6 / 86
6
しおりを挟む
「そんなに深刻にとらえなくていいわよ」
だって、ねぇ。あんた、鳩が豆鉄砲食らったあと猫に追いかけ回された、みたいな悲壮な顔されちゃうとねぇ。
ひらひらと手を振る。まぁ、無理か。こいつは私が昔壊れてたことを知っているから。
「でも」
「でも、も何にもないのよ。ただ、あんたはそうもいかないか」
まぁ、私も、知らぬ人が自分と同じ目に遭ったなら、哀れむかもしれないけれどね。
「場所変えようか。あー、それだと、私のアパートしかないわよね」
裕貴がヒュッ、と息を呑む。いや、さっきまでの流れだとそういう話だけど、そうじゃないのよ。
「あんたと私で事実認識の差があるみたいだから、擦り合わせよ。場所は私が提供するから、あんたは食料負担してね」
「食料って…」
「そりゃ、ねぇ?」
口の端をあげて、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて見せる。
「女の子に全部おごらせる男なんてモテないわよ、童貞君?少なくとも、あんたのビッチ姫は、嫌いそうだわ」
「…」
あぁ面白い。やっぱあんたは振り回しがいがあるわ。あんたは間抜けにポカンとしてる方が似合うわよ。深刻な顔なんて、似合わない。笑ってなさい。
私は、裕貴の間抜け顔をつまみに、からからと笑い続けた。
『夕方六時に、私の城に集合』
そう連絡して、私は自宅に戻った。
さあ、この私の生活空間にやつは耐えられるかな?笑いが止まらない。ここは私の私的空間、つまり趣味がこれでもかと詰まった沼地だ。ここに人を招くのは、姉さん以来だなぁ。私の姉、私の神。葵姉さんは、いつも私を理解してくれた。汚れた私を嫌わず、
「むしろかなちゃんに陰がさしてむしろミステリアス!魅力的!」
と、手放しで誉めてくれたのだ。
幼い頃に性的被害を受け、腫れ物のように扱う大人たちとは対照的に、姉さんは
「あんなものであなたの魅力は損なわれるような柔なものじゃないわ」
と、私を柔らかく抱き締めながら、私が落ち着くまで、私の素晴らしさとやらをひたすら教えてくれたのだ。
姉さんがいたから、私は壊れきらずにすんだ。
姉さんは、1度も、私を哀れまなかったし、否定もしなかった。
「ダイヤモンドは、磨けば磨くほど美しくなるの」
「かなちゃんの可能性は無限大よ!」
よくもまぁ、あんなに歯の浮きそうな台詞を毎回毎回言えるものだと思ったものだ。姉さんはどっかのTL小説からの転生者じゃないのかしら、と真面目に悩んだこともあった。
まあ一応、本棚を隠す布はいつも用意してるし、問題はない、はず。フィギュアとかグッズには私は興味がない。妄想は脳内のみで行うのが私のポリシーだ。本棚は所謂私の知識庫、もしくは素材程度。美味しく料理していただくのは私の脳内でと決めている。
腐海に沈んだのは、確かにあの事が原因の一端だったけど、何度も何度もあいつを仕返しのつもりで酷い目に脳内で遭わせまくってたら、ある日突然つまらなくなった。おそらく、恨みが昇華されてしまったのだろう。まあ、昇華されるまで五年くらいはあいつを脳内でいたぶりつづけたから、飽きたのかもしれないけど。素材として飽きた。
だから、あの男にたいしては、もうはてしなく『どうでもいい』境地だった。
そして、もうひとつ。
「やっぱその話はすべきだよなぁ…」
沼地の中心、円形ラグのうえでぼんやりしていると、インターホンがなった。
「おでましか~」
さて、あいつの選んだ食料は私の好みに合うかねぇ?まさか、酒なんてもってこないわよね?一応まだ私ら未成年なんだからねぇ。
気が利いたものは用意できるかな、あいつは。
だって、ねぇ。あんた、鳩が豆鉄砲食らったあと猫に追いかけ回された、みたいな悲壮な顔されちゃうとねぇ。
ひらひらと手を振る。まぁ、無理か。こいつは私が昔壊れてたことを知っているから。
「でも」
「でも、も何にもないのよ。ただ、あんたはそうもいかないか」
まぁ、私も、知らぬ人が自分と同じ目に遭ったなら、哀れむかもしれないけれどね。
「場所変えようか。あー、それだと、私のアパートしかないわよね」
裕貴がヒュッ、と息を呑む。いや、さっきまでの流れだとそういう話だけど、そうじゃないのよ。
「あんたと私で事実認識の差があるみたいだから、擦り合わせよ。場所は私が提供するから、あんたは食料負担してね」
「食料って…」
「そりゃ、ねぇ?」
口の端をあげて、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべて見せる。
「女の子に全部おごらせる男なんてモテないわよ、童貞君?少なくとも、あんたのビッチ姫は、嫌いそうだわ」
「…」
あぁ面白い。やっぱあんたは振り回しがいがあるわ。あんたは間抜けにポカンとしてる方が似合うわよ。深刻な顔なんて、似合わない。笑ってなさい。
私は、裕貴の間抜け顔をつまみに、からからと笑い続けた。
『夕方六時に、私の城に集合』
そう連絡して、私は自宅に戻った。
さあ、この私の生活空間にやつは耐えられるかな?笑いが止まらない。ここは私の私的空間、つまり趣味がこれでもかと詰まった沼地だ。ここに人を招くのは、姉さん以来だなぁ。私の姉、私の神。葵姉さんは、いつも私を理解してくれた。汚れた私を嫌わず、
「むしろかなちゃんに陰がさしてむしろミステリアス!魅力的!」
と、手放しで誉めてくれたのだ。
幼い頃に性的被害を受け、腫れ物のように扱う大人たちとは対照的に、姉さんは
「あんなものであなたの魅力は損なわれるような柔なものじゃないわ」
と、私を柔らかく抱き締めながら、私が落ち着くまで、私の素晴らしさとやらをひたすら教えてくれたのだ。
姉さんがいたから、私は壊れきらずにすんだ。
姉さんは、1度も、私を哀れまなかったし、否定もしなかった。
「ダイヤモンドは、磨けば磨くほど美しくなるの」
「かなちゃんの可能性は無限大よ!」
よくもまぁ、あんなに歯の浮きそうな台詞を毎回毎回言えるものだと思ったものだ。姉さんはどっかのTL小説からの転生者じゃないのかしら、と真面目に悩んだこともあった。
まあ一応、本棚を隠す布はいつも用意してるし、問題はない、はず。フィギュアとかグッズには私は興味がない。妄想は脳内のみで行うのが私のポリシーだ。本棚は所謂私の知識庫、もしくは素材程度。美味しく料理していただくのは私の脳内でと決めている。
腐海に沈んだのは、確かにあの事が原因の一端だったけど、何度も何度もあいつを仕返しのつもりで酷い目に脳内で遭わせまくってたら、ある日突然つまらなくなった。おそらく、恨みが昇華されてしまったのだろう。まあ、昇華されるまで五年くらいはあいつを脳内でいたぶりつづけたから、飽きたのかもしれないけど。素材として飽きた。
だから、あの男にたいしては、もうはてしなく『どうでもいい』境地だった。
そして、もうひとつ。
「やっぱその話はすべきだよなぁ…」
沼地の中心、円形ラグのうえでぼんやりしていると、インターホンがなった。
「おでましか~」
さて、あいつの選んだ食料は私の好みに合うかねぇ?まさか、酒なんてもってこないわよね?一応まだ私ら未成年なんだからねぇ。
気が利いたものは用意できるかな、あいつは。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる