヴィルヘルム様! 城中の兵士達を連れて参りました!」
エーミールに冷たく吐き捨てると今度はパッと顔を輝かせてヴィルヘルムに向き直り一礼する。その態度の変わり様にアデルは少し驚いていたが、彼女もすぐにヴィルヘルムに一礼する。
「よくやったエルトリア、アデル。これで王国進軍の準備は整った。後は吾輩に任せてくれ」
兵士達に向かい呪文を唱えると、今までの活気に満ちていた表情はどこへやら、彼らから生気は感じられなく、中身が空っぽになったようだった。
「これからお前らは吾輩の傀儡だ。吾輩の命令は絶対。クリミナへと出向き、今すぐにクロードを殺すのだ。滅ぶ国に王など不要だからな。その暁には帝国統一が果たされる。良いか? 失敗は許されぬぞ」
王、殺ス。帝国ト王国全土ハヴィルヘルム様ノ物。兵士達はブツブツと呟き、雄叫びを上げた。その声は耳を劈くようだった。
ヴィルヘルムはクリミナに行きクロードを殺せと言った。だが、王都までは歩けば二日かかる。いくら魔王の命令といえど今すぐには実行出来ない。果たしてどうしようと言うのか。すると、まるでアデルの心を読んだかのようにヴィルヘルムが答えた。
「心配するなアデル。吾輩は魔王だぞ? 転移魔法を使えばいい」
再び兵士達に向かい呪文を唱える。すると兵士達の周りを光が包み込み部屋中に閃光が走りエルトリア達は目を覆う。だがその光は一瞬で消え目を覆っていた手をどかすとそこにいたはずの兵士達はもういなかった。
「これがヴィルヘルム様の力。素晴らしい。これで王国など……」
言い終えない内にエルトリアはその場に座り込んでしまう。全身から一気に力が抜けたような、そんな感じだ。アデルはしゃがみ、エルトリアの背中を声をかけながらさする。「もう大丈夫です」と言ってはいたが、その声は聞き取りづらくとても大丈夫なようには見えなかった。
「ヴィルヘルム様、申し訳ありません。姉上の体調が優れないので部屋に戻らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。こっちのことは気にするな。吾輩の身の回りの世話はエーミールに任せる」
突然名前を呼ばれたエーミールは驚いていた。エルトリアも同様だった。
「待ってください。わたしは本当に大丈夫です。だから、ずっと貴方様の隣にいさせて……」
「姉上、強がらないで。もう一人では立てないぐらいになってるじゃない。ゆっくり休んで元気な姿をヴィルヘルム様にお見せしましょう? ね?」
部屋に留まろうとするエルトリアをアデルは力ずくで引っ張っていく。その様子を見て笑っているヴィルヘルムをエーミールは見逃さなかった。
「どうしたんですか? 何か面白いことでも?」
「いや別に。ただ、あいつの魔力は素晴らしい。この世に復活してすぐ魔法が使えるようになるとは」
「まさか姉上が急に倒れたのは貴方様が原因?」
「そういうことになるな。ところで、身の回りの世話をお前に任せると言った件、あれは本当だぞ? よろしくな」
「はい。貴方様のお側にいれること、光栄に思います」
そして、その日からヴィルヘルムとエーミールは常に一緒に行動していた。昼は勿論のこと、夜の世話も彼の仕事だった。ヴィルヘルムはたまに部屋にエーミールを呼びつけては優しく愛撫したり強い刺激を与えて彼の反応を楽しんだ。彼の中ではエーミールはよく鳴き面白い反応をするおもちゃという認識に過ぎなかった。が、そんなことはつゆ知らずただ単に求められていると思っているエーミールは今日も彼の腕の中で鳴くのであった。
一方その頃、クリミナ王国。クリミナ城、執務室。
帝国で魔王が復活したことなど知るはずもなく、今日も城ではオスカーとユージーンの喧嘩をクロードが宥めていた。魔王が復活した帝国とは正反対に、王国は今日も平和である。
「帝国も楽しかったけど、やっぱりお前達の喧嘩を見なくちゃ生きた感じがしないよ。俺の日々の楽しみの一つだ」
「俺達の喧嘩を娯楽代わりにするな」「僕達の喧嘩を娯楽代わりにしないでください」
二人の言葉が被ると、また喧嘩を始める。俺の真似をするな、貴様こそ。だが、この平和な時間はすぐに終わりを告げる。息を切らしながら部屋に入ってきた兵士によって。
「クロード様!」
バタンと扉が勢いよく開いたと思うと、入ってきたのは息を切らした血だらけの一人の兵士。ユージーンが手当てをしようと駆け寄ろうとしたが、オスカーがそれを止める。残念だが、この兵士はもう助からない。
「お逃げください! 帝国の……」
言い切ることも出来ず、兵士は後ろから斬りつけられ倒れる。後ろには、帝国の鎧を身に纏った兵士が立っていた。だが何かが可笑しい。この兵士からは生気が感じられないのだ。まるで心を奪われ誰かに操られているような。帝国兵はうつろな目でクロードを見つけると、奇声を上げて斬りかかろうとした。これにはユージーンが即座に反応し帝国兵の心臓を一突きにする。
「ユージーン、なかなかやるじゃないか。初めて会った時とは別人みたいだ」
笑いながら言うオスカーの言葉でユージーンの脳裏に浮かび上がるあの時の光景。そう、あれはクリーチャーに遭遇した時のこと。オスカーの言う通り、あの時は脚が動かずクロードを護ることが出来なかったが、今は違う。
「うるさいな。確かにあの時は情けないところを見せてしまったが。僕はクロード様を護る盾なんだ。貴様もクロード様を護ることに集中しろ」
「ああ、そうだな。クロードを殺されたらこの国は王を失う」
「失ッテイインダ……。コノ国ハ滅ビル。全テハヴィルヘルム様ノモノ」
帝国兵がまた執務室に入ってくる。これはオスカーが黒魔法を使い倒した。
「ここは危険だ。早く城から出る」
オスカーはクロードの手を引っ張り、ユージーンはそれに続いた。一回に続く階段まで行くと、三人は目を疑う。何故なら、階段と一階には生気を失くした帝国兵がウジャウジャといたからだ。王国兵は何とか抵抗しているが、状況は劣勢。大半が命を落としてしまっている。帝国兵はクロード目掛けて攻撃を仕掛けてくる。後ろではユージーンが、前ではオスカーが戦っていたが、クロードの護衛が手薄になった時一人の帝国兵が近づく。
「しまった……! クロード様!」
ユージーンが近寄ろうとした時、クロードは懐から短剣を取り出し帝国兵に突き刺した。急所は外したが、確かに突き刺さった感触はあった。だが、体勢を立て直しまた襲いかかる。
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オスカーは黒魔法で倒しながらクロードを自分の元へと引き寄せる。ユージーンはそれを見てイライラしていたが、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「こいつらの顔を見るに、誰かに強力な魔力で操られている。もう人間じゃないのかもしれんな。それに、この人数は流石に俺達だけじゃ無理だ。遠くまで逃げる」
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「男前な剣士さん、そのままでも充分魅力的ですけれど、こうすればもっといい男になりますわよ」とユージーンの脇腹に剣を突き刺す。ユージーンの断末魔にヴェンデルガルトはコロコロと笑いながら見ていた。そしてトドメを刺そうとした時、クロードはこれを短剣で受け止めた。予想外の出来事にヴェンデルガルトは目を丸くさせる。
「あら王様、貴方先程まで護ってもらってばかりでしたのに、そんな力を隠していたのですね」
「とっておきは最後まで残しておくってよく言うからね。それに、こいつらは俺の護衛であると共に大事な王国の民なんだ。そんな民をみすみす死なせる様じゃ国の長失格だよ。まあ、多くの兵士を死なせておいて偉そうに言うなって話なんだけど。それじゃ、俺達は力をつけてまた戻ってくるよ。このまま続けてたら俺達は負けるしね」
ユージーンを背中に担ぎ、オスカーを脇に抱えて城から出ようとするクロードに
「逃げるつもりですの?」と挑発する。
「お前から見たらそうかもしれないね。でも完全に逃げるわけじゃない。必ずここに帰ってくる。それまではこの城を好きに使ってくれても構わないが、最後には返してもらうよ」
クロードはそう言い捨て出て行った。
「長失格ね……。あの時は両腕を拘束されていましたけれど、民達を見殺しにしてしまったのには変わりはない。あたしは女王失格ですわね」
時を同じくして、ヴァルト城、アルベルトの私室。
ベッドの中で、エーミールはヴィルヘルムの腕の中で抱かれていた。
「なあエーミール、お前はヴェンデルガルト=フォルクヴァルツという女を知っているか?」
「姉上から聞いたことがあります。確か、ルーグの里に住む不老不死の一族の女王だったかと。ですがあの里は滅ぼされたはず。ただ、誰が滅ぼしたかというのは教えてくれないんです。ヴィルヘルム様は何かご存知なんですか?」
「なんでもない。お前は何も知らなくていい。人生、知らなくていいこともある」
ヴィルヘルムはエーミールの頭、そして顔を優しく撫でる。その優しくいやらしい手つきにエーミールは声を漏らした。自分の声を恥ずかしく感じてしまったエーミールは逸らそうとする。
「そんなことより、こんなことしてていいんですか? まだ日は落ちていませんよ?」
「まあそう言うな。夜まで待てないのだ。お前もそうなんだろう? 先程から硬いモノが当たっている」
そう言うと、彼の下半身に手を伸ばし勃ちあがった男の象徴を愛撫し始める。先端から溢れている汁をぬるぬると塗りたくるように。その手つきにまたしてもエーミールは声を漏らしてしまう。それどころか、今度はビクンビクンと体を痙攣させていた。
「お前は本当に可愛い反応をする。今日は中に入れてもいいだろう?」
「やめっ……。それはおやめくださいっ!」
「本当に言っているのか? 下はもうガチガチだが? 顔は欲しそうな顔をしているぞ」
「ですがっ……。んっ」
言い終わらないうちに、ヴィルヘルムはエーミールを貫いていた。エーミールはそんなヴィルヘルムに何か訴えかけているが、それも虚しく彼にはもうどんな言葉も届かない。涙目になっているエーミールを他所にヴィルヘルムは何度も奥を突く。激しく体をくねらせるエーミールは、意識が朦朧としながらも今日は気が済むまで離してもらえないんだろうなと悟っていた。
舞台は戻りクリミナ王国、平原。
オスカーは自分の放った魔法をヴェンデルガルトのバリアで弾き返され真正面から喰らっていたが、命に関わるような傷ではなかった為なんとか自力で歩いていた。ここで心配すべきはユージーンだ。後方へ吹き飛ばされたうえに脇腹を刺され大量出血。今は意識を失っている様だが、死んではいない。あれで生きていることは奇跡と言えよう。
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「ラディン村に何か用があるのか?」
オスカーがクロードに問う。
「正確にはカルディナ地方の向こう側にあるマナ地方にね。お前はアルバン神殿の話を聞いたことはないか?」
「少しな。だが、その神殿については見つからなかったと聞いたが」
「見つからなかったというか、見つけられなかった。いや、辿り着くことが出来なかったと言うべきかな」
「意味が分からん。分かるように説明しろ」
イライラしだすオスカーをはいはい、と受け流す。
「今アイリーン様は神殿で英気を養っている。そのアイリーン様と神殿を守るよう俺の父はラディン村のある夫婦に頼んだんだ。マナ地方へ行こうとする人間がいたらクリーチャーで追い払う様にと。もう分かるだろう? 君の家族、ランゲージ夫婦だ。恵まれた魔力を持っていたからその役に選ばれたらしいよ」
「そうか。それより一つ聞きたいことがある。初めて会った時ガルシアを見てビビっていたが、お前の父からクリーチャーのことを聞いていたんじゃないのか?」
「聞いたことはあるけど見たことはなかったんだ。だからびっくりしちゃったよ」
「そうか。早く行くぞ」
「自分から聞いておいて酷くないか?」
クロードとオスカーは黙々と歩き続ける。暫く歩いていると、遠くの方に小屋が見えた。かつてオスカーが住んでいた小屋だ。
小屋に着き、中に入る。中は荒らされたままで床には乾いた血溜まりが広がっていた。当時の残酷さを思い起こさせる。
「ここで何かあったのか?」
「その神殿とやらを探しに来た男に殺されたんだ。その男はクリーチャーに殺されたがな」
「そんなことが……。すまない」
「別にお前が謝ることじゃない。それに、両親は勅命を誇りを持って全うしていた。お前の父のことも恨んでないだろうよ」
「ありがとう。そう言われるとなんか救われた気がするよ」
「お前の何を救ったのかは知らんが、急いだ方がいい。そいつが危ない」
オスカーはクロードの背中に担がれているユージーンを指さす。彼はまだ意識を失ったままだった。
「そうだな。急ごう」
小屋を通り過ぎ暫く歩いていると、大きな岩山に囲われた緑が美しい場所に出た。王国は全体的に緑が豊かだが、この場所はより一層美しかった。この一帯だけ別の世界のように見える。周りを見てみると、泉がありその周りでは無数の動物達が水を飲んでいる。その中央に聳え立つ巨大な木の周りにも、泉と同様に動物達が木の実を食べていた。そして、いやでも目に入る神秘的な建物。あれが女神が住むと言われているアルバン神殿だろう。
「驚いた。まさか村の向こう側にこんな綺麗な場所があったとはな」
「見惚れちゃう気持ちは分かるけど、今はそんな時間はないよ。魔王を倒したら皆でピクニックでもしようよ。さ、急ごう」
二人は神殿の入り口に立つ。オスカーが開けようと扉に手を伸ばすと、何かに反応したように扉が自動的に開いた。驚きながらも神殿内部に進む。すると、内部はまるで人が一日も欠かさず手入れをしていたかのように綺麗な内装だった。だが、人の気配はない。本当にここに女神がいるのだろうか。
「おいクロード、確か女神はこの神殿で英気を養っていると言っていたな? 本当にいるのか? もう死んだんじゃないか?」
そんなことを言うオスカーの後ろをクロードは指さす。
「何だ。後ろに何かあるのか?」とオスカーが振り向くと、後ろにはオスカーと同じ碧い髪、碧い瞳をした美しい女が立っていた。
「確かにわらわは永い間眠りに就いておったが、今はこうして生きておる。それとも何か? 信じ難いと言うのなら、試してみるか?」
女はそう言うと、オスカーの腕を掴み自身の胸に押し当てた。オスカーの手には女の柔らかな胸の感触が広がる。
「お前……! 急に何するんだ、この破廉恥女!」
オスカーは女の手を振り解くと、女はコロコロと笑う。
「そなたのその反応、ジーナスにそっくりじゃ。ジーナスもそなた同様クールな奴じゃが、そういうことには疎くてな。揶揄うと顔を真っ赤にして照れていたもんじゃ」
「神のそんな話聞きたくなかったなあ。ところでアイリーン様、こいつを助けていただけませんか?」
「流石王様。わらわの正体に気付いておったか。では、その人間をこちらへ」
アイリーンと呼ばれた女はクロードの背中からユージーンを受け取ると、床に寝かせた。そして、詠唱を始めユージーンに手を翳す。するとどうだろうか。ユージーンの体に刻まれた無数の傷は消え去り、ゆっくりと目を開けた。ついでに……、とオスカーにも同様の動きをする。するとこちらも傷が消え去り体力も元に戻っていた。
「クロード様、僕は確か気を失っていたはずです。傷もたくさん……。これは? それに、貴女は?」
ユージーンが見上げると、女はニコニコと笑っていた。そして、女は軽く息を吐き、左胸に手を当てる。
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「その通りです。女神様なら何か知っているのではないかと」
「なるほどのう。そなたらは四人の英傑と神々の神器は知っておるか?」
三人は一斉に知らないという顔をする。この三人の表情にアイリーンは呆れながらもまたコロコロと笑う。
「魔王を封印するには四人の英傑の力と神々の力を宿した神器が必要なのじゃ。まず、英傑とはわらわ以外の四人の神の力を授かり神器を扱うことの出来る者のことじゃ。そして、そなたらは英傑に会ったことがある」
「そんな凄い力を秘めた人達、一目で分かりそうだけど、見覚えがないな」
クロードは考え込む。
「そりゃそうじゃ。今の時点では全員覚醒してないんじゃからのう。まあ、名前を言えば分かるじゃろう。まずはパミラの力を授かるサザンクロス。次にダリルの力を授かるカルマ。そしてレティシアの力を授かるヴァレンティン。最後にジーナスの力を授かるエルロンド。エルロンドとはクロード、そなたのことじゃ」
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「本当か? ここまでで俺を含めて三人の英傑が絞れたわけだな。カルマのことは何か知らないか?」
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「カルマはエイベル地方のラーゴ村におる。早く探しに行かぬか」
「分かったよ。じゃあ、まずはここから近いラディン村に住むゼルダちゃんの所に行こうか」
「そうだな」
「分かりました!」
こうして、クロード、ユージーン、オスカーの英傑探しの旅が始まった。
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